わたしたちの洋書の森

「洋書の森」のとっておきの話をご紹介

「夏の翻訳文化祭 2017」レポートPartⅡ

2017年08月29日 16時53分06秒 | 魔女のソフィー

魔女のソフィーです。

8月19日、26日と2週にわたって「夏の翻訳文化祭」が開催されました。洋書の森にとっては初めての試みでしたが、参加してくださった皆さんがとても楽しそうにしている姿を見て、スタッフ一同ほっと胸をなで下ろしました。でも誰よりも楽しんでいたのはこの私だったかもしれません。講師の方々は皆さん魅力にあふれ、あれから2週間ほどたった今も、なんて幸せなひとときだったのだろうと思い出すくらい充実した2日間でした。私からは、26日に行われた翻訳家のお二方の講演についてご報告します。

まずは夏目大さんの講演について。

これまで数多くのノンフィクションを訳されてきた夏目さんが、初めて手がけられたフィクション『6時27分発の電車に乗って、僕は本を読む』について話してくださいました。この本を訳すにあたった経緯や、訳すうえで工夫した点などを語ってくださったのですが、意外だったのは、「フィクションもノンフィクションもあまり変わりはない。難しいのは何でも一緒なので、苦労は一緒」というお言葉でした。続いてのお話は、出版翻訳者になるまでの道のりについて。英文科出身だから文学の翻訳が向いているのではと思ったけど、コンピューターの会社で勤めていた経験を活かしたほうがいいかと考え、縁もあってプログラミング言語の訳書でデビューを果たしたが、それから20年かかってようやく文学の訳書を出すことができたと感慨深げなご様子でした。夏目さんの絶妙なトークに終始笑いの絶えない講演でしたが、特に面白かったのは、「○○はできますか」と訊かれたら食い気味に「できます」と答える訓練をしたとのお話です。これならすぐにでも実践できそうですね。

そして、今年の2月にもご登壇いただいた金原瑞人さんの講演について。

印刷や本の変遷から始まったかと思うと、図書館の歴史へと話題が移り、図書館には古い歴史があるが、19世紀から20世紀にかけて、児童書が多数出版されるのに合わせて初めて子ども室が設置されるようになり、日本では1990年代になってようやくYA(ヤングアダルト)コーナーができるようになったと語られ、それからはYA文学の変遷にまつわる話をご披露いただきました。そうして淀みなく語られる金原さんのお話に、参加者の皆さんは魔法にかかったかのように聞き入っていらっしゃいました。最後には、とにかく原書をたくさん読むこと、今は売れていないジャンルでも可能性があるからネットや書評雑誌などを通じて本を探すよう努めるといい、自分に合ういい本が必ずあるからと翻訳についてのアドバイスもしてくださいました。それと耳が痛かったのは、「日本語だけ読んで誤訳とわかるような誤訳をしてはいけない」とのお言葉です。肝に銘じておかなくては! お話が終わった後には参加者からの質問も活発に出て、共訳から詩の翻訳までさまざまな質問に快く答えてくださいました。

講演終了後にはお楽しみの交流会が開かれ、講師の皆さんも進んで参加者の輪に加わって、気さくにお話ししてくださいました。宴もたけなわの中、「そろそろ失礼します」とおっしゃる金原さんをスタッフが慌てて全力で引き留め、皆さんそろって恒例の記念撮影を行い、「夏の翻訳文化祭」は無事に幕を閉じました。 講師の皆さん、ご参加いただいた方々、そして事務局の皆さん、ほんとうにありがとうございました。皆さんのおかげでこんな夢のような企画が実現しました。いつか「秋の翻訳文化祭」もできたらいいなあ、と私たち魔女と魔王の夢はまだまだ続きます……。98日改)


「夏の翻訳文化祭2017」Part I 懇親会編

2017年08月23日 09時23分03秒 | 魔女のポーシャ

洋書の森が初めて企画した文化祭の初日が無事に終わりました。講座3本に懇親会、朝10時から夜7時まで(スタッフは朝9時から夜遅くまで?)、洋書の森としては初めての、丸々一日の企画。参加者のみなさん、いかがでしたでしょうか。

あまりかしこまらず、お勉強っぽくせず、翻訳の世界をいろいろな観点から見てみよう、というコンセプトなので、机を使わないシアター形式で会場を準備しました。講師と対話するような近さも感じられます。


 (準備中の会場)

 

3つの講座については、魔女の「きのっぴー」のレポートをお読みください。

http://blog.goo.ne.jp/youshonomori/e/37e491762b23a8b7679da69aaf1d364a

ここでは懇親会での講師のみなさんの様子を少し。

 

始まる前、早川書房の山口晶さんの前に名刺交換の行列ができました! 編集者と知り合うにはこういう集まりが大事だ、と講座で聞けば当然の光景ですね。いただいた名刺は宝物、なんて思う翻訳者もいたかもしれません。ところで、懇親会中もずっと翻訳者たちの話し相手になってくださった山口さん。編集者は体力が要る、ともおっしゃっていたけれど、こういうときも含めてかな。しっかり召し上がっていただけたかしら? 

井口耕二さんと同じテーブルになったとき、入力で使い過ぎて指が痛い、と言ったら、指には筋肉がない、という話に。知る人ぞ知るアスリートですから、身体の構造についても詳しいのです。次回のテーマは「翻訳以前の(椅子等の)環境以前の身体のメンテ」? 井口さんは乾杯のご挨拶で、出版翻訳者が集まる会として洋書の森を評価してくださいました。来年神保町に移転した後も、ずっとお付き合いくださいませ。

   

そして松丸さとみさん。この日は講師だけでなく山口さんの講座の司会としても大活躍でした。懇親会を閉めるときのご挨拶が強く印象に残っています。「口角をあげて、元気に前向きに進みましょう」。元気印の松丸さんらしいご挨拶に、はい、次、行ってみよう! という気になれました。


 

最後にみんなで記念撮影(みんな、いい顔してるでしょ?)。講師のみなさん、参加者のみなさん、ありがとうございました。


 


「夏の翻訳文化祭2017」レポートPart I

2017年08月22日 09時35分45秒 | 魔女のきのっぴー

魔女の「きのっぴー」です。

19日(土曜日)は洋書の森の「夏の翻訳文化祭」、お手伝いといいながらしっかり参加し、楽しんできました。予想以上の充実ぶりに感嘆です。

1限目の講師は松丸さとみさん。エリザベス2世女王とトランプ米大統領の英語を比較し、要所要所で動画を入れてわかりやすく英語と米語の違いを語ってくださいました。それだけでなく、米語と英語の歴史や今後の展望についても、ご自身の経験など身近な視点で話してくださり、大変興味深い講義でした。何よりも、イギリス愛にあふれるとても魅力的な語り口に、会場の皆さんも引き込まれていたのを肌で感じました。彼女とはお友達としても親しくしていますが、つき合うほどに多才な(多彩な)面を見せてくれて、ほんとうに素敵なひとです。

2限目の講師は、早川書房の編集本部本部長、山口晶さん。事前に受講者から寄せられていた質問にお答えいただく形式でした。質問も回答もかなり具体的で、例えば「リーディングや持ち込みはどのようにすればいいのか」→「持ち込み企画は会社というよりも編集者個人で受けていることなので」(中略)「編集者と知り合うのも一手。編集者も訳者の人となりを知っていれば信頼度が高まる。出版関係の集まりや読書会に積極的に参加するのもいいのではないでしょうか」(この通りの言葉ではなかったと思いますが。)などなど。他にも緊急案件で3週間で仕上げた本の話など、具体的な書名や訳者名を出して話してくださったので、お話にどれも説得力がありました。ふだんあまり聞けないお話が聞けて喜んだ翻訳者がたくさんいたのではないでしょうか。

3限目の講師は、井口耕二さん。今回のお題は「翻訳環境あれこれ」。文字通り、井口さんご自身がお使いになっている椅子やディスプレイ、キーボード、マウスなどのハード面から、入力の工夫やミスを防ぐための方策などのソフト面に至るまで、実物の写真を見せながら具体的にお話ししてくださいました(個人的には猫ちゃんつきのキーボードがお気に入り)多忙なスケジュールを管理し、仕事の質を保つために実に様々な工夫を常日頃からしていらっしゃることがわかり、やはり一流の方は、一歩先を読みながらこういう地道な作業をきちんと続けているのだなあと、改めて感じ入りました。

一日を終えて感じたのは、やはりお三方の仕事に対する愛と前向きな姿勢でしょうか。それと、自分の立ち位置を確かめながらも常に2、3歩先を見ている。これ、当たり前のようだけれど実はかなり難しいのでは。少なくとも私はすぐ忘れて、目先のことであっぷあっぷしてしまいます。せっかくこんな魅力的な方々のお話を聞くことができたのだから、自分もきちんと成長しよう!と、前向きな姿勢だけは取りえである私は思ったのでした。

講師の皆様、参加者の皆さま、充実した1日をほんとうにありがとうございました。26日にも、これまた魅力的な講師の方々をお迎えして第2弾が開かれます。まだ申し込み可らしいので、気になっている方はどうぞ!


「夏の翻訳文化祭2017」予習その2、午後の部

2017年08月02日 12時48分38秒 | 魔女のポーシャ

8月19日、26日に開催される出版翻訳のための文化祭。こんな話が聞けるという予習その2です。

【8月19日(土)】

講演2  13:00-14:30

『現役編集長に聞いてみよう一問一答』

講師:早川書房編集本部長 山口晶氏

出版翻訳に欠かせない存在、それが出版社であり編集者。これが洋書の森に集う翻訳者の一番の苦労の種です。とくに、最初の一冊を出すまでがたいへん! どうやって編集者と知り合いになればいいの? レジュメを書いて送ってしまえ、と言われるけれど、そんなことして失礼な奴だ、と思われない? いきなり編集部に電話するなんて、そんなに神経太くないし。でもこのハードルを越えなければ、翻訳者デビューは無理なのです。ではどうしたらいいのでしょう? スタッフの中に現役編集長山口さんを知っている人がいたので、その縁で来ていただくことになりました。せっかくの機会です、ぜひ山口さんにあなたの率直な疑問・困りごとなどを聞いてみましょう。質疑応答で作る90分。みなさんが主役です。なお、事前に質問を受け付けます。↓のアンケートフォームに記入してお送りください。もちろん、当日、その場での質問も大歓迎!

https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSeWzQpg3g0HU8Cq0dG5G4k8JzRKYgGKrP8sgF4w3CNeJWkr1Q/viewform

*山口さんが手がけた作品の一部を紹介します。

カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』

ジョージ・オーウェル『一九八四年〔新訳版〕』

デイヴィッド・ゴードン『二流小説家』

ジョン・ハート『川は静かに流れ』『ラスト・チャイルド』

ダニエル・カーネマン『ファスト&スロー』

アンドリュー・ロス・ソーキン『リーマン・ショック・コンフィデンシャル』

クリス・カイル『アメリカン・スナイパー』

 

講演3  15:00-16:30

『翻訳環境あれこれ』

講師:翻訳家 井口耕二氏

2015年の洋書の森のウィークエンドスキルアップ講座で、大ベストセラーの『スティーブ・ジョブズ』(講談社、2011年)が誕生するまでの経緯に沿って、ノンフィクションの作業の進め方を披露した井口さん。

http://blog.goo.ne.jp/youshonomori/e/19ba49053cd5068a4fe9e483c04a922b

実務翻訳と出版翻訳の超人的な二足のわらじ状態を支えるのが、さまざまなツールだそうです。でもポーシャが思いつくのは辞書ツールだけ。他にはどんな便利ツールがあるんだろう。この講演がきっかけになって、仕事の効率化と正確さが期待できるツール使いに変身する人もいるかもしれませんね。井口さんのブログは↓

http://buckeye.way-nifty.com/

 

【8月26日(土)】

講演2  13:00-14:30

『出版翻訳の未来のために―翻訳者ができること、編集者ができること』

講師:三省堂編集者 小野寺粛氏

本が売れない、と言われて久しい。さらに今まで継続的に翻訳の依頼があったのに、最近はちょっと…、というベテラン翻訳者の話も時折耳にします。一方で、好きなジャンルの原書を数多くあたって、熱意を持って編集者に売り込んで、そうして次々と良書を世に出す翻訳者もいます。出版社も売れる本を探して必死です。これから出版翻訳でデビューしたい人、2冊目3冊目を考えている人、小野寺さんの話を聞いて、何をしたらいいか、考えてみませんか。実は小野寺さん、編集者だけでなく、翻訳者としての顔も持っています。つまりわたしたちにとって、出版社の事情に詳しい仲間。わたしたち翻訳者が承知しておくべきことをそっと教えてくれる、と期待しています。

 小野寺粛さんって?と思った人は日本翻訳ジャーナルの下のページをご覧ください。ピアニストという顔も持っているんですよ!

http://journal.jtf.jp/column18/id=371

 

講演3  15:00-16:30

『ちょっと多忙だった、5月の仕事のスケジュール。翻訳2本+その他』

講師:翻訳家 金原瑞人氏

ヤングアダルトのジャンルが好きな人で金原さんの名まえを知らない人はいないでしょう。それくらいたくさんの訳書が出ています。7月現在、500冊を超えました! 詳細は金原さんの公式ホームページ↓をご覧ください。

http://www.kanehara.jp/

いつも思うのですが、先生はいったいいつ寝ているんでしょう。大学の先生、翻訳家、後進の指導、講演・セミナー等……。一日24時間では足りない気がします。時間の配分や仕事の配分、そのあたりも聞いてみたいな。

 

19日、26日両日とも、2限目は「出版社・編集者」枠、3限目は「超人的翻訳者」枠。2限目の講師から愛ある厳しいダメ出しとアドバイスをいただき、3限目の講師から真似できるところを探しましょう。詳細、申し込みはこちらへ↓

http://www.shuppan-club.jp/?attachment_id=1166