わたしたちの洋書の森

「洋書の森」のとっておきの話をご紹介

翻訳者のためのウィークエンドスキルアップ講座 第42回

2023年06月20日 07時39分15秒 | 魔女のきのっぴー

梅雨入り前にやって来た台風の影響も何とかおさまった6月3日(土)、第42回「翻訳者のためのウィークエンドスキルアップ講座」が開かれました。今回の講座の講師は、児童文学やYAの作品を数多く訳されている翻訳家の三辺律子先生です。オンラインでのウェビナー形式とあって、地球のあちこちから視聴してくださった受講者はなんと計149名。講座開始直後、続々と入室してくる受講者のお名前を拝見しながら、主催側も身が引き締まります。そんな中、登壇された三辺先生は終始笑顔を絶やさず、柔らかく、時に熱のこもった口調で、ご自身の体験や考えなどを語ってくださいました。

「三辺律子の翻訳の日々」というテーマにふさわしく、内容は、三辺先生が翻訳家になったいきさつ、これまで手掛けた仕事とその背景、それから翻訳と本に対して常日頃ご自身が抱いている思いなどです。事前の参考資料として、『基礎英語』のテキストと読売新聞に掲載されたエッセイ、そしてなんと訳書『かわいい子ランキング』のレジュメが受講者に配られました。レジュメの書き方に悩む翻訳者は多いもの。大いに参考になったのではないでしょうか。

そして、印象的だったのは「これは特に言っておきたいんですけど」と身を乗り出すように話してくださった言葉です。「今の時代、中学生とか高校生くらいから将来をきちんと決めて、それに向かって努力しなければ、という風潮があるように思います。でも、私はそうじゃなかった。そうじゃなくても、そのときどきでちゃんと好きなことを選んでいけば大丈夫!ってことをお伝えしたいんです」(大意)。若いうちから早く早くとせかされ、効率のよい方法ばかりがよしとされるような世の中ですが、この言葉に、(若くはない)私も思わず膝を打ちました。それに、先生は「運がよかった」という言葉も何度か使っていらっしゃいましたが、お話全体からは「これが好き」「これがやりたい」という気持ちを忘れずにひたむきに努力したからこそ、そうした運もめぐってきたのだということがわかります。

また、昨今の出版業界、翻訳業界の現状に関して憂慮していることにも触れてくださり、これに共感した方も多いのではないでしょうか。

受講者の方々から怒涛のように寄せられるチャットの数と、そこにつづられている熱い言葉に、皆さんの真剣さと情熱がひしひしと感じられ、胸が熱くなりました。

訳書の刊行続きでお忙しい中、すばらしい講義を届けてくださった三辺先生、全世界から参加し、真摯で温かいメッセージを送ってくださった受講者の皆様に、心から感謝いたします。

次回の「洋書の森 ウィークエンドスキルアップ講座」についても、スタッフ一同で話し合いを進めている最中です。楽しみにお待ちくださいね!


第39回「翻訳者のためのウィークエンドスキルアップ講座」レポート

2020年12月18日 13時37分17秒 | 魔女のきのっぴー

去る11月28日、第39回「翻訳者のためのウィークエンドスキルアップ講座」が開かれました。オンラインでの開催になって2回目、翻訳家の夏目大先生をお迎えした今回の講座は120名を超える方々のご参加をいただき、盛況のうちに終了しました。

本講座のテーマは「一人の訳者ができるまで」。2部構成とし、第1部は夏目先生が翻訳家になるまでのいきさつをダイジェストで振り返るトークライブ、第2部は実際に出版された『タコの心身問題』の一節を使った実践講座です。翻訳家になるまでの道は人それぞれ、いろいろなドラマが隠されていると思いますが、夏目先生の場合もたいへん波乱に富んでいて、ご本人の意思に加え、さまざまな偶然や人との出会いが絡み合って最終的に「翻訳家 夏目大」が誕生したのだなということを痛感しました。軽妙で優しく語りかけるような話しぶりと、翻訳に関して、また仕事に関して、ご本人が意図しないまでも時おり顔をのぞかせる強い信念に打たれ、いつしか夢中になって聞き入ってしまいました。

後半の実践講座では、あらかじめ数十名の方が訳文を提出してくださり、チャットも活用しながらほぼ双方向でのやり取りが実現しました。一つの言葉、一つの文に関する夏目先生からの解説に対して、受講生の方々から「私はこう感じました」「こうは考えられませんか」というような意見や質問も飛び交い、非常に活気あるものとなりました。

「書かれたとおり」に訳すのではなく、人に「どう読まれるか」を意識して訳すことを心がけている、そして、自分が読者として読みたい本を作りたいと思っているという夏目先生のお言葉は、ご本人が「ここは大切だからちゃんと伝えたい」とおっしゃっていたこと。受講生の皆様からの反響も、この点に関する共鳴が多かったようです。

対面式での講座がかなわない中ですが、不便な点をクリアして充実した講義をしてくださった夏目先生、そして逆にオンライン開催のメリットを生かして地球のあちこちから参加してくださった受講生の皆様に、あらためて感謝いたします。

年明け以降の講座については、新型コロナウイルスの感染状況を注視しながら慎重に開催を検討しております。決まり次第お知らせしますので、楽しみにお待ちくださいね!


クリスマス読書会、開催!

2020年11月11日 15時23分57秒 | 魔女のきのっぴー

洋書の森「おしゃべりサロン」主催のクリスマス読書会をオンラインで開催します。

課題図書は『夜ふけに読みたい神秘なアイルランドのおとぎ話』、日時は12月19日(土)14:00~16:30で、訳者さんも参加予定。参加費は500円前後です。



詳細は追ってお知らせしますが、人数限定のイベントですので予定を空けてお待ちくださいね!


☆神保町「ブックハウスカフェ」 サポーター制度について☆

2020年04月21日 14時59分02秒 | 魔女のきのっぴー

新型コロナウィルスの影響で、さまざまな活動が滞っていますが、皆さまお元気でお過ごしでしょうか。


さて、洋書の森で月に1度開催している「おしゃべりサロン」、しばらくお休みさせていただくことになりますが、このたび、いつもサロンに場所を提供してくださっている神保町の「ブックハウスカフェ」さんがサポーター制度を立ち上げたそうです。


https://www.bookhousecafe.jp/news/bhc_saporter/

 

皆さまのお力添えを頂ければたいへん嬉しく思います。よろしくお願いいたします。


【戦場のアリス』読書会募集開始です】

2019年09月20日 16時46分39秒 | 魔女のきのっぴー

お待たせしました!

先般お知らせした『戦場のアリス』の読書会の募集を開始します。
訳者の加藤洋子さんと担当編集者さんをゲストにお迎えしています。

■日時:11月2日(土)15:00~17:00(受付14:45~)
■場所:ブックハウスカフェ≪ガリバー≫(左奥の大きな部屋です)
   神保町駅A1出口徒歩1分
   地図:https://www.bookhousecafe.jp/shop/#access

■課題図書:『戦場のアリス』
      ケイト・クイン著 加藤洋子訳(ハーパーBOOKS)
■参加費:1,200円
■定員:20名
■募集期間:9月20日(木)~10月25日(金)
     (定員に達し次第、締め切ります)

■懇親会:読書会終了後、加藤さんを交えた懇親会を予定しています(会費別途5000円程度、会場は読書会会場の近辺です)。参加ご希望の方は、読書会と併せてお申し込みください。懇親会の詳細については、参加者に別途お知らせします。

■申し込み方法:「youshonomori@gmail.com」宛てに、お名前、連絡先電話番号、メールアドレスを明記し、「11/2(読書会のみ or 読書会・懇親会とも)参加希望」とメールしてください。お申し込みいただいた方には、折り返し「受け付けました」と返信いたします(返信が数日遅れる場合がございますが、ご容赦ください)。

■お問い合わせ先:youshonomori@gmail.com
※「おしゃべりサロン」スタッフ主催のため、出欠の受け付けや問い合わせは、日本出版クラブ事務局および会場のブックハウスカフェでは対応しておりません。ご連絡は、youshonomori@gmail.com宛てにお願いいたします。 

幹事:
梅田智世、北村みちよ、倉田真木、下田明子、鈴木豊雄、藤田優里子
(洋書の森ボランティアスタッフ)


「柴田元幸と翻訳を学ぶ・遊ぶ」レポート

2019年04月26日 15時18分19秒 | 魔女のきのっぴー

4月13日、第33回「翻訳者のためのウィークエンドスキルアップ講座」が開かれました。およそ1年間のお休みを経て、新装なった「出版クラブビル」での初めての講座は、こけら落としにふさわしく、大人気の柴田元幸先生による「柴田元幸と翻訳を学ぶ・遊ぶ」です。

講座は2部構成で、第1部は『翻訳教室』のライブ版。受講生が事前に任意で提出した訳文を先生が部分的に抽出し、書画カメラで写しながらリアルタイムで添削したり解説を加えたりする形式です。課題はNathaniel HawthorneのAmerican Notebooksからの一節で、A4にして1ページ弱の短いものでした。それでも、講義で取り上げられた10本前後の訳文はそれぞれにまったく異なり、あらためて翻訳というものの多様性、自由度を感じました。柴田先生は二葉亭四迷の翻訳論など(形式的に一致させるのではなく、内容を対応させるべきである)にも触れながら、書かれた時代とその風習などを考慮したうえで、英文との重みのバランスを常に考えて訳文を作ることの大切さを教えてくださいました。

また、「声に出して読んだときにすっと聞き手に伝わる訳文がいい」という言葉も印象に残りました。そしてこれは第2部の朗読にもつながります。朗読したのはWilliam S Burroughsの短編"The Junky's Christmas"の日本語版ですが、なんと白黒の無声アニメーション映像を流し、それに柴田先生が声を乗せていくというたいへん凝った趣向のものでした。

柴田先生の朗読には定評がありますが、このときはいつもにも増して参加者が引き込まれているのを肌で感じました。私自身も一言も聞き洩らしたくなくて、気づいたら息を止めていたほどです。完全に物語の世界に入りこみ、主人公の痛みや苦しみ、最後に感じる喜びと恍惚までも共有したような感覚に陥りました。

この後、James Robertsonの短編"The Inadequacy of Translation"の日本語版を朗読されましたが、そちらも特に翻訳者にとってはとても考えさせられる興味深い内容でした。

朗読を挟んだ質疑応答でも、受講生から非常に内容の濃い質問が寄せられたのに対し、先生が気軽に、かつ真摯に答えてくださるという場面が続き、時間をぎりぎりまで延長した充実の講座となりました。

講義に続いて近所の「サンコウエンチャイナ」で行われた懇親会には30名もの参加があり、柴田先生も各テーブルを回ってくださって、終始和やかな雰囲気でした。

120名に届くかという大勢の参加者の皆様、講師の柴田先生、「洋書の森」を支えてくださっている皆様にあらためて感謝いたします。

次回は7月6日(土)開催で、金子靖先生を講師にお迎えします。こちらも詳細が決まり次第ご連絡しますので、楽しみにお待ちくださいね!


原田さん、指定図書に

2018年09月18日 11時11分47秒 | 魔女のきのっぴー

毎日新聞主催の「第30回読書感想画中央コンクール」で、原田勝さんのご訳書『ヒトラーと暮らした少年』ジョン・ボイン著(あすなろ書房)が指定図書になっています。

「読書によって得た感動を自由に絵画に表現する」がテーマのこのコンクールでは、20歳以下の小・中・高生を対象に、読書の感想を絵で表現します。

応募者が自由に選ぶ自由図書の他に、主催者が指定する課題図書があり、その「中学校・高等学校の部」に、洋書の森で何度も講師としてご登壇いただいている原田勝さんのご訳書が入っているのです。

とても悲しいけれど胸を打つこの本、自分ならどの場面を絵にするだろう、そんな思いで読み返してみたくなりました。

会員の皆さまもどうぞお手に取ってみてくださいね。

詳細はこちらからどうぞ。
https://mainichi.jp/articles/20180904/ddm/012/040/078000c

また、「読書感想画中央コンクール」公式サイトはこちらです。合わせてご覧くださいね。
http://www.dokusyokansoubun.jp/kansouga/


「夏の翻訳文化祭2017」レポートPart I

2017年08月22日 09時35分45秒 | 魔女のきのっぴー

魔女の「きのっぴー」です。

19日(土曜日)は洋書の森の「夏の翻訳文化祭」、お手伝いといいながらしっかり参加し、楽しんできました。予想以上の充実ぶりに感嘆です。

1限目の講師は松丸さとみさん。エリザベス2世女王とトランプ米大統領の英語を比較し、要所要所で動画を入れてわかりやすく英語と米語の違いを語ってくださいました。それだけでなく、米語と英語の歴史や今後の展望についても、ご自身の経験など身近な視点で話してくださり、大変興味深い講義でした。何よりも、イギリス愛にあふれるとても魅力的な語り口に、会場の皆さんも引き込まれていたのを肌で感じました。彼女とはお友達としても親しくしていますが、つき合うほどに多才な(多彩な)面を見せてくれて、ほんとうに素敵なひとです。

2限目の講師は、早川書房の編集本部本部長、山口晶さん。事前に受講者から寄せられていた質問にお答えいただく形式でした。質問も回答もかなり具体的で、例えば「リーディングや持ち込みはどのようにすればいいのか」→「持ち込み企画は会社というよりも編集者個人で受けていることなので」(中略)「編集者と知り合うのも一手。編集者も訳者の人となりを知っていれば信頼度が高まる。出版関係の集まりや読書会に積極的に参加するのもいいのではないでしょうか」(この通りの言葉ではなかったと思いますが。)などなど。他にも緊急案件で3週間で仕上げた本の話など、具体的な書名や訳者名を出して話してくださったので、お話にどれも説得力がありました。ふだんあまり聞けないお話が聞けて喜んだ翻訳者がたくさんいたのではないでしょうか。

3限目の講師は、井口耕二さん。今回のお題は「翻訳環境あれこれ」。文字通り、井口さんご自身がお使いになっている椅子やディスプレイ、キーボード、マウスなどのハード面から、入力の工夫やミスを防ぐための方策などのソフト面に至るまで、実物の写真を見せながら具体的にお話ししてくださいました(個人的には猫ちゃんつきのキーボードがお気に入り)多忙なスケジュールを管理し、仕事の質を保つために実に様々な工夫を常日頃からしていらっしゃることがわかり、やはり一流の方は、一歩先を読みながらこういう地道な作業をきちんと続けているのだなあと、改めて感じ入りました。

一日を終えて感じたのは、やはりお三方の仕事に対する愛と前向きな姿勢でしょうか。それと、自分の立ち位置を確かめながらも常に2、3歩先を見ている。これ、当たり前のようだけれど実はかなり難しいのでは。少なくとも私はすぐ忘れて、目先のことであっぷあっぷしてしまいます。せっかくこんな魅力的な方々のお話を聞くことができたのだから、自分もきちんと成長しよう!と、前向きな姿勢だけは取りえである私は思ったのでした。

講師の皆様、参加者の皆さま、充実した1日をほんとうにありがとうございました。26日にも、これまた魅力的な講師の方々をお迎えして第2弾が開かれます。まだ申し込み可らしいので、気になっている方はどうぞ!