スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

高い安全性が求められる電子データ保管場所 (2)

2011-07-10 18:11:50 | スウェーデン・その他の経済
前回の続き。

さて、サーバーセンターがたとえ地震など自然災害に耐えたとしても、原発と同じで、外部からの電力供給が途絶えてしまえばどうしようもない。電気がなければ、サーバーセンターは機能を果たさない。トラブルが発生してサイトにアクセスできなくなれば、信用問題になる。そのために、原発と同様に予備電源を準備することが不可欠だが、このサーバーセンターではその数が半端ではない

たしか、原発の原子炉1つあたりに備え付けられているディーゼル発電機の数が4個とか8個とか、一桁の数字だったと思うが、このサーバーセンターでは何と30個のディーゼル発電機が設置され、発電出力の総量は240MW(=24万kW)になるという。平均的な原子炉1つの出力を100~120万kWとすれば、その5分の1に相当する。そして、万が一のときにきちんと作動するように、普段から稼動点検が行われる。1日に1つのディーゼル発電機を1時間から2時間ほど動かし、ちょうど1ヶ月で30機すべての点検が終了し、その翌日からは再び1機目から稼動点検が繰り返されていく。

原発とサーバーセンターでは、技術も操業内容も全く異なるので単純な比較は難しい。サーバーセンターの予備電源は、外部の電源が途切れた時にそれをすべてカバーすることを目的としているため、発電機の数もその出力の合計も非常に大きいが、原発の予備電源は原発が止まったときにその発電量のすべてを賄うためのものではなく、あくまで冷却水の循環ポンプに必要な電力を確保することが目的だ。だから、発電機の数も多くはいらない。

それでも、原発にも予備電源システムを何重にも用意し、その一部が動かなくても残りの部分で循環ポンプを動かせるというような万全の構えをしてこなかったことが、今回の事故では致命的となった。国策のもとでぬくぬくと育てられた地域独占企業と、国際的な激しい競争に支えられたIT産業との、リスク管理に対する考え方の違いを表していると解釈できるかもしれない。


ルレオの町(市のホームページより)。
ただし、サーバーの建設は郊外の森の中

では、寒冷な気候のほうが冷却のためのエネルギーが少なくて済むなら、なぜもっと北の、例えば北極圏に作らないのか?という疑問も出てくるかもしれない。実は、この地が選ばれた3つ目の理由は地元にルレオ工科大学があり、優秀な若い人材の供給や、技術開発のための提携が期待できるという点だったのだ。

地元ルレオ市としては、新しい雇用を期待している。3つのサーバーセンターの立地によって、運転のために技術者など少なくとも50人の職がまず生まれる。また、フェイスブックは関連するサポートセンターを、サーバーセンターの近くに建てることも予定している。今後、他のIT企業などがこのルレオの街に着目して、サーバーセンターなどを建設していけば、クラスターとして成長する可能性もある。市の関係者は「1000人ほどの雇用につながるかも」とかなり楽観的な見方をしている。

だから、このフェイスブックのサーバー建設の話は、ルレオ市にとっては非常に嬉しい話であり、環境影響評価などの審査をクリアしさえすれば、認可を拒む理由は見当たらない。ある地元紙は、「フェイスブックが大きなサーバーセンターを建設」という見出しのあとに、サブタイトルとして「県の認可当局は、迷うことなく『いいね!』ボタンを押した」と、気の利いたジョークを書いていた。

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2 コメント

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Unknown (aya)
2011-07-14 01:30:42
10月に来日されるんですね!講演楽しみにしています。

映画「ソーシャルネットワーク」の中で、マークが絶対サーバーを落としてはいけないんだ!と言っていたのを思い出します。
確かに東電もこのぐらいの危機管理があったら。。。
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Unknown (Yoshi)
2011-07-15 09:06:49
>映画「ソーシャルネットワーク」の中で、マークが絶対サーバーを落としてはいけないんだ!と言っていたのを思い出します。

映画はみたいと思いつつ、結局見る機会がなかったので、貴重な情報です。それくらいの意気込みが危機対策には必要ですね。
(実は今も少しの間、日本に潜伏しています)
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