スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

スウェーデンでも専業主婦が多い職種とは?

2010-07-25 00:37:08 | スウェーデン・その他の社会
労働力率という指標がある。労働力人口のうち、どれだけの人が労働市場に参加しているかを示したものだ。ここには、就業中の人はもちろん含まれるし、失業者でも働く意思があり求職活動を続けていれば労働市場に参加していることになる。他方で、退職した人や専業主婦(主夫)はここには含まれない。

この労働力率を年齢階層別に見てみると、日本の場合は女性の労働力化率は25~29歳でピークに達し、その後30~34歳、35歳~39歳で大きく落ち込み、その後回復するという傾向がある。結婚・出産を機に労働市場から退出するM字型カーブと呼ばれるものだ。



アメリカや西欧・北欧の女性の労働力化率を見てみると、労働力化率自体が日本よりも高い水準にあるうえ、M字型カーブの傾向もあまり見られない。その中でも群を抜いているのがスウェーデンであり、30代でも非常に高い水準を維持している。

スウェーデンでは1971年夫婦単位の課税から個人単位の課税に切り替えられた。それまでは夫の給与に妻の給与が加算されて課税額が決まっていたために、様々な控除制度や累進性課税のもとでは、妻の追加的な所得が手取りにそれほどつながらなかった。しかし、それ以降は妻の稼ぎは0から数えられ、夫の所得に関係なく課税額が決まることとなり、就労インセンティブが高まることとなった。この制度改正に加え、保育施設や育児休暇制度が整備されていったおかげで、女性の労働力化率はそれ以降、大きく飛躍を遂げることになった。

既婚か未婚に関係なく、また男か女かに関係なく、自分が稼いだ分に対して税金が課せられ、課税額が決まる。誰もが働いて生計を立てることを基本とした社会であり、自分の稼得に応じて年金権が生じ、老後の年金受給額も決まる。扶養控除もなければ、年金の「第3号被保険者」に相当するものもない。自立を求める人にはよくできた制度だし、依存を求める人にとっては厳しい制度だ。

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そのような制度のおかげでスウェーデンでは当然ながら共働き世帯が多い。専業主婦という例外には、スウェーデンの居住経験に乏しかったり、言葉や職業能力の面でスウェーデンの労働需要とマッチしていない移民・難民の一部の世帯が多い。しかし、最近もう一つ別の例外がスウェーデンにもあることを耳にした。それは、外交官の配偶者だ。

確かに、夫婦の一人が外務省の職員で、国外での勤務が長く、しかも、違う国を転々としなければならない場合、配偶者も一緒について、それぞれの国で仕事をすることは難しくなる。配偶者が医療系や教職系の技能を持っていれば赴任先での仕事探しは比較的容易かもしれないが、大きな企業や組織の中でキャリアを追求するような仕事は難しいだろう。

扶養者控除や扶養者年金といった制度を既に放棄したスウェーデンでは、国外勤務手当ての上乗せや、配偶者のための個人年金の積み立てなどで、対応しているようだ。

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このことに関連して、日本の大企業などの従業員の転勤や地方勤務ローテーションを考えてみたい。問題を生み出している構造が、外交官の国外赴任とよく似ていると思うからだ。

日本の女性の社会進出が遅れている理由(少なくとも自分のキャリアを追及したいという意欲を持った人にとって働きにくい理由)は、一つには長い勤務時間があるだろう。共働きの二人ともが正社員として夜遅くまで職場に残って仕事をするような生活を送っていれば、家事と仕事の両立は難しいから、結局はどちらかが仕事を辞めるか、パートなどの柔軟な勤務ができる仕事で我慢せざるを得ない。

しかし、もう一つの理由として、大企業で働く従業員の会社都合による転勤・地方勤務もあるのではないだろうか。共働きの二人ともが正社員として大きな企業に勤務しており、一人は東北に一人は九州に転勤を命じられたら、結局はどちらかが自分のキャリアをあきらめるしかない。だから、転勤族の場合、一緒に移動しなければならない配偶者は定職に就き、自分のキャリアを追求することが難しくなる。日本の転勤制度は専業主婦がいるから成り立っているシステムだと言えるのではないだろうか。

スウェーデンではどうかというと、各地に複数のオフィスを持つ大きな企業でも勤務地ごとに(しかも能力ごとに)採用するため、会社の都合による勤務地移動はない。また、組織改変などで勤務地移動が必要な場合は従業員本人の希望を聞いた上で行うし、どうしても転勤が必要だとされれば、平日だけ単身赴任という方法などで解決を図る。もしくは、仕事を辞めて転職するという道も残されている。

もちろん人によっては一箇所だけの勤務地で働くことに飽き、変化を求める人もいるだろうが、そのような時は自分から企業に勤務地の変更を申し出たり、転職することになる。いずれにしろ、企業の都合だけで無理やり定期的に勤務地を移動させられることがなく、自分から主体的に勤務地を選べるという点は、共働き世帯にとって非常に重要なことではないかと思う。

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ついでに言えば、地方勤務ローテーションは地方からの人材の流出をもたらしているのかもしれない。全国展開する大企業だけが魅力的な職場というわけではもちろんないが、大学を出てから大きな企業で働いて経験を身につけたいという人も多いだろう。地方の出身者が地元でバリバリと活躍したいと思った場合、仮に魅力的な大企業が地元にも支社・支部を置いていたとしても、さあそこで仕事をしよう!と考えるのは難しい。地元採用の事務職でない限り、まずは東京もしくは本拠地で一括採用され、社内研修の後に勤務地が決められる。どこに飛ばされるか分からない。本社と地方各地の勤務地を行ったり来たりしながら中年を迎え、運が良ければ自分の地元に戻れるかもしれない。

そうすると、優秀な人材が地方にいたとしても、地元企業を選ばない限り、定着しないことになる。結局、東京に集まったり、自分の出身地とは関係ないところに定着することになることが多いのではないだろうか。

例えば、NHKの地方局のニュースを見ていても、アナウンサーは地元の人ではないようだし、取材をする記者だって他県の人のことが多い。せっかくなら地元の若い人材を使ってあげればいいのにと思う。

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5 コメント

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とてもよい記事をありがとう! (子豚姫)
2010-07-29 02:02:57
日本では「専業主婦」についてのディベートが
最近多いようです(例えば読売新聞の「発言小町」)。この記事は問題点が網羅されており、的確な分析がなされ、しかも読みやすいです。
ぜひ、日本の人に読んで欲しいです。勤務時間も含めて、日本の労働形態にはまだまだ問題が多いと思います。スウェーデンはお給料は安いし、税でごっそり取られますが、人間的な生活は保障されていますね。
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Unknown (Yoshi)
2010-08-02 05:05:06
>例えば読売新聞の「発言小町」

情報ありがとうございます。
機会があれば読んでみたいです。

>スウェーデンはお給料は安いし、税でごっそり取られますが、人間的な生活は保障されていますね。

私も「人間的な生活の保障」は非常に重要なことだと思います。
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勤務地ごとの採用 (みき)
2010-08-10 19:09:52
大企業でも勤務地ごとに社員を採用する、という話、大変興味深く拝見しました。大都市への人口集中を緩和する効果が大いにありますね。

私も、地方に優秀な人材が残れる社会であってこそ、各地域が力を持ち、良い地域が作られて行くと思います。また、多くの人にとって生まれ育った場所は特別なもので、この地元への思いを地域の中で活かせられれば、より良いまちになっていくはずです。

私の大学の友人を見ても、卒業後、多くの人が東京や大阪で就職しています。特に環境設計関係の友人たちは、「地元に帰り地元を良くして行きたい」との想いを持ちつつも、なかなか戻れずにいます。

こうした現状の日本に対し、スウェーデンではどのような対策が取られているのでしょうか?

お時間のある時で良いので、取り上げて頂ければ有り難いです。
人口集中対策について、尋ねられる人が佐藤さん以外にいません。どうぞよろしくお願いします。
(以前に、失礼なメールを送ってしまい、すみませんでした。)
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Unknown (Yoshi)
2010-08-11 07:14:07
>スウェーデンではどのような対策が取られているのでしょうか?

政府がということでしょうか? 仕事があるところに労働力を移して労働需給ミスマッチをなくことが基本だと考えられているので、過疎対策・過密対策ということは政策サイドからほとんどなされていないでしょう。

あるとすれば、行政機関(庁に相当するもの)の本部を地方に移すといった政策や、北部地域の事業者の社会保険料を減額することで、実質的な人件費を下げ、それらの地域での産業活動を活発にしていくことですが、それくらいにすぎません。後者はあまり機能していないでしょう。
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都市への人口集中 (みき)
2010-08-11 20:20:55
お返事ありがとうございます。

政府による対策に限らず、広い視点で教えて頂けますか。

私は現在Umeåに住んでいますが、地元に残る度合いが高いような印象を受けます。また、Umeåから100km程離れた郊外の町でも、人口は少ないですが日本ほど寂れた印象を受けません。

大都市人口集中が起こりにくくしている要素として、現在私が考えているものは、
1)(Yoshiさんがおっしゃっているように)行政の機関がスウェーデン各地に分散されている
2)大企業も、1)と同様に、スウェーデン各地に分散している
3)県や市が国から独立し力を持っているため、民間企業を誘致しやすい
4)大学間で学力差が少ないため、地元の大学を選びやすい
5)県や市が国から独立し力を持っているため、市や県の機関がやりがいのある職場として選ばれやすい
6)航空便が発達しているため、飛行機による出張がしやすく、企業が大都市に集まる必要がない
7)林業が産業としてしっかり成り立っているため、田舎も経済的に成り立ちやすい

2~7)は、私の印象に過ぎません。実際のところはどうなのでしょうか?参考となる資料をご存知であれば、教えて下さい。
これら以外にも、人口の大都市集中を緩和しているものがあれば、教えて頂けませんか。
Yoshiさんがおっしゃっている「仕事があるところに労働力を移す」というのは、具体的にどういう状況でしょうか?

また、人口が分散されていると感じるのは、おそらくスウェーデン南部の都市と北部の沿岸部の都市だけであって、北部の内陸の町では、過疎が進んでいるだろうと想像します。(私は内陸部に行った事がなく、実感がありません。)
「過疎過密対策は、行政サイドからほとんどなされていない」ということですが、スウェーデンではあまり問題となっていないのでしょうか?
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