いよいよ大坂冬の陣三連発です。クライマックスも近づき、この「真田太平記」の世界も完成に近づいた感がありますね。
このあたりを見ていてほんと感動するのは、なんていうか、それらしく言葉を飾ったセリフなんか必要ないところにきている、ということですね。ほとんど、気の利いたフレーズのセリフなんかは出てきません。死に臨んだ幸村の心中や、それを慮る信之の心境や、お江や佐助や佐平次や三九郎や角兵衛…たちの、ここに至ってのそれぞれの気持ち、なんかを表現するのに、言葉はむしろ不要なんですよ。背中、横顔、息遣い、眼。それだけで会話が成立するんです。凄いですね。ドラマも、つきつめればここまで出来るんだなあ!
というわけで、クライマックスにむけて登場人物それぞれの決意が眩しい、第36,37、38話を見ていきます。
第36話「真田丸」/第37話「冬の陣前夜」/第38話「大坂冬の陣」
慶長19年秋、いよいよ大坂攻めの陣容が整います。信之(渡瀬恒彦)は息子の信吉(早瀬亮)信正(森岡進)を出陣させ、上田城の留守番となりますが、そこに、義弟の滝川三九郎(三浦浩一)が訪ねて来ました。
じつは大御所様の使い番として江戸方で出陣することになった…という三九郎。ここでもまた兄弟親戚が敵味方になるのか…と複雑な信之に、「わたしは無理はしない主義ですので、使い番が気に入らなくなったらすぐ逃げます」と、あいかわらずノンシャランとした三九郎。「わしは自由に生きるそなたが羨ましい。勝てぬ戦に賭ける左衛門佐も羨ましい」と、不自由な身の不満がポロリともれる信之に、三九郎は「義兄上、ゆめゆめ徳川ごときに潰されてはなりませぬぞ」と真顔で言うのでした。
大坂に入城した幸村(草刈正雄)。軍議の席で、大坂城を出て淀川をバックに出戦を戦い、京都を占領するという豪快な作戦を披露。歴戦の武将たちや、秀頼(円谷浩)も眼を輝かせますが、大野修理(細川俊之)が、「あいや、出戦となるといろいろ問題が…」と歯切れがよくありません。そこへ淀君(岡田茉莉子)が登場し、出戦という作戦案を聞くと「とんでもない。城を打って出たら誰が右府様をお守りするのじゃ」と一瞬で却下してしまいます。「そういうわけで籠城と決しました、方がたご異存はござるまいな」と、シャンシャン総会状態で〆られて、幸村は硬直、武将達はドッチラケ、秀頼も無表情です。
これで完璧に勝ち目のなさを悟った幸村でしたが、九度山時代、暇つぶしに父・昌幸(丹波哲郎)と重ねたバーチャル軍議が甦ります。「わしならここ、城の南の総構えの外に出城を築く」といっていた昌幸の記憶に現実味を見出した幸村は、願い出て、大阪城の南の外に出丸をつくる許可を得ました。その名も真田丸。大阪城の南を縄張りしている後藤又兵衛(近藤洋介)とも協力し合います。
が、この真田丸を気に入らないのが大野修理なんですね。城の中には、出丸は徳川と内通する目的じゃないかと言う者もいる、真田の兄は徳川方だし…と、厭なことを又兵衛に吹き込んだりします。大阪城は堅牢で、その気になればいくらでも籠城していられるので、戦みたいなしんどいことをするより、籠城して、豊臣家に有利な条件で手打ちに持ち込むほうがいい。なので、戦う気まんまんの幸村のような存在は実は迷惑だったりするのです。
幸村も内心では、修理のそういう二枚舌に気づいており、大坂が勝つとも思っていません。そんな幸村のところに、上田を出奔した佐平次(木之元亮)が転がり込んできます。感動を隠せない幸村、そして、息子・佐助(中村橋之助)との再会…。このとき、佐助はほとんどなにも言葉にならないんですが、感慨無量というのが全身に溢れるようで、泣ける演技なんです。
大坂での決戦を前に、家康(中村梅ノ助)が上方入り。少ない供をつれ、わりと気楽にやってきた家康を、お江(遙くらら)と佐助にひきいられた真田の草の者が襲います。お江は、家康の輿を槍で貫くところまでいったのに、紙一重の差で討ちもらします。なんという強運! この失敗で、幸村は、暗殺などの手段はこれを最後に、家康との正面対決で玉砕を覚悟するのでした。
上田の信之にも、幸村が死ぬ気でいることは察せられ、何もできず動きの取れない自分を不甲斐無く思っています。が、妻の小松殿(紺野美紗子)は、「お前様は本心では大坂につき、左衛門佐様とともに戦いたいと思っていらっしゃる。でも、そうなさらず、いまこうしているお前様を、わたくしは良いと存じます…」とひかえめに励ますのでした。
☆☆☆
大坂城の思惑とは関係なく、真田丸は完成し、幸村は徳川軍を迎え撃つ態勢をととのえるわけです。そんなところに、あの角兵衛(榎木孝明)がフラッと…というかかなり強引に押しかけてきて、幸村の陣に加わりたいと懇願します。ほんとに何回繰り返したか、このパターン…。そして幸村も、「いままで何度も裏切られてきたが、切れないのが肉親の情というもの」と、角兵衛を受け容れます。
が、角兵衛は、徳川方の山中忍び・慈海和尚(福田豊土)の手駒として動いているんですね。その使命は、陣中で隙を見て幸村を暗殺すること。なにもかもハンパな男の角兵衛にそんな大仕事ができるとは思えませんが、甲賀の忍びの者が足軽に化けて真田丸に潜入し、見張りをしているわけです。
足軽や浪人などの寄せ集めの真田丸の兵隊を、角兵衛は鼻で笑ってバカにするのですが、彼らが幸村の前向きな求心力や、明るい性格などにひかれ、だんだんにまとまって精兵になっていくのをみているうち、角兵衛の顔つきが微妙にかわってきます。最初は、すぐにでも幸村を殺して男を見せるようなことを言ってたのですが…。
そんな真田丸は、大坂城を伺う家康にとってもぶきみな存在。家康は、ひそかに上田城の信之に密書をおくり、隠密行動で大坂に出て来いと呼び寄せます。その真意は…信之と幸村を対面させようというのですが、その意味するところを考え込む信之に、妻の小松殿は、しみじみと「お前様、その思案するお顔、後姿やしぐさなど、亡きお父上にそっくりでございます」と。いや、これがホント、顔とか芸風はちがうんだけど、似てるんですよ!幸村は幸村で似たとこがあるし。ときどき、見ているほうもジーンとしてしまう。
ついに、大坂の陣の前哨戦となる戦が開幕し、家康軍は大坂城外の砦を攻め始めますが、真田丸には手を出しません。そして、意外と精強な西軍の反撃に、家康の東軍は緒戦で敗北を喫してしまいます。
真田忍びたちは、戦で活気付く大坂の市内に女郎屋を営み、忍び宿として情報収集につとめています。大坂城に入ったお江たちとの繋ぎ役をし、徳川軍の動きなど報告しているのが、佐助の年上の恋人であるおくに(氾文雀)ですが、彼女のもたらした情報が真田丸を震撼させます。それは、淀君の叔父である織田右楽斎が、家康の陣にいって密談したというのですね。
もしや、淀君は家康と水面下で談合し、不戦のまま和睦するのでは。それは、幸村と真田忍びたちにとって最悪の予想なんですね。戦の結果がどうなるにしても、派手に戦い、真田の武勇を世に轟かせることが目的なんですから。お江は、人払いを頼んで幸村と二人きりになると、おそるべき作戦を耳打ちします。それは…「大坂城の獅子身中の虫・三匹を殺しまする。すなわち、織田右楽斎、大野修理、そして淀君」。むなしく死んだ又五郎や弥五兵衛や、だれよりも安房守昌幸の無念を晴らすため、和睦だけはあってはならない。「左衛門佐様、いかが」と迫るお江。が幸村は…。幸村は、ジッと深く考え、長い間のあと、小さく首をふるんですね。一言もなく。
この場面はすごかった。それだけで幸村の決意とか、お江の覚悟とか、そこにいたるふたりの膨大な思いの積み重ねとか、見えるんだもん。言葉いらないんだもん。もう息遣いだけで会話になる。ほんとにこのドラマ、すごいレベルにきたなあと思います。
暗殺とかの手段を取らないと決意した幸村に、お江はひとつだけ願い出ます。それは、最後の家康襲撃。あまりに不甲斐無い東軍を叱咤するため、家康自ら全軍を見回るという情報に、必死の思いの草の者達に、幸村は襲撃を許可します。ところが、家康は、側近の本多上野介(伊東達広)がほとんど命を張って制止するのに折れて、ギリギリで見回りを中止してしまうんですね。
またしても潰えた草の者たちの悲願…。ですが、これでかえって決心がつき、幸村は、全軍に下知します。「われわれだけで真田丸から討って出る」と。
☆☆☆
いよいよ本格的に徳川軍の攻撃がはじまり、場外に設けた出丸などはどんどん落とされて、その気が無くても籠城という状況になります。が、真田丸だけは無傷。このまま籠城し続けても埒が明かないと、幸村は大野修理に申し出て、真田丸に入っての抗戦を開始します。
幸村の下知で陽動作戦を展開し、、血の気の多い若い武将・本田政重(須藤正裕)を挑発した真田軍は、真田丸の至近までおびき寄せます。一軍が突出すると、「遅れてはならぬ」と連鎖反応をおこし、東軍の武将達は次々に出陣して真田丸に殺到。これをひきつけるだけひきつけると、草の者が仕掛けた爆薬と真田丸からの一斉射撃で、折り重なった敵軍はドミノ状に倒れ、大きな被害を出します。緊張の中にも不敵に笑いながら敵を翻弄していく幸村の顔、死んだ昌幸にソックリ!そして、赤備えの甲冑の男装で鉄砲を撃ちまくるお江が、ホレボレするほどカッコイイ!!
さらに敗走する敵の横腹を、大助(片岡孝太郎)と角兵衛の隊が襲い、猛襲をかけて敗走させます。この一戦で、真田家の武勇は天下に鳴り響きました。「真田真田真田!真田の名は二度と聞きとうない!!」とキレまくる将軍秀忠(中村梅雀)。
が、幸村ひとりの頑張りもどうにもならず、家康の下知で打ち掛けられた大砲が天守閣を直撃すると、城内はもろくも腰砕け。恐怖のあまり「和議じゃ、和議じゃ」と口走る淀君のパニック状態のなか、降伏と決定してしまうんですね。
かくして和議はなりました。そこには幸村にを愕然とさせる条文が。それは、「大坂城の濠を埋める」というものなんですね。濠を埋められては戦はできない、これが最後の機会だから、総攻めに打って出て徳川軍に勝負をかけようと、大野修理に迫る幸村。ですが修理の中では、濠を埋めるだけで和議が出来てオーライという気分があるわけです。武将としての矜持を問う幸村に、修理は、「わたしは総大将ではなく、豊臣家の家臣なんです!」と言い放ちます。わたしは豊家が存続するように算段するのが仕なんです。華々しく戦って玉砕すればよしというわけにはいかんのです!わかってください…と、ここの細川さんの喋りかた、あえて現代の事務屋ふうで、武将言葉でもないんですが、それが非常に効果的。ある意味真情を吐露した修理に、なにもいえない幸村でした。
大坂城にはいった徳川軍は、約束をやぶって、内濠までどんどん埋め始めます。話がちがうと抗議する修理に、「本来なら右大臣家は処刑されていたはず」とすごむ本田上野介。内濠を埋められ、真田丸も破壊されるのを眺めながら、敗戦を噛み締める幸村でした。
ひそかに上方入りしていた信之のところには、徳川方の忍び・慈海和尚がおとずれていました。幸村との会見をセッティングするので、徳川方に寝返るように説得するのがあんたの仕事だ、と。すごい上から目線で。依頼じゃなく、命令であり、恫喝なんですね。徳川の忍びにこんなに愚弄される信之…。
戦がすんで、幸村は大助とともに、甥の信吉・信正の陣屋をぶらっとたずねます。はじめての親族の邂逅に、カンゲキを隠せない若者たち。そこには三九郎もいるのですが、「また、敵味方であうことになりましょうな」と、サバサバと笑顔で語るがなんともいえない…。幸村は、ふたりの甥に言付けて、兄に「真田家の行く末を頼む」と言葉を送ります。
家康が大坂を去る日が来て、見送る大名達の中から、家康は特に信之を選んで言葉をかけます。こたびの戦はそなたには特にごくろうなことであった…と労わりのことばに、「こんごは諸事よろしく頼む」と、含みをもたせて去る家康…。幸村を説得して寝返らせるということなんですが、それがどう転ぶか、あるていど信之には予想がついてます。それは…。
(つづきます)
このあたりを見ていてほんと感動するのは、なんていうか、それらしく言葉を飾ったセリフなんか必要ないところにきている、ということですね。ほとんど、気の利いたフレーズのセリフなんかは出てきません。死に臨んだ幸村の心中や、それを慮る信之の心境や、お江や佐助や佐平次や三九郎や角兵衛…たちの、ここに至ってのそれぞれの気持ち、なんかを表現するのに、言葉はむしろ不要なんですよ。背中、横顔、息遣い、眼。それだけで会話が成立するんです。凄いですね。ドラマも、つきつめればここまで出来るんだなあ!
というわけで、クライマックスにむけて登場人物それぞれの決意が眩しい、第36,37、38話を見ていきます。
第36話「真田丸」/第37話「冬の陣前夜」/第38話「大坂冬の陣」
慶長19年秋、いよいよ大坂攻めの陣容が整います。信之(渡瀬恒彦)は息子の信吉(早瀬亮)信正(森岡進)を出陣させ、上田城の留守番となりますが、そこに、義弟の滝川三九郎(三浦浩一)が訪ねて来ました。
じつは大御所様の使い番として江戸方で出陣することになった…という三九郎。ここでもまた兄弟親戚が敵味方になるのか…と複雑な信之に、「わたしは無理はしない主義ですので、使い番が気に入らなくなったらすぐ逃げます」と、あいかわらずノンシャランとした三九郎。「わしは自由に生きるそなたが羨ましい。勝てぬ戦に賭ける左衛門佐も羨ましい」と、不自由な身の不満がポロリともれる信之に、三九郎は「義兄上、ゆめゆめ徳川ごときに潰されてはなりませぬぞ」と真顔で言うのでした。
大坂に入城した幸村(草刈正雄)。軍議の席で、大坂城を出て淀川をバックに出戦を戦い、京都を占領するという豪快な作戦を披露。歴戦の武将たちや、秀頼(円谷浩)も眼を輝かせますが、大野修理(細川俊之)が、「あいや、出戦となるといろいろ問題が…」と歯切れがよくありません。そこへ淀君(岡田茉莉子)が登場し、出戦という作戦案を聞くと「とんでもない。城を打って出たら誰が右府様をお守りするのじゃ」と一瞬で却下してしまいます。「そういうわけで籠城と決しました、方がたご異存はござるまいな」と、シャンシャン総会状態で〆られて、幸村は硬直、武将達はドッチラケ、秀頼も無表情です。
これで完璧に勝ち目のなさを悟った幸村でしたが、九度山時代、暇つぶしに父・昌幸(丹波哲郎)と重ねたバーチャル軍議が甦ります。「わしならここ、城の南の総構えの外に出城を築く」といっていた昌幸の記憶に現実味を見出した幸村は、願い出て、大阪城の南の外に出丸をつくる許可を得ました。その名も真田丸。大阪城の南を縄張りしている後藤又兵衛(近藤洋介)とも協力し合います。
が、この真田丸を気に入らないのが大野修理なんですね。城の中には、出丸は徳川と内通する目的じゃないかと言う者もいる、真田の兄は徳川方だし…と、厭なことを又兵衛に吹き込んだりします。大阪城は堅牢で、その気になればいくらでも籠城していられるので、戦みたいなしんどいことをするより、籠城して、豊臣家に有利な条件で手打ちに持ち込むほうがいい。なので、戦う気まんまんの幸村のような存在は実は迷惑だったりするのです。
幸村も内心では、修理のそういう二枚舌に気づいており、大坂が勝つとも思っていません。そんな幸村のところに、上田を出奔した佐平次(木之元亮)が転がり込んできます。感動を隠せない幸村、そして、息子・佐助(中村橋之助)との再会…。このとき、佐助はほとんどなにも言葉にならないんですが、感慨無量というのが全身に溢れるようで、泣ける演技なんです。
大坂での決戦を前に、家康(中村梅ノ助)が上方入り。少ない供をつれ、わりと気楽にやってきた家康を、お江(遙くらら)と佐助にひきいられた真田の草の者が襲います。お江は、家康の輿を槍で貫くところまでいったのに、紙一重の差で討ちもらします。なんという強運! この失敗で、幸村は、暗殺などの手段はこれを最後に、家康との正面対決で玉砕を覚悟するのでした。
上田の信之にも、幸村が死ぬ気でいることは察せられ、何もできず動きの取れない自分を不甲斐無く思っています。が、妻の小松殿(紺野美紗子)は、「お前様は本心では大坂につき、左衛門佐様とともに戦いたいと思っていらっしゃる。でも、そうなさらず、いまこうしているお前様を、わたくしは良いと存じます…」とひかえめに励ますのでした。
☆☆☆
大坂城の思惑とは関係なく、真田丸は完成し、幸村は徳川軍を迎え撃つ態勢をととのえるわけです。そんなところに、あの角兵衛(榎木孝明)がフラッと…というかかなり強引に押しかけてきて、幸村の陣に加わりたいと懇願します。ほんとに何回繰り返したか、このパターン…。そして幸村も、「いままで何度も裏切られてきたが、切れないのが肉親の情というもの」と、角兵衛を受け容れます。
が、角兵衛は、徳川方の山中忍び・慈海和尚(福田豊土)の手駒として動いているんですね。その使命は、陣中で隙を見て幸村を暗殺すること。なにもかもハンパな男の角兵衛にそんな大仕事ができるとは思えませんが、甲賀の忍びの者が足軽に化けて真田丸に潜入し、見張りをしているわけです。
足軽や浪人などの寄せ集めの真田丸の兵隊を、角兵衛は鼻で笑ってバカにするのですが、彼らが幸村の前向きな求心力や、明るい性格などにひかれ、だんだんにまとまって精兵になっていくのをみているうち、角兵衛の顔つきが微妙にかわってきます。最初は、すぐにでも幸村を殺して男を見せるようなことを言ってたのですが…。
そんな真田丸は、大坂城を伺う家康にとってもぶきみな存在。家康は、ひそかに上田城の信之に密書をおくり、隠密行動で大坂に出て来いと呼び寄せます。その真意は…信之と幸村を対面させようというのですが、その意味するところを考え込む信之に、妻の小松殿は、しみじみと「お前様、その思案するお顔、後姿やしぐさなど、亡きお父上にそっくりでございます」と。いや、これがホント、顔とか芸風はちがうんだけど、似てるんですよ!幸村は幸村で似たとこがあるし。ときどき、見ているほうもジーンとしてしまう。
ついに、大坂の陣の前哨戦となる戦が開幕し、家康軍は大坂城外の砦を攻め始めますが、真田丸には手を出しません。そして、意外と精強な西軍の反撃に、家康の東軍は緒戦で敗北を喫してしまいます。
真田忍びたちは、戦で活気付く大坂の市内に女郎屋を営み、忍び宿として情報収集につとめています。大坂城に入ったお江たちとの繋ぎ役をし、徳川軍の動きなど報告しているのが、佐助の年上の恋人であるおくに(氾文雀)ですが、彼女のもたらした情報が真田丸を震撼させます。それは、淀君の叔父である織田右楽斎が、家康の陣にいって密談したというのですね。
もしや、淀君は家康と水面下で談合し、不戦のまま和睦するのでは。それは、幸村と真田忍びたちにとって最悪の予想なんですね。戦の結果がどうなるにしても、派手に戦い、真田の武勇を世に轟かせることが目的なんですから。お江は、人払いを頼んで幸村と二人きりになると、おそるべき作戦を耳打ちします。それは…「大坂城の獅子身中の虫・三匹を殺しまする。すなわち、織田右楽斎、大野修理、そして淀君」。むなしく死んだ又五郎や弥五兵衛や、だれよりも安房守昌幸の無念を晴らすため、和睦だけはあってはならない。「左衛門佐様、いかが」と迫るお江。が幸村は…。幸村は、ジッと深く考え、長い間のあと、小さく首をふるんですね。一言もなく。
この場面はすごかった。それだけで幸村の決意とか、お江の覚悟とか、そこにいたるふたりの膨大な思いの積み重ねとか、見えるんだもん。言葉いらないんだもん。もう息遣いだけで会話になる。ほんとにこのドラマ、すごいレベルにきたなあと思います。
暗殺とかの手段を取らないと決意した幸村に、お江はひとつだけ願い出ます。それは、最後の家康襲撃。あまりに不甲斐無い東軍を叱咤するため、家康自ら全軍を見回るという情報に、必死の思いの草の者達に、幸村は襲撃を許可します。ところが、家康は、側近の本多上野介(伊東達広)がほとんど命を張って制止するのに折れて、ギリギリで見回りを中止してしまうんですね。
またしても潰えた草の者たちの悲願…。ですが、これでかえって決心がつき、幸村は、全軍に下知します。「われわれだけで真田丸から討って出る」と。
☆☆☆
いよいよ本格的に徳川軍の攻撃がはじまり、場外に設けた出丸などはどんどん落とされて、その気が無くても籠城という状況になります。が、真田丸だけは無傷。このまま籠城し続けても埒が明かないと、幸村は大野修理に申し出て、真田丸に入っての抗戦を開始します。
幸村の下知で陽動作戦を展開し、、血の気の多い若い武将・本田政重(須藤正裕)を挑発した真田軍は、真田丸の至近までおびき寄せます。一軍が突出すると、「遅れてはならぬ」と連鎖反応をおこし、東軍の武将達は次々に出陣して真田丸に殺到。これをひきつけるだけひきつけると、草の者が仕掛けた爆薬と真田丸からの一斉射撃で、折り重なった敵軍はドミノ状に倒れ、大きな被害を出します。緊張の中にも不敵に笑いながら敵を翻弄していく幸村の顔、死んだ昌幸にソックリ!そして、赤備えの甲冑の男装で鉄砲を撃ちまくるお江が、ホレボレするほどカッコイイ!!
さらに敗走する敵の横腹を、大助(片岡孝太郎)と角兵衛の隊が襲い、猛襲をかけて敗走させます。この一戦で、真田家の武勇は天下に鳴り響きました。「真田真田真田!真田の名は二度と聞きとうない!!」とキレまくる将軍秀忠(中村梅雀)。
が、幸村ひとりの頑張りもどうにもならず、家康の下知で打ち掛けられた大砲が天守閣を直撃すると、城内はもろくも腰砕け。恐怖のあまり「和議じゃ、和議じゃ」と口走る淀君のパニック状態のなか、降伏と決定してしまうんですね。
かくして和議はなりました。そこには幸村にを愕然とさせる条文が。それは、「大坂城の濠を埋める」というものなんですね。濠を埋められては戦はできない、これが最後の機会だから、総攻めに打って出て徳川軍に勝負をかけようと、大野修理に迫る幸村。ですが修理の中では、濠を埋めるだけで和議が出来てオーライという気分があるわけです。武将としての矜持を問う幸村に、修理は、「わたしは総大将ではなく、豊臣家の家臣なんです!」と言い放ちます。わたしは豊家が存続するように算段するのが仕なんです。華々しく戦って玉砕すればよしというわけにはいかんのです!わかってください…と、ここの細川さんの喋りかた、あえて現代の事務屋ふうで、武将言葉でもないんですが、それが非常に効果的。ある意味真情を吐露した修理に、なにもいえない幸村でした。
大坂城にはいった徳川軍は、約束をやぶって、内濠までどんどん埋め始めます。話がちがうと抗議する修理に、「本来なら右大臣家は処刑されていたはず」とすごむ本田上野介。内濠を埋められ、真田丸も破壊されるのを眺めながら、敗戦を噛み締める幸村でした。
ひそかに上方入りしていた信之のところには、徳川方の忍び・慈海和尚がおとずれていました。幸村との会見をセッティングするので、徳川方に寝返るように説得するのがあんたの仕事だ、と。すごい上から目線で。依頼じゃなく、命令であり、恫喝なんですね。徳川の忍びにこんなに愚弄される信之…。
戦がすんで、幸村は大助とともに、甥の信吉・信正の陣屋をぶらっとたずねます。はじめての親族の邂逅に、カンゲキを隠せない若者たち。そこには三九郎もいるのですが、「また、敵味方であうことになりましょうな」と、サバサバと笑顔で語るがなんともいえない…。幸村は、ふたりの甥に言付けて、兄に「真田家の行く末を頼む」と言葉を送ります。
家康が大坂を去る日が来て、見送る大名達の中から、家康は特に信之を選んで言葉をかけます。こたびの戦はそなたには特にごくろうなことであった…と労わりのことばに、「こんごは諸事よろしく頼む」と、含みをもたせて去る家康…。幸村を説得して寝返らせるということなんですが、それがどう転ぶか、あるていど信之には予想がついてます。それは…。
(つづきます)
江なのだと思います。男にとっては、「理想の女」かもしれません。
「草の者」としての格好良さと幸村の想い人としての愛らしさと両方を演じ切っていました。「日本一の兵」としての幸村が愛した必然性が判るような演技なのです。
真田の女忍びといえば、『風林火山』のときの「真瀬樹里・葉月」も、いい味が出ていたと思います。
比べてみれば、今年の「長澤・初音」は、厳しいです。何という落差か…。
お江はいいですよ! よくぞ遙くららという奇跡の素材を抜擢してくださったというかんじ!
池波さん好みの、ふくよかな母性を感じる美貌に、宝塚で鍛えた男のようにクールな目つきや身のこなし。宝塚のトップスターという特殊なオーラが、忍びの世界の浮世離れ感にピタリと重なる。手垢のついた女優には出せない純粋さ。ほんとに、こんな人よく居たなあ…と。
そうそう、真瀬樹里さんも、どことなく似たところがありましたよね。
初音は……キビシイなあ(笑)。