スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

昨年7月のノルウェー無差別テロのルポタージュ: 人生を大きく変えたあの瞬間

2012-04-15 01:15:15 | コラム
ノルウェーのオスロ官庁街とウトヤ島で昨年7月に起きた無差別テロの裁判が月曜日から始まるのを前に、今日(土曜日)のスウェーデンの日刊紙は大きなルポタージュを掲載している。オスロの官庁街に仕掛けられた爆弾の爆発直後に撮られた写真が、事件の生々しさを伝えている。



写真に映っているのは、男性を抱えながら携帯を手にする女性。二人は実は夫婦だ。

事件の当日は、この夫婦は息子の家で一緒に夕食を食べる予定だった。夫は自宅を出て、法務省に勤務する妻を迎えに車で官庁街へやって来た。金曜日だったので、妻は早めに職場を後にするつもりで、夕方3時半に落ち合う約束をしていた。少し早く着いたので、しばらく官庁街の付近を車で走って時間つぶしをした後、官庁街のいつもの場所に車を止めて、外に出た。爆発が起きたのは、その数秒後だった。爆風でなぎ倒された。「建物全体が大きく浮き上がったようだった。地上に倒れ伏したとき、とっさに頭をよぎったのは妻のことだった。ああ、巻き込まれてしまったかもしれない。妻を失ってしまったかもしれない、と思った」

一方、妻はこの日、法務省の地階にある書庫で書類を探していた。しかし、いつまで経っても見つからない。仕方なしに、建物の12階にある自分のオフィスに戻って、再び検索を行っていた。そのとき、大きな爆発音とともに建物が揺れた。地階の書庫は大破し、あのままあの場所にいたら生きていなかっただろう。「爆発の後、とっさに考えたのは夫のことだった。建物の外で私を待ってくれているはずだったが、大丈夫だろうか」

彼女が一階に降り、建物から飛び出すと、夫は血を流しながら法務省の入口下の階段で横になっていた。爆風で倒された場所から、肘を付いて這ってきたようだった。付近にいた警官が既に応急処置を施していた。この警官はベルゲンの警官だったが、休暇中でたまたまオスロにおり、官庁街にいたときに事件に遭遇した。妻は「夫が一命を取りとめたのは、この警官のおかげだったと思う」と語る。妻は負傷した夫を抱きかかえ、救急車が来るまでの間、必死に励まし続けた。

その間、自分たちの写真を撮るカメラマンがいることに気づいた。夫は、その時は良い気分がしなかった、と振り返る。しかし、時間が経つにつれ、あの時の状況を記録に収める人がいてくれたのは良かったと思うようになった、と語る。

夫は爆発で飛んできた4cmの金属片が鼻から目の近くまで深く突き刺さり、脳まであと数mmの所に達していた。顔全体が打撲し、胸に突き刺さった金属片は心臓まであと僅かの所で止まっていた。右足は数度にわたる手術の甲斐なく義足になった。現在は理学療法士の下でリハビリを続けている。車を再び運転できるようになるのが目標だという。同じリハビリセンターでは、彼と同じようにあの日、負傷しながら幸いにも一命を取りとめた人達がリハビリを行ってきた。

写真:Dagens Nyheter

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