ゆいもあ亭【非】日常

映画や小説などのフィクション(非・日常)に関するブログ

ミッドナイトクロスの原題 BLOW OUT は破裂音。でも、Blow jobは……「あれ」、です。

2006-08-22 | 映画
ミッドナイトクロス」(BLOW OUT)。五本の指に数えたい、マイベスト。

ブライアン・デ・パルマ監督のスプリット・スクリーンとか、定点回転とか、もう、職人芸といわれるテクニックも美しいが、この筋立てが大好きなんだ。完全ネタバレで「映画」を再現します。(出演はジョン・トラボルタとナンシー・アレン。そして、ジョン・リスゴー)。


映画音響技師ジャック①

三流映画「血の浴槽(ブラッド・バス)」を迫力あるサウンドに満ちた作品とするため、「おいおい、ジャック。使い古しの音ばかりじゃないか! それに、あの娘はオッパイ目当てで雇ったんだ! 本人の悲鳴じゃあ、作品がダメになっちまう」という監督の勝手な言い種に、「あたらしい音」を求めてぼくは河畔の公園にやってきた。テレビでフィラデルフィアの「新しい自由の鐘」のお祝いと、そのパレードが近づいているというニュースをやっていたが、新しいってことはそんなにいいことかねぇ?



化粧品販売員サリー①

自分の頭がちょっと足りないかもしれない、なんてことは自分でもわかっている。映画産業でメイクアップ・アーティストとして働く夢を持っていたって、それも容易には叶わない。だからって、美人局紛いの仕事はうんざり。うんざりなの! それでも、近い将来の大統領候補から「お礼」をいただくということは……将来に向かっていい記念かも知れない。



映画音響技師ジャック②

夜の音。木々の葉先が風に揺れてざわめく。囁き交わす恋人同士。呟くようなウシガエル。フクロウは、ウシガエルを獲物にするだろうか? あれは? 虫集く声? 違うな? カーブをスピードを緩めぬままやってきた自動車……バーン!……BlowOut!……ざぶりとそのまま河に没していく! 大変だ! 助けないと!



化粧品販売員サリー②

朦朧とする。あたし、どうなっちゃった? え? あなた誰? あなたが助けてくれたの? ジャック? じゃあ、もう一回助けてよ! だって上院議員は死んだのよ。こんな、病院になんかいられるわけがないじゃない!



美人局のカープ

こんなチャンスはたんとあるめぇ。「偶然」さね。新しいフィルムのテストだったのさ。そう、こんな事件を収めることができるなんざ、思いもよりゃしませんよ。はい、はい。お売りしますよ。明日の発売ですか。特集号! そりゃあ、上院議員悲劇の事故死の瞬間を連続写真で掲載できるんだから、たんと弾んでいただけるんでしょうな……。



映画音響技師ジャック③

この写真を……連続で……ぼくの録音テープ、あの銃撃・破裂音と合わせることが出来れば……。そうだ、こうして、ひとコマずつアニメーション台で撮影すれば……そう、思ったとおりだ!



化粧品販売員サリー③

あたし、あの人たちにお金をもらって、列車に乗って街を出るつもりだった。それなのに、ジャックに捕まっちゃった。わかったわよ。あんた、そもそも映画の音響担当とか言ってるけどさ、どんな素性の主なのよ? きちんと話してみてよ!



映画音響技師ジャック④

ラジオやステレオいじって幸せなヤツっているよな。ぼくはそうだった。で、そういう学校から、因果にも警察勤め。いやいや。警官そのものじゃない。キーン委員会。悪徳警官の証拠を暴く役割。そう。仲間の警官にワイヤーって、バッテリと通信機を素肌に貼り付けて、音トバして録音して……。マフィア強請って儲けてると噂の野郎が、上手いこと囀りだした途端、ワイヤーからノイズが聞こえ出したんだ。ぼくのドジさ。絶縁を忘れた! 仲間は慌ててトイレに駆け込んだが、そこで無惨にも首括りにされちまったのさ。二度と繰り返したくない、ドジだ。だから、こんな仕事していても、ひとの都合で嘘を塗りたくられて捻じ曲げられるのは本当にゴメンなんだ。



狂信的暗殺者バーク

フザケやがって! 馬鹿娘に若造と、強請り屋か。フィルムと録音テープは消し去るとも。そしてあの馬鹿娘は、そう、ブロンドばかりを狙う連続殺人鬼の犠牲という筋書き。自由の日の絞殺魔(ストラングラー)、自由の鐘を犠牲者の腹にアイスピックで刻み付ける……。なかなか、愉快な着想じゃないか!



《さすがにちょっと端折りましょうね。》



化粧品販売員サリー④

ねえ。ジャック。これが終わったらサ。ニューヨークに行こう! ミュージカルを見ようよ。タイムズ・スクエアかあ、いいなぁ。ねえ、ちゃんと聞いてる?



映画音響技師ジャック⑤

おい。今ワイヤーで拾った声! テレビキャスターだと? ぜんぜん違う声じゃないか。おい、どこへ連れて行く気だ! ……畜生! 電車が出ちまった! こうなったら車で……。花火の見える場所? おい! 「自由の鐘のパレード」だと! どけ! どいてくれ! ああ、避けられない! ショウウインドゥに突っ込んじまう! そして……暗転。



映画音響技師ジャック⑥

酷い頭痛に目覚めてみると、あたりはもう暗い! (「間に合うのか、トラボルタ!」公開当時の惹句) 花火が始まる! そして、「ああ、ジャック! ジャック、助けて!」サリーの悲鳴が聞こえる。花火の反響! 近い! しやぁぁぁぁーきぃっ。これは、虫集く声? イヤ、違う。あそこだ! ああ、サリーが! 畜生! 間に合ってくれ!



自由の信奉者バーク

さてさて。リバティ・ベルが間もなく鳴る。おれの頭の上で鳴り響く。馬鹿娘にも自由の鐘を刻んでやろう!



映画音響技師ジャック⑦

その殺人鬼の腕を、そのまま力いっぱい本人の腹に振り下ろして、振り下ろして、振り下ろして……。
ああ、サリー。間に合わなかった。ぼくは、また、取り返せない罪を重ねた。重ねて、しまった。



そして信念のホラー監督と「血の浴槽」クライマックス・シーン

バスタブに立ついいオッパイの娘。肉切り包丁が振り上げられて「ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ」! 迫真の悲鳴じゃないか! おい、やっったな、ジャック。凄ぇ、いい悲鳴だ。



映画音響技師、そして人間ジャック⑧

そう。いい悲鳴だ。
歯噛みして、耳を閉ざしても、耳の奥から蘇ってくるほど、……いい悲鳴だ。


《暗転。エンドクレジット》


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ここまでネタバレしても、未見ならぜひご覧なさい。ピーノ・ドナッジョの音楽も胸に染みます。とにかく必見!