スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

若年者失業の統計の問題 - 失業率は結局、何を測っているのか?

2014-02-15 12:28:35 | スウェーデン・その他の経済
スウェーデンの若年者(15~24歳)失業率が比較的高いことは以前から注目を集め、スウェーデンでも議論されてきた。スウェーデンの若年者失業率(2012年)は23.6%と高く、危機的な状況と受け止められることも多い。しかし、そもそもこの数字が何を測っているのか、また、何を意味しているのかを吟味しないままにその問題点や対策をあれこれ議論しても意味がない。そのような空回りの議論が巷にあふれているような気がする。

そのため、この若年者失業率については、このブログでもいま一度取り上げたいと思う。そして、正しい理解に基づいた上で、若者の雇用情勢について議論してほしい。

<過去のブログ記事>
2012-05-01:計測が難しい若年者(15-24歳)の失業率 (その1)
2012-05-05:計測が難しい若年者(15-24歳)の失業率 (その2)


【 ヨーロッパ諸国の若年者失業率の比較 】


グラフ1: ヨーロッパ諸国の若年者失業率(2012年) <出典:Eurostat>

この統計は2012年のヨーロッパ諸国の若年者失業率を比較したものだ。青色が15-24歳の失業率を示したものであり、高い順に国を横軸に並べている。薄い青色・水色は15-19歳と20-24歳で分けて算出した場合の失業率を示している。また、参考のために労働力全体(15-74歳)の失業率をオレンジ色で掲載した。

これを見れば分かるように15-24歳の失業率(青色)は、50%を超えるギリシャ・スペインを筆頭として、南欧や東欧の国々が30%前後という非常に高い数値を示している。スウェーデンやフランスもEUの平均(EU-15、EU-28)を上回っている。一方で、オランダ、オーストリア、ノルウェー、スイス、ドイツは10%を下回っており、優等生であると感じられる。

(EU-15やEU-25なら聞き覚えがあっても、EU-28は聞いたことがないといる人もいるかもしれないが、2007年1月からブルガリアとルーマニアが、また2013年7月からクロアチアがEUに加盟したため、加盟国は現在28カ国である)

若年者のうち15-19歳までの失業率を見てみると、薄い青色の棒が示しているように60%を超えている国もいくつか見受けられる。スウェーデンも36.3%と高い。


【 失業率の定義とは? 】

さて、これらの「失業率」が意味しているものは何だろうか? 例えば、スウェーデンの場合、若年者の失業率は23.6%(2012年)だが、これは「若者の約4人に1人が仕事を見つけられず失業している」という意味なのだろうか? また、15-19歳に限って見れば36.3%であるわけだが、それは「この年齢層の若者の3人に1人以上が失業している」ということだろうか・・・? さらに、スペインの15-19歳の失業率は70%を超えているが、スペインの10代後半の若者の7割以上が高校にも通わずに失業中ということなのだろうか・・・? ここまで考えれば、無理がありすぎることに気づくであろう。

まず、重要なことは、失業率労働力人口に対する失業者の割合であること。労働力人口とは、就業者数失業者数の和であるため、次のように表現できる。


ここで注意しなければならないのは、若年者人口のすべてが労働力人口であるわけではないこと。就業者でも失業者でもない人たちは、非労働力に分類される。ここには、学生や、働けるが働く意志のない人、そして、病気のために働けない人などが含まれる。つまり、失業率の計算において、この非労働力の大きさは全く考慮されていないのである。

下のグラフ2の左図に示したのは、2012年のスウェーデンの若年者人口(15-19歳と20-24歳)の内訳であるが、15-19歳の7割弱、20-24歳の3割弱が非労働力であり、この部分の若者は失業率の計算では全く考慮されない。では、失業率が測っているのは何かというと、失業者(青)と就業者(赤)を足した部分における、失業者(青)の割合である。


グラフ2: 左3つ:スウェーデンの若年者人口の内訳(2012年) <出典:Eurostat>
右1つ:スウェーデンの若年者人口の内訳(2011年) <出典:Finanspolitiska rådet>

そのため、ある年齢層の人口全体に占める失業者の割合が仮に同じでも、就業者の割合が異なれば失業率は全く異なる値になる。このグラフで見れば分かるように、スウェーデンの15-19歳と20-24歳の人口に占める失業者の割合はそれぞれ11~13%とほぼ似たようなものだが、就業者の割合が大きく異なる。その結果、15-19歳の失業率は 11.3/(19.8+11.3) = 36.3%、20-24歳の失業率は 13.4/(58.1+13.4) = 18.7%となり、両者の間には2倍近い差が生まれるのである。

このように15-19歳の就業者がそもそも少なく、分母が小さいことが、この年齢層の失業率が高くなる原因の一つである。また、分母が小さいために、失業者数のわずかな変動でも、失業率の計算ではそれが増幅されて大きな増減に繋がりやすい。


【 失業者の定義とは? 】

失業率の定義が分かったとして、では、その計算で用いられる「失業者」の定義は何だろうか? 国際労働機関(ILO)および欧州連合(EU)の規定に則って、スウェーデンで採用されている失業者の定義は以下の通りである。

(1) 調査を行った週に仕事がなく、過去4週間(その週を含め)に職探しを行ったことがあり、かつ、インタビュー調査を行った週、もしくはその週の終わりから14日以内に働くことが可能な人。

もしくは、

(2) 既に仕事を見つけ、その仕事が調査の週から3ヶ月以内に始まる人で、かつ、インタビュー調査を行った週、もしくはその週の終わりから14日以内に働くことが可能な人。

スウェーデンの統計中央庁(SCB)は、毎月3万人近くの国内居住者をランダムに選び、その人が就業者なのか失業者なのか、あるいは非労働力化した人なのかを尋ねている。このサンプル調査の結果が元になり、スウェーデンの月ごとの公式失業率が発表され、OECDやEUの統計担当局にも送られる。四半期ごと・年ごとの公式失業率はその平均を取ったものである。

ただ、この定義が抱える問題点は、ある若者の本業がたとえ高校や大学での勉学であっても、週末や空いた時間のアルバイトや夏休みのサマージョブのために仕事探しをすれば、たとえ本業が勉学であっても失業者とみなされ、失業率の計算に加えられてしまうことである。

実際のところ、スウェーデンでは国から高校生に支給される学生補助金や、大学生に支給される学生補助金&ローンが夏休みの間は支給されないため、本業が勉学であっても夏の間に働く学生が多い(サマージョブという)。学生の多くは年が明けた1月からその夏のサマージョブ探しを始める。そのため、上記の失業者の定義(1)に従えば、若年者の失業者が年明けから急増することになる。人によっては早いうちにサマージョブが決まり安心する人もいるし、夏休みのギリギリまで決まらない人もいる。なかなか決まらない人はずっと失業者にカウントされるし、早く決まり、仕事探しをストップした人でも上記の定義(2)により、サマージョブの始まる3ヶ月前から再び失業者にカウントされることになる。

下のグラフ3において、新定義(青線)で示したを失業率を見てもらえば、その傾向が16-19歳の年齢層ではっきりと分かる。そして、夏になると急減しているのも観察できる。これは、多くの若者がサマージョブを始めたため、失業者にカウントされなくなったためである。20-24歳では、パターンがあまり明確ではない。大学生だけではなく高卒で社会に出た人が混じっているためだろうが、それでも、1月頃に上昇し、7月頃に下降するというパターンが見受けられる。


グラフ3: 若年者失業率の月ごとの変動、および、新・旧定義に基づく失業率の比較
<出典:スウェーデン統計中央庁(SCB)>


ちなみに、このブログの過去の記事でも書いたように、スウェーデンがこの定義を採用したのは2007年10月のことである。それ以前は、本業が勉学である学生の求職者は失業者にカウントされていなかった。そのため、スウェーデンの公式統計における失業率は、2007年10月に4.2%から5.7%へと1.5%ポイントも急上昇したのである。

(旧定義と新定義のもう一つの大きな違いは、労働力年齢をそれまでの16-64歳から15-74歳へ拡大したことである。おそらく下限の引き下げは失業率を若干高めただろうが、上限の引き上げは失業率にほとんど影響を与えていない。)

幸いにもスウェーデン統計中央庁は、新定義に基づく失業率を2005年までさかのぼって計算しているので、「新定義」「旧定義」とでどれだけ失業率が異なるかを比較できる。先ほどのグラフ3では、旧定義に基づく失業率を赤線で示しているが、まず15-19歳を見ると、新定義では20~40%を推移していた失業率が、旧定義の下だと10~30%へと大きく低下する。既に触れたように、旧定義では学生の求職者が含まれていないため、1月から始まるサマージョブ探しが全く影響を与えていない。6月に急上昇しているのは、高校を卒業した若者がもはや学生ではなくなり、失業者にカウントされたためであろう。一方、20-24歳を見ると、明確なパターンは観察できないが、それでも新定義より5%ポイントほど失業率が低いことが分かる。

では、他の年齢層では、旧定義と新定義とで大きな違いが見られるかというと、過去のブログ記事を見てもらえば分かるように、ほとんど差がない。そのため、スウェーデンの公式失業統計における2007年10月の急上昇(4.2% → 5.7%)は、求職中の学生(および仕事が既に決まっており3ヶ月以内に働き始める学生)を失業者にカウントしたことによってほぼ説明がつく。


【 学生を失業者としてカウントすべきか? 】

学生を失業者としてカウントすべきか? 結局、これは「失業率」という指標で何を測りたいかによるだろう。ILOとEUが採用している失業率の定義は、失業率をマクロ経済における労働需給のマッチングや、労働という経済資源の効率的な活用の指標として用いることを念頭に置いて設定されたものであろう。

一方、若者が置かれた経済的・社会的状況を判断するための一つの指標として「失業率」を使おうとすると問題が生じる。既に書いたように、例えば若年者失業率が25%だったとして、それを「若年者の4人に1人が仕事に就けず、経済的苦境に立たされている」と解釈してしまう人は、そもそも失業率の計算式を全く理解していない。また、失業者と一口に言っても、勉学が本業で、週末・夏休みや余暇のお小遣い稼ぎのために求職している人と、本業がなく仕事探しをしている人とでは経済的逼迫度は全く異なるだろう。

だから、若年者失業率を「若者が置かれた経済的・社会的状況を判断するための一つの指標」として用いるための一つの解決策として考えられるのが、スウェーデンがかつて採用していた旧定義のように、求職中の学生(および仕事が既に決まっており3ヶ月以内にスタートする学生)を失業者にカウントしないことである。

グラフ2の右図を見ていただきたい。ここでは、財務省の財政政策諮問委員会(Finanspolitiska rådet)の推計による、就業者・失業者に占める学生の割合を示している。2011年の若年者(15-24歳)の失業者のうち、44.6%がフルタイムの学生だという。この割合が1年で大きく変化することはまず考えられないので、これが2012年も同じだと仮定すれば、スウェーデンの2012年の若年者失業率23.6%は、14.5%にほぼ半減する。(他の機関が出した推計を見ても、若年失業者のだいたい40~45%が勉学を本業としているフルタイムの学生であることが分かる。)

しかし、この方法にも問題があるかもしれない。失業者から学生を抜くのであれば、就業者からも学生を抜くべきではないかという声も聞かれよう。では、就業者と失業者の両方からフルタイムの学生を引いた場合の失業率を計算してみると、17.8%になる。

ただ、こうなってくると分母がますます小さくなっていき、失業者数の小さな変動に失業率が大きくブレることになるし、結局、何を測っているのかがよく分からなくなってくる。そもそも、計算をいじれば、どんな都合の良い数字でも出せそうな気さえしてくる。

だから、もっと確固たる土俵の上に成り立った指標を「若者が置かれた経済的・社会的状況を判断するための一つの指標」とするべきではないだろうか? たとえば、分母をその年齢層の人口全体とした上で、そこに占める失業者(学生を除く)と非労働力(学生を除く)の割合を示した数値がその一つだ。言い換えれば、人口に占めるNEET (Not in employment, education or training) の割合である。これについては、国際比較を後ほど示すことにする。


【 若年者失業の国際比較 】

以上、若年者の失業率を語るときの問題点や、特に新定義のもとで計算される失業率は注意しなければならないことなどを書いてきたが、こういう主張も聞かれよう。つまり、失業率・失業者の現在の定義は、失業率の国際比較を可能にするために導入されたものだから、一国(例えばスウェーデン)だけの数値を吟味した時には色々と問題はあったとしても、他国との比較は可能ではないか、と。すなわち、国際比較をした時により失業率が高い国は、やはりより大きな問題を抱えていると考えても良いのではないか、という声だ。

ただ、各国特有のさまざまな要因が若年者の失業率に影響を与えているので、単純な比較が難しいことを後に示す。

下のグラフでは、若年者人口を就業者、失業者、非労働力に分け、さらにそれぞれを学生とそれ以外に分けて比較してみたい。


グラフ4: 若年者人口の内訳(15-24歳) <出典:Eurostat>

ここでは、労働力率(つまり、就業者と失業者の和)が大きい順に並べてみた。労働力率はこのグラフでは青+水色+赤+ピンクの部分である。アイスランドの76%を筆頭に、オランダ、スイス、デンマーク、オーストリアと続き、右端のほうの国々は労働力率が30%を切っている。左端のほうの、労働力率が高い国々はどこかで見覚えのある国々が、実はグラフ1において若年者失業率を比較した時に、失業率が低い優等生の国々だ。

そこで、グラフ4では若年者失業率を示す折れ線グラフを重ねてみた(数値はグラフ1のものと同じ。目盛りは右軸であることに注意)。ただし、グラフ4の焦点はあくまで若年者人口の内訳を見ることなので、目立たないように薄い色にした。労働力率と若年者失業率のあいだには負の相関があることが分かる。ただ、これはそれほど驚くことではなく、失業率を計算するときの分母は労働力であるため、その部分が大きいほど、失業率は小さくなるからだ。既に触れたように失業率は、失業者数(青+水色)を労働力人口(青+水色+赤+ピンク)で割ったものである。ドイツの労働力率は少し低めだが、失業者が少ないため失業率も低くなっている。一方、スウェーデンは失業者が比較的多めなので失業率は高くなっている(ただ、そのうちの多くは既に議論したように学生の求職者である)。

これに対し、グラフの右のほうに行くにつれ、失業者(青+水色)の絶対的な割合が増えるとともに労働力率が低いために若年者失業率が高くなっている。

つまり、このグラフ4から見えてきたのは、若年者失業率が低い国の特徴は、労働力率が高いことである一方、若年者失業率が高い国の特徴は、若年者人口に占める失業者の割合が大きいと同時に労働力率が低いことである。この事実は、若年者失業率だけ(つまり、グラフ1だけ)を見ていたのでは決して分からなかったことだ。あのようなグラフを見て延々と議論するよりも、このグラフをベースに議論したほうが遥かに有益だと思う。

(ちなみに、グラフ4はEurostatのデータに基づいているが、ここでの「学生」は勉学を本業とするフルタイムの学生に限らず、すべての学生をカウントしている。一方、グラフ3はフルタイムの学生に限っている。グラフ4のスウェーデンでは、失業者に占める学生の割合が50%を超えるが、グラフ3の右図では50%以下であるのはそのためである)

下の2つのグラフは、15-19歳と20-24歳の2つの年齢層に分けたもの。ただし、2012年のデータがEurostatで手に入らない国もあり、その場合は省くことにした。国の順番は、この上のグラフと同じである。


グラフ5: 若年者人口の内訳(15-19歳) <出典:Eurostat>


グラフ6: 若年者人口の内訳(20-24歳) <出典:Eurostat>


【 徒弟制(見習い制度)を導入している国は若年者の労働力率が高く、失業率が低い 】

さて、グラフ4~6を見て驚くのは、若年者の労働力率(青+水色+赤+ピンク)が国によって大きく異なることである。オランダ、スイス、デンマークに至っては、15-19歳の年齢層でも50%を超えている。

これらの国々で労働力率が高い理由の一つは、高校の職業科教育において徒弟制(見習い制度)が導入されていることである。徒弟制では生徒が実際の職場に行って仕事の実践を学ぶ。そして、その職場から給料をもらう。そのため、その期間中は「就業中」とみなされるのである。この制度はデンマーク、ドイツ、オーストリア、オランダなどで一般的であるほか、ノルウェーやイギリス、アイスランドでも導入されている。その結果、これらの国の15-19歳の年齢層の若年者就業率は高く、さらに就業者の大部分が学生なのである(スイスは分からないがおそらく似たような感じではないだろうか)。失業率の計算式を思い出してもらえば分かると思うが、就業者数が大きいと分母も大きくなり、失業率が低くなる。

これに対し、スウェーデンやフィンランドはそのような制度があまり普及していないか、あったとしても職場から給料が貰えないケースが多いため「就業中」ではなく「非労働力」にカウントされる。その結果、先ほど挙げた国々よりも15-19歳の年齢層における就業中の学生の割合が少なくなるようだ。


表1: 高校生全体、および学生全体に占める、徒弟制で研修をする高校生の割合。
<出典:スウェーデン統計中央庁 (SCB)>

(注:高校生全体に占める割合は、アイスランドのデータがないが、他の国を見てみると高校生全体に占める割合は、学生全体に占める割合の約2倍であるため、15~16%ほどではないかと推測できる。)


【 学生向け補助金が夏休みに支払われない国は若年者失業率が高くなりがち 】

ところで、グラフ4~6からは、スウェーデンやフィンランドでは「失業中」とカウントされる学生が比較的多いことが分かる。既に説明したように、スウェーデンやフィンランドでは、高校生や大学生に対する生活補助金があるのだが、夏の間の数ヶ月は支払われない。そのため、夏休みはサマージョブを見つけて働くことが一般的となっている。サマージョブ探しは年が明けてから本格化するが、仕事を探している期間や、その仕事が始まる3ヶ月前からは「失業者」としてカウントされる。そのため、失業中の学生(グラフで水色の部分)が多くなりがちなのである。

これに対し、イギリス、デンマーク、ドイツ、オーストリアでは高校生や大学生に対する生活補助金が一年中、支払われるため、仕事探しをする学生の割合はスウェーデンよりは小さいだろうし、少なくともスウェーデンのように一年のある時期に急に失業中の学生が増えることはない。ちなみに、オランダやノルウェー、アイスランドでも、スウェーデン・フィンランドと同様に夏の間は生活補助金が支払われない。しかし、これらの国々に共通するのは徒弟制(見習い制度)があることであり、その制度で研修をしている学生が夏休みのサマージョブ探しをしても、統計上はすでに「就業中」あるため、「失業者」には見なされない。その結果、徒弟制のある国々では失業中の学生が少なくなる傾向にある。

(では、若年者の就業率が低い国々の事情はどうかというと、詳しいことは分からないが、高校生が働くのが稀であったり、大学に入っても若者が経済的に親に依存していることなどの要因が働いているのだろうか。)


【 若者の社会的・経済的状況を知るには、どの指標が良いか? 】

長々と書いたが、私が説明したかったのは、失業率だけを見ていては若者の雇用状況の全体像は掴めないこと。だから、それよりも若年者人口に占める就業者や失業者の割合を見たほうがより有益なのだが、その場合に注意しなければならないのは、各国の制度の違いによって学生が就業者にカウントされたり、失業者にカウントされたりすることがあるので、単純な比較が難しい。少なくとも、就業者・失業者を、学生か、そうでないかに分けたうえで分析すべきであろう、ということである。

そもそも、若年者の失業率をあれこれと議論するのは、一つには、社会的・経済的に困窮している若者がどれだけいるかを知りたいからであろう。では、その目的のために、失業率よりも適した指標は何かがあるだろうか。

一つの候補としては、若年者人口に占めるNEET (Not in employment, education or training)の割合だろう。つまり、仕事に就いているわけでもなく学校に通っているわけでもない若者の割合(グラフ4~6では青+深緑の部分)である。これが高い国々は、若者が大きな社会的・経済的な問題を抱えていると考えて良いのではないだろうか。

グラフ7では、若年者人口に占めるNEET率を表してみた。濃い紫が15-24歳の年齢層のNEET率であり、高い順に国を並べた。EUの平均が13%、国によっては20-25%に達するケースもあり、若者の状況が深刻であることが伺える(ただ、インフォーマル・セクターで雇用されている場合もある)。一方、徒弟制(見習い制度)を議論した時に挙げた国々は5%前後と低い。スウェーデンは、やや高めで7.8%だ。


グラフ7: 若年者人口に占めるNEET率 <出典:eurostat>

(NEETとは先述の通り、Not in employment, education or trainingであるが、Eurostatのこの統計では education/trainingを、ありとあらゆる教育・訓練プログラムと定義しているため、そのようなプログラムにフルタイムで参加していない人も除外されている。よって、例えば週に1日だけ学校に通って、あとは何もしていない人などを加えれば、NEET率はもうちょっと高くなるだろう)

私がここで言いたいのは、スウェーデンのNEET率は比較的低いのだから、何も心配する必要はない、ということではない。15-19歳、および20-24歳のNEET率がそれぞれ4.1%と11.1%というのは、やはり何らかの政策で減らしていくべきものだと思うので、例えば、高校の職業化における徒弟制などを見習っていく必要はあると思う(ただ、一方で人生の早い段階で、職業選択の幅を狭めてしまうことにも問題はあるだろう)。


【 おわりに 】

ちなみに、「失業率」という経済指標が抱える問題、つまり、非労働力が全く考慮されていないという問題は、若年者に限ったことではなく、他の年齢層の失業率でも同じである。一般的な話として、例えば不況期には仕事が見つかりにくいため、仕事探しを断念して非労働力化する人が増える(主婦・主夫、学生、早期退職者etc)。そうすれば、失業者とカウントされる人が減り、失業率が減少する結果となる。つまり、仕事があれば働く意思があった人が含まれなくなってしまう。だから、人口に対するNEET率で比較したり、人口に対する就業率で比較するのが良いと思う。

スウェーデンの大学で学士論文を書いた時に、「失業率」指標の問題についてはあれこれ考えたので、つい反応してしまうテーマである。

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2 コメント

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Unknown (中野多摩川)
2014-03-01 12:22:06
徒弟制度が高校の授業に組み込まれて、給料も支払われている国々があることは勉強になりました。ドイツのギルド制度については40年も前になる学校の授業で学んだ記憶がありますが、その制度が今も生きているのですね。
 ところで各国の徒弟制度が労働組合の組織の基礎を成していると思うのですが、同じように親方から仕事を学び継承していくという意味では日本も同じだったと思うのですが、どうして日本の労働組合は、ヨーロッパのそれに比べて弱いのでしょうか。大きなテーマ過ぎて一口で説明するのは難しいとは思うのですが、気が向いたらまたブログに綴っていただければ幸いです。
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Unknown (Yoshi)
2014-03-05 07:34:14
コメント、ありがとうございます。
たしかに大きなテーマですが、少し考えてみたいと思います。
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