アフガニスタンに国際部隊として派遣されているスウェーデン兵士に2人の犠牲者が出た。徒歩によるパトロール中に、アフガニスタン警察の制服を着た何者かに至近距離で射撃され、28歳の大尉と31歳の中尉が命を落とした。また、同行していた現地雇用のアフガニスタン人通訳も殺害された他、21歳のスウェーデン兵士も足を撃たれ負傷した。
2001年のアメリカ軍によるアフガニスタン侵攻後、国連安保理の決議を受けてNATO主導による国際部隊(ISAF:International Security Assistance Force)が平和構築のために派遣されることになった。現在は42カ国から10万人の兵士が派遣されている。スウェーデンはNATOの加盟国ではないものの、国連の決議を受けた平和維持活動であることを理由に500人規模の兵士を派遣している。
しかし、治安状況は悪化するばかりだ。アメリカ軍による侵攻以前にアフガニスタンの中央政権を握っていたのはタリバン勢力だったが、彼らをはじめとする武装勢力による抵抗活動が近年ますますエスカレートしている。国際部隊の犠牲者は2008年の295人、そして昨年2009年は520人へと急増した。

スウェーデン軍が派遣されている北部地域で最近多発する襲撃事件 出典:Dagens Nyheter
スウェーデン軍が派遣されているのは、比較的治安が良いといわれるアフガニスタン北部のマザーリシャリーフという地域であり、他の国際部隊ほど大きな危険に晒されているわけではないが、それでも既に2005年に2人の死者を出した。この時は、車両を使ったパトロール中に、道路脇に仕掛けられた爆弾が爆発し、兵士2人が重傷を負い、搬送先の野戦病院で命を引き取った。
アフガニスタン全土の治安が極端に悪化した2009年には、11月にパトロール中のスウェーデン軍の装甲車の真下で爆弾が爆発し、4人の兵士が重傷、アフガニスタン人の通訳が死亡するという事件も起きた。
そして、今回の銃撃事件。
実はNATOの指揮する国際部隊ISAFは昨年後半から戦術を改めていた。現地の人々の信頼を勝ち取るために、人々との触れ合いや交流を大切にしようと、これまでのような装甲車や戦闘車両によるパトロールだけでなく、車両の中から積極的に外にでて、人々と言葉を交わす機会を積極的に持とうと努力してきたのだ。「外国の占領軍」という悪いイメージを少しでも払拭し、現地住民の「心をつかもう」というわけだ。
「ソーシャル・パトローリング」と呼ばれるこの新しい戦術においては、スウェーデン兵士が高く評価されていたようだ。比較的安全な地域に派遣され、一般市民を巻き込むような戦闘に関わってこなかったため、悪いイメージが薄く、人々と接しやすかったという背景もあるし、スウェーデン部隊そのものがコミュニケーションに以前から力を入れてきたことも理由の一つだ(女性兵士も何人か派遣されており、現地女性と接点を持つことにも力を入れてきたようだが、極端な男性社会において、それがうまく行っているのかどうかはよく分からない)。
しかし、徒歩によるパトロールはもちろん危険も伴う。今回の事件は、装甲車両を後にし、村人と話をしているときに起きた。アフガニスタン警察の制服を着た数人の警官を見つけ、声をかけようと近づいたところ、彼らが至近距離で小火器を発砲した。
容疑者と思われる3人が既に逮捕されたというが、詳しい目的などは分かっていない。一説によると、ここ数ヶ月、アフガニスタンの治安部隊はフィンランド軍とスウェーデン軍の支援のもとで麻薬の取締りを強化しており、事件の起きた前の週には、その村の近くで大量の麻薬と爆薬が押収されていたという。だから、タリバン勢力ではなく、そのほかの犯罪組織の可能性もある。

タリバン勢力が事実上制圧した地域 出典:Dagens Nyheter
アメリカのオバマ政権はアフガニスタンへの増派を実行しているが、「戦乱の歴史に終止符を打ち、新生アフガニスタンの平和を構築すること」という目的を達成できる可能性がそもそもあるのかを疑問視する声はますます強くなっている。
大義名分は確かに聞こえはいいが、英米軍を中心とする軍事活動によって市民が巻き添えになる事件が後を絶たない。国連の推計によると昨年の市民の犠牲者は約2400人だったが、その3割は国際部隊によるものだったという。そのような事件が起こるたびに、タリバン勢力が人気を高めているというし、経済的な理由で犯罪組織などに加わって食べる糧を得る者もいる。国際部隊は、アフガニスタン人による治安部隊や警察の教育に力を入れているが、タリバン勢力のほうが高い給料を払っているという話もある。警察の制服は着ていても、タリバンの内通者である者も少なくない。
では、どうするのか? 今、手を引けば国をタリバンに明け渡し、これまでの努力を水の泡にすることになるし、かといって、先の見えないこのミッションに自国の兵士を犠牲にできるのか。最近は「タリバンと和解して、政権に加わってもらう」という妥協案が欧米から出ている。
今回の事件を受けて、既に「自国兵士の命を危険にさらす価値のあるものなのか?」という声がスウェーデンでも上がっている。興味深いことに、アフガニスタンでの平和維持活動に積極的な参加を主張してきた日刊紙の一部も、社説において「ミッション参加の意義を再考する可能性も残しておく必要がある」というように、躊躇が窺える内容を書いていた。スウェーデン国内には、アフガニスタンから難民として受け入れられた人も多数いるが、彼らの間でも国際部隊展開の意義について意見が分かれているようだ。
ちなみに、親ブッシュ政権の立場を取り、当初から米軍への積極的支援を行ってきたデンマークは、アフガニスタンにて既に31人の兵士を失っている。
既に負けた戦争、という人もいるこのミッション。どうにも出来ないジレンマだ。
2001年のアメリカ軍によるアフガニスタン侵攻後、国連安保理の決議を受けてNATO主導による国際部隊(ISAF:International Security Assistance Force)が平和構築のために派遣されることになった。現在は42カ国から10万人の兵士が派遣されている。スウェーデンはNATOの加盟国ではないものの、国連の決議を受けた平和維持活動であることを理由に500人規模の兵士を派遣している。
しかし、治安状況は悪化するばかりだ。アメリカ軍による侵攻以前にアフガニスタンの中央政権を握っていたのはタリバン勢力だったが、彼らをはじめとする武装勢力による抵抗活動が近年ますますエスカレートしている。国際部隊の犠牲者は2008年の295人、そして昨年2009年は520人へと急増した。

スウェーデン軍が派遣されている北部地域で最近多発する襲撃事件
スウェーデン軍が派遣されているのは、比較的治安が良いといわれるアフガニスタン北部のマザーリシャリーフという地域であり、他の国際部隊ほど大きな危険に晒されているわけではないが、それでも既に2005年に2人の死者を出した。この時は、車両を使ったパトロール中に、道路脇に仕掛けられた爆弾が爆発し、兵士2人が重傷を負い、搬送先の野戦病院で命を引き取った。
アフガニスタン全土の治安が極端に悪化した2009年には、11月にパトロール中のスウェーデン軍の装甲車の真下で爆弾が爆発し、4人の兵士が重傷、アフガニスタン人の通訳が死亡するという事件も起きた。
そして、今回の銃撃事件。
実はNATOの指揮する国際部隊ISAFは昨年後半から戦術を改めていた。現地の人々の信頼を勝ち取るために、人々との触れ合いや交流を大切にしようと、これまでのような装甲車や戦闘車両によるパトロールだけでなく、車両の中から積極的に外にでて、人々と言葉を交わす機会を積極的に持とうと努力してきたのだ。「外国の占領軍」という悪いイメージを少しでも払拭し、現地住民の「心をつかもう」というわけだ。
「ソーシャル・パトローリング」と呼ばれるこの新しい戦術においては、スウェーデン兵士が高く評価されていたようだ。比較的安全な地域に派遣され、一般市民を巻き込むような戦闘に関わってこなかったため、悪いイメージが薄く、人々と接しやすかったという背景もあるし、スウェーデン部隊そのものがコミュニケーションに以前から力を入れてきたことも理由の一つだ(女性兵士も何人か派遣されており、現地女性と接点を持つことにも力を入れてきたようだが、極端な男性社会において、それがうまく行っているのかどうかはよく分からない)。
しかし、徒歩によるパトロールはもちろん危険も伴う。今回の事件は、装甲車両を後にし、村人と話をしているときに起きた。アフガニスタン警察の制服を着た数人の警官を見つけ、声をかけようと近づいたところ、彼らが至近距離で小火器を発砲した。
容疑者と思われる3人が既に逮捕されたというが、詳しい目的などは分かっていない。一説によると、ここ数ヶ月、アフガニスタンの治安部隊はフィンランド軍とスウェーデン軍の支援のもとで麻薬の取締りを強化しており、事件の起きた前の週には、その村の近くで大量の麻薬と爆薬が押収されていたという。だから、タリバン勢力ではなく、そのほかの犯罪組織の可能性もある。

タリバン勢力が事実上制圧した地域
アメリカのオバマ政権はアフガニスタンへの増派を実行しているが、「戦乱の歴史に終止符を打ち、新生アフガニスタンの平和を構築すること」という目的を達成できる可能性がそもそもあるのかを疑問視する声はますます強くなっている。
大義名分は確かに聞こえはいいが、英米軍を中心とする軍事活動によって市民が巻き添えになる事件が後を絶たない。国連の推計によると昨年の市民の犠牲者は約2400人だったが、その3割は国際部隊によるものだったという。そのような事件が起こるたびに、タリバン勢力が人気を高めているというし、経済的な理由で犯罪組織などに加わって食べる糧を得る者もいる。国際部隊は、アフガニスタン人による治安部隊や警察の教育に力を入れているが、タリバン勢力のほうが高い給料を払っているという話もある。警察の制服は着ていても、タリバンの内通者である者も少なくない。
では、どうするのか? 今、手を引けば国をタリバンに明け渡し、これまでの努力を水の泡にすることになるし、かといって、先の見えないこのミッションに自国の兵士を犠牲にできるのか。最近は「タリバンと和解して、政権に加わってもらう」という妥協案が欧米から出ている。
今回の事件を受けて、既に「自国兵士の命を危険にさらす価値のあるものなのか?」という声がスウェーデンでも上がっている。興味深いことに、アフガニスタンでの平和維持活動に積極的な参加を主張してきた日刊紙の一部も、社説において「ミッション参加の意義を再考する可能性も残しておく必要がある」というように、躊躇が窺える内容を書いていた。スウェーデン国内には、アフガニスタンから難民として受け入れられた人も多数いるが、彼らの間でも国際部隊展開の意義について意見が分かれているようだ。
ちなみに、親ブッシュ政権の立場を取り、当初から米軍への積極的支援を行ってきたデンマークは、アフガニスタンにて既に31人の兵士を失っている。
既に負けた戦争、という人もいるこのミッション。どうにも出来ないジレンマだ。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます