スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

パイレート・ベイのその後 (1)

2009-07-13 06:01:12 | スウェーデン・その他の社会
ずっと前に、スウェーデンの違法ダウンロードサイト「ザ・パイレート・ベイ (The Pirate Bay)」の裁判が始まったことを紹介した。結局どうなったかというと、地方裁判所における第一審で、起訴された4人に1年の禁固刑という有罪判決が言い渡された。そして、被害を負ったとされるレコード会社や音楽製作会社などに合計で3000万クローナ(約2億5000万円)の損害賠償を支払うことも命令された。

判決を受けた4人は現在、高等裁判所に控訴しているところだ。

<以前の記事>
2009-02-08:The Pirate Bayの裁判

しかし、この第一審判決のあとで明るみになったことがあった。実は、この裁判を担当した裁判長は、スウェーデン著作権協会の会員であるとともに、スウェーデン産業特許保護協会の幹部でもあったのだ。この両方の団体は、スウェーデンにおける著作権保護の強化を訴えている団体である上、スウェーデン著作権協会にいたっては、問題の4人を告発した人々やスウェーデンの音楽・映画の企業や業界団体なども会員になっている。そのため、裁判における中立性が損なわれ、著作権保護団体や業界団体に「ひいき」が行われたのではないか、という疑いが持たれたのだった。

ちなみに、スウェーデンの司法では参審制という制度(陪審制ではない)が用いられており、裁判の判決は裁判官・裁判長と参審員が共同で協議した上で判決が下されることになっている。しかし、裁判に先駆けては、この裁判の参審員に任命されていた男性の一人が自ら辞退した。その理由は、彼もスウェーデン作曲家協会という著作権保護を主張している団体の会員であり、非中立性の疑いが持たれることを自ら恐れたためであった。

<以前の記事>
2008-12-10:スウェーデンの裁判員制度-「参審制」

だから、この裁判長も本来なら自ら辞退すべきだった。それをしなかったのは、大きな過ちだったであろう。しかし、本人は「裁判における中立性には問題がないと判断したため、そのような団体に自らが属していることを公にする必要はないと考えた」と述べている。私としては、今回の判決自体は納得のいくものだったと思う。だからこそ、せっかくの判決にもかかわらず、その正当性にあとで疑いが投げかけられるようなリスクは、あらかじめ除去しておいて欲しかった。

非中立性の問題から、この第一審のやり直しを求める声もあがったが、裁判所は結局、その必要はないという判断を下した。また、この問題については何人かの法律専門家自らの見解をメディアで発表していたが、そのうち行政オンブズマンをはじめとする多くの専門家が「裁判の一方の側とたまたま同じ団体に所属していたというだけでは、中立性の問題から裁判をやり直す根拠とはならない」と述べていた。

ここまでの前置きが長くなったが、実は有罪判決を受けた4人は新たな「ビジネス」を立ち上げようとしている。それについては、次回で。