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晴れ上がった空のように・・

日常の出来事や読んだ本の紹介

星々の舟

2006年04月25日 | 
星々の舟」は・・2003年第129回直木三十五賞受賞作です

私が今まで読んだ彼女の作品では、特に若い人向けのラブストーリーや、エッセイなど、明るくポップな印象が強かった・・ところがこの作品を読んで、作風から受けるイメージをガラリと変えてくれました

ある家族の物語が6編からなる短編で構成されていて、最後には一つの大きな物語としてまとまって見えてきます。

工務店を営む父、息子2人、腹違いの妹2人。そして、後妻の母。
この6人が織り成す、心震える感動のドラマ・・と言えばどこにでもあるような話ですが、なかなかどうして!禁断の兄妹の「恋」にはじまり、不倫に燃える末妹、団塊の世代の長兄は「生き場所や心のよりどころ」を模索し・・厳格で厳しい父親はじつは戦争で心に深い傷を負っていたのです 。

とにかく・・
切なかった

血のつながりがない、と思っていた兄妹がいつしか恋に落ち、ところが実は父親が同じであるという事実を知らされて、天国から一変して地獄に突き落とされたような絶望を味わうのです。兄は一人、狂ったように、逃げ出して、走って、走って、行き着いたところは北のくに・・小樽。
悲しみが伝わって、思わず目頭が熱くなりました・・

その後、二人は違った生き方をするんですが・・十数年して兄は家族の元に帰ってきます。でも、心の奥底には深い悲しみと愛情が渦巻いているのが良くわかります・・切ないですね。

父親の、今でも当時の夢をみてうなされるほどのおぞましい戦争での思い出。
20歳で中国の華中方面へ送り込まれたのですが、そこに設けられた、日本軍の「慰安所」で朝鮮人慰安婦「ヤエコ」と知り合うのです。

従軍慰安婦のことは、日本の戦争歴史に汚点を残す一つの事柄で、私たち日本人は真実も良く知らされていないことでもあります。タブーとされていた歴史なのです。
その様子が、とてもリアルで悲惨で、残酷で、怒りすら感じ、ショックをうけます。とにかく、筆舌に耐え難い・・

「幸せってなに?」
あとがきにかえて・・で作者がこの作品を書くにあたってのきっかけを紹介していました。
「幸せとは呼べぬ幸せも、あるのかもしれない」
作者がようやくたどり着いた感慨であり、気づきでもある。

読み終わって、感動の坩堝でしばらくの間、ぼんやりしてしまいました

自信をもって、お勧めの一冊です