新しい共通テーマ「氷」でAが書いた詩を投稿します。
デタッチメント
弟が生まれたら抱っこしたい
弟に勉強を教えてやりたい
弟と出かけて遊びたい
素朴な姉の望みを
害虫のように邪険に締め出さねばならなかった
赤ん坊の俺を抱こうとする幼稚園児の姉の腕から身を捩って脱出し
俺が苦手な勉強を教えたがる小学五年生の姉に教科書を投げつけ
家族旅行に行く途中の電車で隣に座る中学一年生の姉を押し退けた
喧嘩はやめなさい と母は言ったが
姉が喧嘩腰だったことはない
俺の姉を見る眼に
溶けない氷を埋め込んだのは母だ
父が死んで母は俺に頼りきりだ
俺を産んだときからそうしたかったのだ
姉が子供を連れて実家に身を寄せようとしたとき
断固として受け入れなかった母を 俺は肯定した
その母も死に 姉と縁を切り
独りになった俺の氷の眼球は
世界のすべてを冷たく射る
溶けない氷は一生溶けないのだ