スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

スウェーデンの地方紙 と ヨンショーピン新聞

2005-03-14 07:06:08 | コラム


スウェーデンは国の大きさのわりに、地方紙の種類が多い。国全体で人口が900万人。ストックホルム首都圏には179万人(ストックホルム市は76万人)、ヨーテボリ都市圏が85万人(ヨーテボリ市は49万人)、マルメ都市圏が53万人(マルメ市は27万人)、四番目に大きい都市ともなるとウプサラ市:人口18万人までに小さくなる。

日本の感覚からいくと、ウプサラ市以降は日本の地方としにも及ばない、田舎町ということになろうか。それだけ町々の規模が小さく、散らばって住んでいる。それだけ人々が散在して住んでいれば、地域ごとの新聞も必要になってくるわけだが、それと同時に、一つ一つの新聞の規模(発行部数)が小さいものとなるならば、商業ベースでは採算がとれなくなると問題が起こる。

このため、スウェーデン政府は毎年、多額の補助金を各地方紙の運営につぎ込む。いくら小さな地域でも、地方紙が存在し、住民が地域社会の出来事に接し、日々の生活について議論できる場(フォーラム)があることは、地域レベルの民主主義の活性化につながるという考えからだ。発行部数を見ると、朝刊紙では最大のDagens Nyheter(全国紙)の36万部(推定読者数91万人)、第二のGöteborg-posten(ヨーテボリ地方紙)25万部(同58万人)から始まり、小さな地方紙にいたると発行部数2000部(同7000人)という小さなものも存在する。

ちょっと余談になるが、スウェーデンというと高福祉高負担で、経済全体における公的部門の割合が相当大きい(60%?)こと、さらに非利益団体(NPO)が映画館や体育ジムなどを運営して経済活動に関与している割合が高いことが有名だが、それは一つには国の規模が小さく、さらに一つ一つの地域の規模が小さいために、福祉部門にしても娯楽部門にしても利益追求の企業では採算がとれずに、経営がやっていけない、という根本的問題もあるのだと思う。(これは私は確証があるわけではないが)

さてさて、そのような政府からの補助金によっても、結局は経営がやっていけず、廃刊になる地方紙が出たり、周辺の地方紙と合併する新聞も過去10~20年ほどの間にあったようだ。それでも、週に3回以上発行している朝刊紙を数えると、未だに148紙もあるというのは驚きに値する。政府の基本的な方針としては、各地域に少なくとも2紙の新聞を存在させて、競合させることなのだ。そうすることで、地域レベルでの議論を活発化させて、民主主義の成熟を保とうというのだ。結果として、多くの地域で、例えば社民党系の左派の朝刊紙と経済リベラル、もしくは保守系の右派の新聞が競合しているという状態が見られるのは面白い。私が住むヨンショーピンはちょっと例外で「ヨンショーピングス・ポステン(Jönköpings-Posten)」の独占市場だ(色は一応、独立系)。

私自身は全国紙のDagens Nyheter(自称、独立系リベラル)の朝刊を講読しているため、あまり地方紙のJönköpings-Postenに目を通すことはないのだが、たまに大学の図書館で読んでみると、面白い記事が見つかることもある。全国のニュースや世界のニュースも一応あるが、半分以上は地域のニュースが多い。

他人の庭にいつも家庭ゴミを捨てる人がいて困るので、堪りかねて、ゴミの中身を見てみたら、中から宛名の書かれた封筒が出てきて、それで張本人が分かったとか、そんな身近なほのぼの(?)とした事件も読める。

今日、私が図書館で爆笑してしまった地域ニュースはこれ。

「ヨンショーピン市郊外のNorrahammar(Råslättのさらに南)に住むある女性が、自宅の窓越しに外を眺めていると、バス停付近にいた若い女性に一台の車が通りがかった。突然、覆面とした数人が車から飛び出し、その女性をテープでぐるぐる巻きにして、車に押し込み、逃げ去ってしまった。
一部始終を見ていたこの女性はすぐさま警察に211番通報。県警は3台のパトカーを現場に急行、すぐさま捜査を開始した。検問が張られ、あたりは騒然とした。
しかし、しばらくして誘拐された女性が、ある誕生日パーティーにいることが分かった。実は、この彼女はこの日、18歳の誕生日で、彼女の友人が“ビックリ”パーティーを企んでいたのだった。この“誘拐”のあとに彼女は誕生パーティー会場に“連行”され、それでドッキリ、というわけだ。
ヨンショーピン県警は“今後このような誕生日パーティーを計画する場合には、事前に警察に連絡するように”と、住民に呼びかけている。」


ということですので、平和なヨンショーピンにお住まいのみなさま、気をつけましょう。


P.S. っていうか、これヤバくないですか? 本物の強盗があらかじめ県警に「今度××を誘拐するけど、これはホンの冗談だから、通報があっても来なくていいよ」って伝えておけば、本当に住民から通報があったときに警察は「ああ、あそこで“オオカミが来た~”って叫んでいる人がいるけど、そのオオカミは無害だからほっとけば大丈夫さ」ってことになりませんか?
どうよ、ヨンショーピン県警?!

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