わたしたちの洋書の森

「洋書の森」のとっておきの話をご紹介

宮脇教室開催のお知らせ(事務局より)~第23回 翻訳者のためのウィークエンドスキルアップ講座~

2016年07月29日 09時17分24秒 | 魔女のポーシャ

みなさまお待ちかね!宮脇教室、1年2ヶ月ぶりの開講です!5限目となる今回は、基本の“き”である“単語”にスポットをあてて講義を進めます。

“corn”という単語を見て即座に“トウモロコシ”と訳したあなた。本当にその訳語で大丈夫ですか?

課題文に挑戦しながら改めて単語の意味を調べてみて下さい。情景が浮かばない訳文は、どこかで誤訳しているのかも…。

即日満員必至の講座です。お申込はお早めに!!

宮脇教室5限目「基本にかえれ」単語編 ―― cornはトウモロコシ?

日時/平成28年8月20日(土)15:00~17:00(受付は14:30~)

講師/宮脇孝雄氏(翻訳家・随筆家)

講義内容/提出していただいた課題文の翻訳を見ながら解説を進めます。

 Ⅰ.課題文の添削指導=提出締切は8月10日(水)15時・「洋書の森」宛てメール必着(参加申込受付確認後にお送り下さい。)

 Ⅱ.質疑応答

*内容詳細・課題文は日本出版クラブHP内・セミナー&イベント情報(下記URL参照)、「洋書の森」FB(いずれも間もなくUP予定)をご覧下さい。

会場/日本出版クラブ会館(新宿区袋町6番地)

会費/2,100円+資料代100円=計2,200円(当日支払) 

定員/80名(申込み順、定員になり次第締切。「洋書の森」未会員の方も大歓迎!)

★講座終了後、17時30分頃より会館1F・ローズレストランにて講師を囲んでの交流会を行います。

参加ご希望の方は併せてお申込下さい。(会費別途/3,200円)

※申込方法/下記「洋書の森」宛にお名前、洋書の森会員番号(会員の方)、連絡先電話番号、メールアドレスを明記して“8/20(講座のみ or 講座・交流会とも)参加希望”とメールして下さい。お申し込みいただいた方には折り返し“受け付けました”と返信いたします。数日経っても返信のない場合はお手数ですが、お電話等でお問い合わせ下さい。(金曜夕方~日曜・祝日、8/10夕方~8/16にお申込みの方には返信が休日明けとなりますのでご了承下さい。)

また、お申込み後ご都合の悪くなられた方は、お早めにご連絡下さい。前々日(8/18)正午までにご連絡なくキャンセルされた場合、会費を頂戴する場合もございますのでご注意下さい。 


*********************************
一般財団法人日本出版クラブ
「洋書の森」事務局
(土、日、祝日を除く9時~19時)
〒162-0828
東京都新宿区袋町6番地
TEL   03-3260-5271
FAX   03-3267-6095
Mail  yousho@shuppan-club.jp
URL   http://www.shuppan-club.jp/
*********************************


【洋書の森会員の新刊紹介】2016・7・25

2016年07月24日 08時08分43秒 | 魔女のポーシャ

フランス語の翻訳者、土居佳代子さんの訳書を紹介します。
2015年11月のパリ同時多発テロ事件で「最愛の人を奪った彼らに、自分の憎しみも17カ月になる息子メルヴィルの憎しみも与えない、と宣言」したジャーナリストの著書です。

 

『ぼくは君たちを憎まないことにした』
アントワーヌ・レリス著 土居佳代子訳
ポプラ社 2016年6月20日発売

http://www.poplar.co.jp/shop/shosai.php?shosekicode=80080690


内容紹介:

…レリスは自分に問い続ける。大好きなママがいなくなった事件のことを息子にどう伝えるべきなのか。「非難すべき相手がいること、怒りをぶつける相手がいることで、半開きになったドアからすり抜けるように、苦悩を少しでもかわすことができるかもしれない」。だが、彼はそうしない。苦悩をありのままに受け止め、テロリストたちに「憎しみを贈ることはしない」と宣言する。最愛の妻の心を胸に、悲しみや苦悩とむきあい、自分と息子の人生を歩み続けようとする。けれど、心は動く。……フェイスブックに書いた言葉は本心でも、そこから逃げたくなることもある。しかし、だからこそ、自分の心の中に旗を立て、みずからを鼓舞して負けまいと生きていくのだろう。不幸な出来事が続き、世界が不信と暴力に傾いていこうとする時に、この本に込められた勇気は、私たちの胸に灯をともしてくれる。その希望を一人でも多くの人と分かち合えたらと願っている。(訳者あとがきより)


第22回 翻訳者のためのウィークエンドスキルアップ講座「私の三人の先生――技術はプロ、心は素人」

2016年07月04日 10時31分10秒 | 魔女のジュリー

第22回 翻訳者のためのウィークエンドスキルアップ講座
講師/夏目大氏(翻訳家)
演題/私の三人の先生――技術はプロ、心は素人
日時/2016年6月18日午後3時~5時

6月18日、ウィークエンドスキルアップ講座「私の三人の先生――技術はプロ、心は素人」が開催されました。講師はノンフィクション作品の翻訳を数多く手がける夏目大さん。セミナー冒頭、夏目さんからこれから話す内容について、無理に結論を導いたりオチをつけたりしないでほしい、「目からウロコを落とさないでほしい」とのお願いがありました。というのも、「目からウロコを落とした人は、たいていすぐ拾ってつけなおす」から。ですので、このレポートも、極力オチをつけないように、できるだけ記録に徹してまとめてみたいと思います。

*****************

セミナーの前半は、「私にとっての三人の先生」というテーマで、夏目さんの翻訳人生を変えたきっかけをお話していただきました。

1人目の「先生」は、最初に就職したソフトウェア会社のO課長です。当時、夏目さんは日誌書きを担当していましたが、文章力にはちょっとした自信を持っていました。ところがある日、O課長に「夏目の書いた日誌は、何が書いてあるのかわからない」と指摘されてしまいました。その言葉に、「はたと気づいた」と言う夏目さん。技巧をこらしたきれいな文章を書こうという意識はあっても、何が言いたいのかわかるように書くという発想がなかったのです。以降、「読み手」を意識して文章を書くようになったそうです。

2人目は、同じ会社の同じ部署にいたA先輩。夏目さんは、英語がからっきしダメなA先輩のために、翻訳や通訳をしていました。A先輩はソフトウェアに関してはベテランで、当然あつかう文章の内容も専門性の高いもの。その翻訳をしていた夏目さんは、「ヨコのものをタテにしただけでは全然つうじない」ことに気づきました。この文章は何を言っているのか、それを自分で理解しなければ伝わる翻訳にならないのです。それに気づいてからは、たとえば専門性の高い日本語を英訳するときには、まず自分のわかる日本語に直してから翻訳する、というように、理解するための努力をするようになったのだとか。

A先輩をめぐっては、もうひとつ、はっとさせられるできごとがあったそうです。アメリカから来た技術者とA先輩との会話を通訳していたときのこと。最初は夏目さんが通訳していたのですが、言葉がわからないはずの2人なのに、いつのまにか通訳なしで会話が成立していたのです。コンピュータ用語の多くは、英語でも日本語でもだいたい同じ。キーワードになるコンピュータ用語が理解できるから、なんとなく話がつうじてしまう、というわけです。この経験から、細かいニュアンスよりも、だいたい何を言いたいのかという大筋を理解することが大切だと気づいた、と夏目さんは振り返っています。

3人(?)目の「先生」は、人間ではなく、ソフトウェアシステムです。あるシステムのマニュアルの翻訳をすることになった夏目さんですが、文章を読んでみても、何が書いてあるのかさっぱりわかりません。そこで、実際にシステムを使ってみてから読みなおしたところ、わからなかった文章がおもしろいように理解できたのだそうです。この経験から気づいたのは、文章を読んでその内容を理解しようとするのではなく、まず書かれている内容を理解してから文章を読めばするすると訳せる、ということ。それはコンピュータのマニュアルにかぎらず、ほかの分野でも同じです。まず「この文章を書いた人は何を見ていたのか」を考え、著者と同じものを見て、同じことを考えるようにすれば、それにふさわしい訳語が自然に出てくる、と夏目さんは言います。

夏目さんの3人の「先生」がすべて翻訳とは関係のない人(とモノ)だったというのは、興味ぶかいところです。また、そのときは特に気にかけていなかったのに、あとになって振り返ってみて、「あれがターニングポイントだった」と気づくパターンが多いとも語っていました。そのあたりは、セミナー冒頭の「無理に結論を引き出さない」という言葉にもつながるものがあるな、と感じました。

*****************

セミナー後半では、3人の受講生の訳文を例に、課題文の解説をしていただきました。解説のなかから、印象に残ったポイントをいくつかピックアップしてまとめています。

まず、2段落目「one of the noblest military victories in human history」の訳しかた。これは第二次大戦のアメリカの勝利をさしているのですが、この「noblest」をきちんと訳すには、この戦争に対するアメリカ人の一般的な心情を知っておく必要があります。アメリカ人にとって、第二次大戦は自由と正義のために戦って勝利した「理想の戦争」。特に90年代には、その勝利を持ち上げる風潮がありました。そうした背景を踏まえると、単なる「偉大」や「圧勝」では、「noblest」の訳語としてはやや言葉たらず。「正義」のニュアンスを感じられる訳語がほしいところです。

もうひとつ、印象に残ったのは、「道すがら」「当代きって」といった、一見ぴったりはまる「うまい」訳語には要注意、という指摘です。日本語の文章としてはこなれていてきれいでも、この手の訳語を使うときには、本当に前後の雰囲気にあっているのか、よくよく気をつける必要があるようです。夏目さんいわく、「ぴったりはまる日本語を探さない、見つかってもできるだけ使わない」。「言葉を言葉に置き換える」という意識で訳していると、どこかにひずみが出てしまう、ということでした。

2段落目「some of the era’s biggest celebrities」の訳しかたについても解説がありました。この「some (one) of + 最上級」という形は、よく出てくるわりに訳しにくいフレーズで、頭を悩ませた経験のある方も多いのではないでしょうか。自然な日本語にするためには工夫がいりますが、だからといって「うまく訳そう」と思うのではなく、まずは原点に立ち返って「そもそも何を意味しているのか」を考えてみる、というのが夏目さんのアドバイス。この例でいえば、「当時の人がみんな知っているような、すごく有名な人たち」というのが、だいたいの意味するところです。それを踏まえて訳語を考えれば、ふさわしい表現を見つけやすくなるはずです。

*****************

今回のセミナーでは、質疑応答の時間がいつもよりも長くとられましたが、それでも時間がたりないと感じるくらい、とても刺激的で充実した内容になりました。ここでは、そのうちのいくつかを紹介します。

まず、課題文2段落目の「its tone of self-effacement and humility」の訳例について。この文の「its」は文法的には「ラジオ番組」をさしますが、夏目さんの訳例では「彼ら(出演者)の誰もが」となっています。文法に沿った訳にしなくてもいいのでしょうか、という質問が出ました。それに対する夏目さんの回答は、文法はあくまでも英文の理解に必要なもので、かならずしも訳しかたを定義するものではない、というもの。文法にしばられずに、読み手に違和感をもたせない形の訳文を考えるほうがいい、と話していました。ちなみに、ここで番組ではなく出演者を主格としたのにはいくつか理由があるのですが、ひとつには「謙虚な番組」という表現を不自然に感じたから、とのことでした。

日本語を磨くにはどうしたらいいのでしょうか、という質問もありました。夏目さんいわく、日本語を磨こうと思うより、何を伝えたいかを理解するほうが大切、とのこと。美しい文章だからといって内容が伝わるとはかぎらないし、ヘンテコな言葉のほうがかえって伝わることもあります。翻訳で難しいのは、他人の言葉を理解して伝えなければならないという点。それをどこまで理解できるかが、日本語力よりも大切だと夏目さんは言います。そのための第一歩は、書かれている内容について、自分のなかの情報量を増やすこと。それができればおのずと伝わる訳文になる、ということでした。

*****************

ユーモアをまじえて、ときに脱線しながら進むお話に、2時間があっというまにすぎてしまいました。その後の交流会も大盛況。今回好評だった質疑応答を受けて、「全編質疑応答セミナー」という要望もちらほら出ていましたので、また夏目さんの自由で楽しいお話を聞けることを期待しています。 (洋書の森会員・梅田智世)