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「柴田元幸と翻訳を学ぶ・遊ぶ」レポート

2019年04月26日 15時18分19秒 | 魔女のきのっぴー

4月13日、第33回「翻訳者のためのウィークエンドスキルアップ講座」が開かれました。およそ1年間のお休みを経て、新装なった「出版クラブビル」での初めての講座は、こけら落としにふさわしく、大人気の柴田元幸先生による「柴田元幸と翻訳を学ぶ・遊ぶ」です。

講座は2部構成で、第1部は『翻訳教室』のライブ版。受講生が事前に任意で提出した訳文を先生が部分的に抽出し、書画カメラで写しながらリアルタイムで添削したり解説を加えたりする形式です。課題はNathaniel HawthorneのAmerican Notebooksからの一節で、A4にして1ページ弱の短いものでした。それでも、講義で取り上げられた10本前後の訳文はそれぞれにまったく異なり、あらためて翻訳というものの多様性、自由度を感じました。柴田先生は二葉亭四迷の翻訳論など(形式的に一致させるのではなく、内容を対応させるべきである)にも触れながら、書かれた時代とその風習などを考慮したうえで、英文との重みのバランスを常に考えて訳文を作ることの大切さを教えてくださいました。

また、「声に出して読んだときにすっと聞き手に伝わる訳文がいい」という言葉も印象に残りました。そしてこれは第2部の朗読にもつながります。朗読したのはWilliam S Burroughsの短編"The Junky's Christmas"の日本語版ですが、なんと白黒の無声アニメーション映像を流し、それに柴田先生が声を乗せていくというたいへん凝った趣向のものでした。

柴田先生の朗読には定評がありますが、このときはいつもにも増して参加者が引き込まれているのを肌で感じました。私自身も一言も聞き洩らしたくなくて、気づいたら息を止めていたほどです。完全に物語の世界に入りこみ、主人公の痛みや苦しみ、最後に感じる喜びと恍惚までも共有したような感覚に陥りました。

この後、James Robertsonの短編"The Inadequacy of Translation"の日本語版を朗読されましたが、そちらも特に翻訳者にとってはとても考えさせられる興味深い内容でした。

朗読を挟んだ質疑応答でも、受講生から非常に内容の濃い質問が寄せられたのに対し、先生が気軽に、かつ真摯に答えてくださるという場面が続き、時間をぎりぎりまで延長した充実の講座となりました。

講義に続いて近所の「サンコウエンチャイナ」で行われた懇親会には30名もの参加があり、柴田先生も各テーブルを回ってくださって、終始和やかな雰囲気でした。

120名に届くかという大勢の参加者の皆様、講師の柴田先生、「洋書の森」を支えてくださっている皆様にあらためて感謝いたします。

次回は7月6日(土)開催で、金子靖先生を講師にお迎えします。こちらも詳細が決まり次第ご連絡しますので、楽しみにお待ちくださいね!


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