スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

銀行救済の様々な手段

2008-10-10 07:39:00 | スウェーデン・その他の経済
これまで何度か、政府や中央銀行による銀行救済について触れてきたけれど、非常に複雑で私もよく混乱してしまう。しかも、金融危機の渦中にある今、世界中から毎日たくさんのニュースが流れ込んでくる。自分の頭のなかを少し整理するつもりで、簡単にまとめてみたい。


底なし沼? (SVTのニュースサイトより)

銀行救済や公的資金の注入といっても、いくつか異なったパターンがあるようだ。いろんな情報を継ぎはぎしながらまとめてみると・・・

まずは、(0) 中央銀行による特別融資

金融危機によって生じる大きな問題の一つは、金融機関間の資金融通システムが潤滑に機能しなくなること。これは、ある金融機関がたとえ資金を豊富に持っていたとしても、相手先の金融機関が倒れたら困るので、貸し出そうとせず、溜め込んでしまうことである。その結果、資金を必要としており、本来ならこの資金融通システムを使って貸し出しを行えた金融機関が倒れてしまう。このように市場の資金の流動性が低下している場合に、中央銀行が民間銀行に特別融資を行うのである。ただし、あくまで融資なので銀行側は利子をつけて一定期間後に返済するから、公的な負担は伴わない。だから、公的資金の注入とは呼ばない。

スウェーデンでは現在、中央銀行による資金のオークションという形でこれが行われている。


次は、(1) 政府による債務保証

上に挙げた特別融資だけでは不十分であるときに、政府が金融機関に対して債務保証を行うのである。つまり、金融機関同士で資金を融通しあう際に、もし借り手の金融機関が返済不能になっても、政府が責任を持って貸し手に代わりに資金を返済する、という保証を行うのである。そうすることで、資金を持っている金融機関が心配することなく、他の金融機関に資金を提供できるようにして、現在は目詰まりを起こしている銀行同士の資金融通を改善する狙いがある。

どこかの金融機関が、実際に返済不能になるまでは、政府には負担は生じない。政府はその場合に備えて資金を準備しておくだけでよい。

ドイツ、フランスがちょうど今、この手を大規模に用いている。


その次は、(2) 不良債権の買取

銀行や金融機関が抱え込んだ不良債権は経営を圧迫し、また、貸し渋りを引き起こしかねない。そこで、国が公的資金を使ってこの不良債権を買い取る。そうすれば、その銀行に残るのは健全な債権だけになり、経営および貸し出し態度が改善する。国は引き取った不良債権を債権処理公社のもとで少しずつ処理していき、良好になったものから売却していく。

先週、アメリカ議会がやっとのことで可決した7000億ドルの銀行救済パッケージは、このタイプ。


次は、(3) 資金繰りが難しくなった金融機関に、国が公的な融資を使って直接的に資本注入を行う、というもの。

目的は、資金繰りを改善し、その金融機関に対する信頼を回復させること。形としては、金融機関が新株を発行し、それを政府が買い取り、出資する。そのため、政府はその金融機関の部分所有者ということなり、部分的に国有化したことになる。この政策手段が成功を奏し、経営状態が改善すれば、株や資産の価格は値上がりするため、政府および国民は後で売却益を得ることが期待される。

イギリスでは、現在この手を使って、破綻しかかっている金融機関の救済を行おうとしている。破綻しかかった3つの銀行が政府からの資金注入を受け、部分的に国有化されることになった。(政府の所有分は4割から6割)

アメリカでも、上に挙げた不良債権の買取だけでは市場の信頼回復が難しいとみられ、現在、財務省が、この手を使って国が資本を直接注入するかどうかを真剣に議論しているという。これまで自由市場経済を標榜してきた国だけに、たとえ部分的であれ「国有化」などという言葉を聞くと、条件反射的に「社会主義的!」という批判が飛んできそうだが、金融システムが破綻しかかっている現状を前にして、そんな理念にこだわっている時間はない、と財務省は考えているようだ。


4つ目は、(4) 完全国有化である。

破綻した金融機関の経営を国が引き継ぐ。株は紙切れ同然となり、株主の利益はゼロになるが、一方でその金融機関に対する債権者や預金者の資産は保障される。金融機関が持っていた債権は、良好なものと不良なものに分けられ、後者は政府の管理する債権処理公社のもとで処理し、前者は金融機関のもとに残し、再建を試みる。これも成功すれば、数年後に再び株式市場に上場して、株を売却できるので、国や国民も当初のコストをある程度は取り戻せるかもしれない。

今ちょうど、混乱の渦中にあるアイスランドが、破綻した主要3銀行(グリトニール、ランスバンキン、カウプティング)を完全に国有化した。経営を引き継ぎ、新しい執行部を編成したのは金融監督庁だとか。


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1990年代初めに金融危機に見舞われたスウェーデンではどうしたかと言うと・・・。早い話、上のほとんど全部やったのだ。

そこそこにヤバイ銀行は(1)で救済し、かなりヤバイ銀行には(2)で救済し、それでもダメで破綻した銀行は(3)で救済したのである。(3)の救済を受けたのは、NordbankenとGöta bankenだ(両者は今のNordeaになっている)。

私も「the Stockholm Solution」が注目される理由が、やっと実感できるようになってきた。

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13 コメント

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Unknown (ちりちり)
2008-10-12 21:22:46
こちらを読んで「なるほど」と思いました。この街ではかなり影響あるであろう某自動車メーカーの大規模なリストラの発表、それに間髪入れずに翌朝には政府からの大きな失業者対策の発表。非常にダイナミックで意思の明確な政策実行ですよね。おそらくあの自動車メーカーも今のままの存続は難しいでしょうから、生き残りの為、何らかの武器は準備すると思いますが。まずは政策実行者が、非常に良く自国の成り立ちと状況を理解しているという事は羨ましいですね。
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Unknown (Yoshi)
2008-10-13 07:12:09
コメント、ありがとうございます。

でも、正確に言えば、あの大規模なリストラ発表の直後は、与党は何も新たな対策を打ち出すようなことはしませんでした。9月に国会を可決した09年の本予算に既に盛り込まれた様々な施策(技術開発(R&D)への予算の計上、労働力訓練など)で政府としては十分であり、あとはメーカーの対応、および労使間のやり取りで解決すべき、としたのです。

これに対しては、地元ヨーテボリや国政でも野党が大きく反発し、また世論受けもあまりよくないので、確かあの翌々日くらいにAMS(労働市場庁)への特別予算の計上を発表したように記憶しています。

さて、政府として何をすべきなのか、もしくは、何がそもそもできるのか、今後の議論に期待したいところです。

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Unknown (ちりちり)
2008-10-14 16:11:42
返答ありがとうございます。
小生現地語が不自由な為、関連していそうな記事を見つけては、同僚に翻訳してもらいながらという形でしたので、時間差を感じなかったという事なんですね。ちょっと安心(?)しました。
対金融危機対応とあわせ、大変な時期ではありますが、非常に興味深い感じです。
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Unknown (Yoshi)
2008-10-16 01:46:30
すみません、言葉足らずで。

私の要点は、政府は別に特別な措置を行ったわけではない、ということなんです。AMSの予算にしたって、失業者が増えていけば、おのずから必要になった予算だったと思いますので、政府が翌々日に大々的に発表したのも、世論に対するポーズ以上の、実質的な意味を伴うものではなかったのではないか、ということなんです。

ごめんなさい、話がややこしくなってきました。

また、コメントをよろしく!
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Unknown (nin)
2008-10-16 18:20:29
スウェーデンの救済策について包括的に書かれた本や文章(英語)はご存知ですか?
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Unknown (Yoshi)
2008-10-17 18:21:03
英語で書かれたものは、ちょっと分かりません。
もしかしたら、このテーマを扱った本のある一章にまとめられている、ということはあるかもしれません。
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Unknown (nin)
2008-10-20 22:07:53
ということは、ここでの媒体は基本的にはスウェーデン語の媒体を使って書いている、ということですね?

ちなみに、英語でスウェーデンの経済について書いている人はご存知ですか?
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Unknown (Yoshi)
2008-10-20 22:20:42
基本的にスウェーデン語の新聞や英字新聞、雑誌、テレビ等の情報を基にしながらまとめました。

前回のご質問では、私は本のことばかりがありました。本に関しては、スウェーデン語ではいくつか出ています。

また、雑誌の記事等としては英語のものも若干あります。下の記事の最後にリンクを二つつけてあります。
http://blog.goo.ne.jp/yoshi_swe/e/71ca1a211f9c4778375c87dea2b58295
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Unknown (nin)
2008-10-23 22:13:02
ちなみに、スウェーデンの金融行政、金融産業に日本が学べるとしたら、この金融危機の対応以外にどのようなことがあると思いますか?
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Unknown (Yoshi)
2008-10-28 07:39:43
ninさん

今日たまたま見つけた資料です。
中身にじっくり目を通したわけではないので、内容の保証はできませんが、見てみてください。

http://www2.foi.se/rapp/foir1797.pdf

http://ec.europa.eu/economy_finance/publications/publication692_en.pdf
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