湘南文芸TAK

逗子でフツーに暮らし詩を書いています。オリジナルの詩と地域と文学についてほぼ毎日アップ。現代詩を書くメンバー募集中。

場所の詩パート2

2016-12-11 01:54:52 | オリジナル
共通テーマ「場所」でAが書いた詩を投稿します。

薄められた場所

幽霊の父は私に甘く
弟に厳しかった
けれど
影のない存在から現実の棘を
弟が受け取ることはなかった
半世紀以上前の父の愛が
未だ私に届いていないのと同じだ

町を出る――
寂しく単純な理由は
邪魔者という役割だ
夢なんて
どの場所にも見ていなかった

町を出る――
そんなことに夢や希望を
見てしまう馬鹿と
姉を罵って
その場所に根をおろしている

お前の腐った安心感すら
私の羨望の対象だ

私が出て行った場所に
弟は四十年以上居る
その間に三人家族になり
四人と一匹になり
また三人に戻り
母親と二人になり
今は一人

私がいた十年は
弟の四十数年で薄められ
ほとんど消えているから
私は通行人のようだ
私の問いに答えは返らない

可能な限りの早口でさよならと言い
これ以上ない素早さで
弟の車を降りた
被害者の顔はしたくない
三十年前に出た町の駅から
急いで電車で逃げていく
弟もこれ以上ない素早さで
胎内をめざすように
ハンドルを切って
消えていった
コメント
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