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土屋政雄さんと山口晶さんの対談セミナー「名訳が生まれる背景」

2018年07月05日 13時39分04秒 | 魔女のポーシャ

1年ほど前、カズオ・イシグロ作品の翻訳家、土屋政雄さんの話が聞きたいと、担当編集者である早川書房の山口晶さんを通じてセミナーへのご登壇を依頼しました。快く受けていただき、スタッフ一同喜んでいたら、秋になってカズオ・イシグロがノーベル文学賞を受賞するというニュースがとびこんできたではありませんか! その後、土屋さんはメディアや講演会でひっぱりだこ。そして6月30日、ようやく神楽坂で、翻訳家・土屋政雄さんと担当編集者・山口晶さんの対談の日を迎えることができました。

休憩なしの2時間ノンストップ講義で土屋さんが繰り返し口にされたのが、「原文を理解する」でした。名訳を生む3つの秘密のひとつ、「語順の変更やパラグラフの入れ替え」をするのも、原文を理解して、理解したことを日本語で表現するため、とのこと。校正者泣かせ(と担当編集者の山口さん)の離れ業ですが、おかげで読者はわかりやすい訳文を読むことができます。

また、もったいつけた長い文はどう処理すればいいか、悪文は悪文で訳していいのか、といった事前によせられた質問に対しても、原文が意図的に長い文になっていれば、そのまま訳すが、そうでない場合、また悪文の場合、「原文を理解して、それを自分の言葉で表現する」と回答されました。そのためなら原文の構造に沿う必要はない、ともおっしゃいます。山口さんは編集者の立場から、悪文では商品にならない、読者に理解してもらえる訳が望ましい、と補足しています。たしかに書いてあることに頭がついていけなかったら、読者は本をとじてしまいますね。

名訳を生む3つの秘密には、他に「データ量」と「fog count」があり、これらの説明では数字やグラフが使われました。長年IBMのマニュアルを翻訳してこられた経歴を思い出させる、論理的で画期的な翻訳論でした。なかなか真似はできませんが、どこか一部でも、これからの勉強や仕事の参考にできたら、と思います。

講義には100名超の参加があり、これまで32回開かれたセミナーの中で最高記録を作りました。そして講義後の懇親会も40名超で、これも最高記録。過去3回講師を務めてくださった亀井よし子先生や、出版翻訳コーディネーターの加賀雅子さん、佐藤千賀子さんも参加してくださいました。旧友との語らい、新しい出会い、今回で最後になるローズルームのお食事等々、みなさん、楽しんでいただけたでしょうか。

次回のセミナーは、会場を神保町の出版クラブビルに移して開催されます。それまでFBやツイッター、当ブログなどで情報を発信していきますので、どうぞお楽しみに。またお目にかかりましょう。