スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

計測が難しい若年者(15-24歳)の失業率 (その1)

2012-05-01 01:03:16 | スウェーデン・その他の経済
以前から取り上げたいと考えていたことに若年失業者がある。25歳未満の若者若年者と捉えたとき、彼らの失業率が高いことはこれまでもスウェーデンで議論されてきた。

最新の失業統計である2012年3月の数字を見てみると、15-74歳まで労働力全体に対する失業率は7.7%だが、15-24歳の若年者だけに絞って見てみると25.5%と実に3倍以上に膨れ上がる。

バブル崩壊後の金融危機に悩むスペインでは若年者の失業者が50%前後という。スウェーデンはそこまで高いわけではないが、この統計からは多くの若者が仕事に就けないという厳しい現状が窺え、国内の政策議論でも80-talisterna90-talisterna(80年代、90年代生まれ世代)を指して「失われた世代」と象徴的に呼ばれることもある。

しかし、統計を読むときには注意が必要である。この25.5%が意味しているのは果たして何かを吟味する必要がある。(一般に、“%”“何人に一人”という統計があれば、何が分母で何が分子かを考えることくらいはしなければならない)

25.2%という数字を額面通りに捉えて、若年者の4人に1人が仕事に就けず、悲惨な状況にあると考えても良いだろうか?

話を進める前に一つ。失業率は、労働力(=就業者+失業者)に対する失業者の割合である。ちなみに、労働力のほかに、労働市場に参加していない人たちもいる(例えば、長期にわたり病気を患っている人、専業主婦・主夫や、退職者・年金生活者など。学生も本来ここに入るべきなのだが、それが今回の焦点) この労働力非労働力を足すと労働力人口になる。

さて、この25.5%という数字はスウェーデンの公式統計であるわけだが、これは中央統計庁が定期的に行うサンプル調査に基づいている。しかし、この調査の問題点は、失業者に学生の一部が含まれてしまうことである。学生は本来は非労働力とみなすべきであろう。しかし、実は「失業者」の定義は「過去4週間に求職をしたことがある人」となっているため、週末や空いた時間のアルバイトや夏休みのサマージョブのために学生が仕事探しをすれば、たとえ本業が勉学であっても失業者とみなされ、失業率の計算に加えられてしまう。

実際のところ、このような「求職中の学生」若年失業者の実に半分を占める。では、彼らを失業者とカウントしなかった場合の若年失業率はいくらになるかというと、もともとの数字が25.2%であり、若年失業者のちょうど半分が「求職中の学生」だったとした場合、14.4%になる。(えっ、どうして12.6%にならないのか、って?)


では、「求職中の学生」を失業者に含むことの是非についてはどうだろう?

例えば、既に挙げた、(1)学業が本業だがアルバイト(週末バイト、夏休みのサマージョブ)を探しているというケースがある。これを失業とみなすのは不適切だろう。

次に、(2)本当は学業はしたくないのだけど、仕事がないので仕方なく大学に身を置いて勉強している(その片手間で求職活動)、というケースもある。例えば、学士あるいは修士の学位をもう取ったのだけど、労働市場に出ても仕事がない。生活に困る。だから、何らかの大学科目に登録して勉強を続け、国の学生手当を受け取りながら生活をする、という場合だ(ただし、学生手当はちゃんと単位を取ることが条件なので、なるべく簡単な科目がよい)。これは、おそらく失業者とカウントすべきだろう。

ただ、これに関連して言うならば、難しいケースもある。例えば、企業で働いていたけれど、不況で失業してしまった。仕事探しをしようにも不況のために当面は見通しが暗い、だから、一般大学や職業大学で学ぶという場合だ(たとえば少し前に書いた風力技術者養成課程など)。これは、どうだろう? 確かに、仕事があれば仕事に就いていたという点では失業者かもしれないが、失業を契機にある一定期間、勉学に打ち込むと決めているのであれば、失業者とカウントしないほうがよいだろう。極端な話をすれば、高卒で簡単に就職ができるならば大学にわざわざ進む人はずっと少ないだろうが、実際はそうではないから大学に進む。そういう人は失業者か、というとそうは言えないだろう。(おそらく(2)との違いは、短期間の繋ぎとして勉強しているのか、ある一定期間、勉学を本業にする決意を持っているか、ということだろう)

このように、何を失業と定義するのかは難しい。本当は上記の(1)と(2)のうち、(2)だけをカウントして失業率を算出すべきだろうが、そのような細かい調査はなされていない。これはスウェーデンに限ったことではなく、ILOの決めた失業の定義を採用する国ではどこも同じようだ。

以上の話をまとめるならば、「若年失業率は25.2%だ」という数字を額面通りに受け取ってビックリするのではなく、実際に失業と言えるのは25.2%と先ほど算出した14.4%の間のどこかだ(おそらく14.4%にずっと近いのではないか)と考えたほうがよいと思う。

もちろん、14.4%という数字自体も確かに大きなもので、労働市場全体の失業率である7.7%の2倍近くあるということは問題だが、ただし、成人の失業率と若年者の失業率を単純に比較できないことも確かである。次回に続く。

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3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (中野多摩川)
2012-05-01 19:50:57
そういえばアメリカ合衆国と日本とでは失業率の定義が違うというのを昔聞いたことを思い出しました。ついつい忘れがちになってしまうのですよね。日本のほうが低く出やすい計算方法だとか…
Unknown (Yoshi)
2012-05-02 07:57:25
国それぞれ社会事情や慣行が違うので、杓子定規に定義を決めて統計を取るのが難しいのでしょうね。それが、国際比較を困難にしている。

日本だって、本文に書いたような定義を使えば、大学3年生(4年生の)就職活動の時期だけ急に失業率が高くなってしまいますよね。
Unknown (おぐし)
2012-05-02 19:24:42
スウェーデンの学生(求職中)の失業率が高いのはアルバイトが見つけにくいことも関係しているかもしれませんね。今、私もこちらのサマージョブを探していますが、この時期になると、既に打ち切っているところが多くて中々見つかりません。これが日本であれば、アルバイトの中身を選ばなければ一年中すぐに見つかります。多くの日本人の学生は何らかの(低賃金の)アルバイトをしているので失業者としてカウントされにくいのではないでしょう。(定義上、調査期間中に1時間でも働いていたらその人は失業者にはカウントされないですよね)

ただ問題は失業率の数字だけではなくて、それがどういう意味を持つかどうかでしょうね。日本の失業率が低いといっても、結局、若者の多くはスキルの身に付かない仕事に従事していますし、また学生は飲み会のお金を稼ぐためにアルバイトに時間を使って勉強をしないわけですからね。スウェーデンのように失業率が高くなってしまっても教育の機会や職業訓練を提供することにはやはり意味があると思います。

今、スウェーデンでも与党(自由党や中央党が中心となって)若年の賃金を低くするかわりに雇用を増やそうという政策が検討されていますよね。これって、いわゆる同一賃金の原則をなくすということですよね。これを導入すればたしかに若者の失業率は低くなるでしょうが、結局、企業/雇用者が欲しいのは低賃金で働いてくれる人材でしょうから、それが正規雇用へと上手く繋がるかどうかは怪しく、日本のように被正規雇用が拡大するだけのような気もします。

Yoshiさんはこれについてどう思われますか?

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