先週の土曜日、心待ちにしていたセミナーが開催されました。柴田元幸先生の「文学・音楽・翻訳――ボブ・ディランからはじめよう!」です。レコードのA面とB面になぞらえて、柴田先生はいくつもの作品を用意してくださっていました。それぞれ趣向をこらした語り口にすっかり魅了されました。
セミナーの後、大勢の方々がすばらしいレポートを書いてくださっています。そのなかから、今回は翻訳者の大光明宜孝さんと平野久美さんのレポートを紹介させていただきます。大光明さん、平野さん、洋書の森FBページへの掲載を快諾してくださって、本当にありがとうございました!
大光明宜孝さん FBより
***************************
6月3日、洋書の森のウィークエンドスキルアップ講座 第27回、柴田元幸先生の「ボブ・ディランからはじめよう」に参加してきました。
会場に着くと、なにやらリハーサル中とのことで、しばらく外で待つことに。どういう進行になるのか見当もつかず、期待がふくらみます。
司会の杉山さんから紹介されて登場した、驚くほどカジュアルなスタイルの柴田先生、すたすたと演壇まで駆け寄り、マイクを前にして、何の前置きもなく、いきなり朗読を始められます。「文学・音楽・翻訳 - ボブ・ディランからはじめよう」というタイトルの通り、最初はボブ・ディランの「やせっぽちのバラード/Ballad Of Thin Man」を流しながら、それに合わせての朗読です。いつもながら、先生の朗読は素晴らしいですね。
そのあと、少し解説してから、次はカズオ・イシグロの「The Unconsoled(充たされざる者)」に移ります。これはその一部が事前に配布されていて、少し解説したあと、英語で朗読しながら訳を付けていくもの。英文を追いながら訳を聞きながら、なるほど、なるほど、と感心するばかり。
さらにカズオ・イシグロのお気に入りジャズ・シンガー、Stacey Kentの「The Ice hotel」。プロジェクタで英語の歌詞を見せながら、それに合わせて訳文の朗読です。私はStacey Kent というシンガーを全く知らなかったのですが、家に帰ってもう一度聞いてみると、何だか好きになりそうです。Breakfast on the morning tramも。
次はJoseph Cornell のDime Store Alchemyで、コーネルの作品をいくつか見せながらの解説です。これも面白かった。
さらに詩の朗読(Emily’s Theme)や、ポーランドの作家ムロジェックの楽しい「象」のお話、ランディ・ニューマンの「Short People」などなど。
最後にスチュアート・ダイベックの「ファーウェル」の朗読が締めくくりで、とても盛りだくさんな内容でした。こういう講座は柴田先生だからこそできる、ユニークな試みだと思いました。とても得した気分です。ありがとうございました。
懇親会ではちゃっかりツーショットもお願いしてみました。Facebook等に出すのはダメということでここには出しませんが、良い記念になりました。洋書の森の魔女のみなさんもありがとうございました。
***************************
平野久美さん
***************************
今日の午後は洋書の森の「翻訳者のためのウィークエンドスキルアップ講座」へ。「ボブ・ディランからはじめよう!」と題した、柴田元幸先生の講演でした。
ボブ・ディランの歌はそれほどわからないけれども・・・と思いながら申し込んだのですが、ボブ・ディランばかりかもと思ったのは私の勘違いで、ボブ・ディランの歌から始まり、その他の作家の作品や歌の歌詞について、音楽と朗読と映像を組み合わせてお話いただきました。
柴田先生の朗読は新しい訳書が出た時のイベントなどで何度か聞かせていただいているのですが、そういう時は主に日本語の朗読。今回は翻訳者向けの講演だったので英語で朗読していただけて、とても嬉しかったです。柴田先生は、イギリス系の作家の作品はイギリス英語で、アメリカ系の作家の作品はアメリカ英語で朗読してくださるので本当にすごいのです。感動です。(と思っているという話を先生にもさせていただいたのですが、懇親会でご本人の前でみなさんにも力説してしまい、あとで恥ずかしくなりました。。。ちょうど乾杯したワインが回ってきたくらいだったのでお許しを。。。)
講演の内容は、その場にいないと雰囲気がわからないと思うのですが、最後の質問でちょっと印象的だったものを一つ書いておきます。
*翻訳をする時に、全体をじっくり読んで理解してから翻訳をするのですか?という質問への答は、そうではありません、とのこと。その場その場で内容を楽しみながら感覚で訳し、次に頭を使って原文と合っているかなどを検討し、さらにもう一度自分の感覚と外れてないか、気持ちいいものになっているかを見るのだそうです。そういう「頭」で訳す部分、「体(気持ちいい)」で訳す部分を交互にやっているけれども、「体」で訳せるようになるには英語(文法など)がよくわかっている方が余計なことを考えずに感覚でやりやすいのでは、と。
*↑に関連して、翻訳は返し縫いのような作業で(「頭」の作業と「体」の作業を交互にやるということを含む)、先に行くに従ってよくわかってきて、前に戻って直すことをよくやる。100%わからないと先に進まないということはない。
やはり単語も文法もきちんとしみこんでないと「体」の感覚的な翻訳は難しいですよね。その域に達してみたいです(などと言っていないで勉強しないとですね)。
**************
メモを読み直したので少し補足します。
カズオ・イシグロのThe Unconsoled(『充たされざる者』)は、ちょっとめちゃくちゃな展開なのですが、パロディーのようにカフカを意識しているような展開なのに、猿まねになっていないのは、カズオ・イシグロ独特の文体と展開のめちゃくちゃ加減との落差が読んでいる者に生々しさを感じさせるから、ということです。柴田先生は、カズオ・イシグロの本を2冊選べと言われたら『日の名残り』と『私を離さないで』を選ぶけれども、1冊と言われたら『充たされざる者』を選ぶそうです。
象のお話は、もう絶版のようですが、
文春文庫の『超短編小説・世界篇Sudden Fiction 2』(R・シャパード J・トーマス 編 柴田元幸 訳)におさめられています。お話をききながら面白そうな本なので購入しようとスマホでamazonにアクセスしたら、ほとんど送料のみ(1円)の本が何冊かあったのですが、「良」のものを購入しようとしたらカートに入らなくなっていました。会場で同じことを考えた方が買われたようです(笑)。結局もう少し高く買いました。
英語での朗読は、カズオ・イシグロをBritish English、スチュアート・タイベックをAmerican Englishで読んでくださって二度感動でした。
絵本の翻訳について質問が出たのですが、先生はあまり絵本を翻訳したことがない、とおっしゃりつつ名前があがっていたのが『ふつうに学校にいくふつうの日』。検索してみたら、これも音楽と関係ありそうで面白そうでした。
***************************