スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

スウェーデンの裁判員制度-「参審制」

2008-12-10 00:10:42 | スウェーデン・その他の社会
日本ではいよいよ「裁判員制度」が始まるようだ。司法への国民参加をうたって導入されたこの制度だが、自分の仕事に支障を来たすとか、素人が果たして公正な判断を行えるのか、とか、裁判の手続きが簡略化されるのではないか・・・etcといろいろと問題がありそうだ。


司法への国民参加といえば、イギリスやアメリカの「陪審制」が有名だが、陪審制では裁判官が評議に加わらず、陪審員のみで事実認定と評決を下し、刑事訴訟であれば陪審員が有罪とした場合に、裁判官が登場して量刑を決め、判決を下すことになっている。一方、今回日本で導入されることになった「裁判員制度」では裁判官と市民が共に評議・評決を行う。また、刑事訴訟では、量刑も裁判官と市民がともに話し合って決めるようだ。これらの点だけを見ても、「陪審制」と「裁判員制度」は異なるようだ。

司法への国民参加というと「参審制」という別の制度もある。これは、ドイツやフランスで導入されている制度であり、裁判に関わる市民のことを参審員と呼ぶらしい。そして、裁判官と一般市民から選ばれた参審員がともに審理・評議を行う。このため、日本の「裁判員制度」と似ているようだが、大きな違いはドイツやフランスの「参審制」では、参審員が任期制だという点だ。これに対し、日本の「裁判員制度」では事件ごとに裁判員が選ばれる

ちなみに、イギリスやアメリカの「陪審制」でも事件ごとに陪審員が選ばれる。だから、日本の「裁判員制度」は「陪審制」と「参審制」の間に位置するのかな、と思う。

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さて、スウェーデンではどうかと言うと「参審制」が採用されている。つまり、一定の任期(4年)を持った参審員(nämndeman)が、裁判官とともに審理や評議を行い、評決や判決を決めるのである。

では、参審員には誰がなるのか? 日本のように一般市民のもとへ突然、候補者の通知書が郵送されてくるのか? いや違う。答えは、端的に言えば(政治任用の)志願制だ。

地方裁判所の場合、その管轄下にある市(コミューン)の市議会が任命することになっている。また、高等裁判所の場合は、それが管轄する県(ランスティング)の県議会が任命する。では、誰を任命するかというと、各政党が推薦した市民である。これは、(1)その党の党員でもいいし、(2)党員以外の市民でもいい。だから、参審員になりたい人がいれば、ある特定の政党の党員になった上で党内で希望を出してもいいし、党員にならなくてもどこかの党に頼んで、自分を推薦してもらうこともできる。


では、(1)の党員というのはどういう人なのか? 選挙のときに手伝うボランティアの人とか、後援会の関係者? いや、スウェーデンの地方政治は、国政と同様、政党政治が基本であり、各党はその党の地方レベルでの政策立案や党内での議論に普段から積極的に貢献しているアクティブな党員を抱えている(大部分の議員と同様、彼らは本職を別に持つボランティア)。そういった人の中から選ぶのである。

このように党員の中から選ばれて重要な公務をするのは、なにも参審員に限ったことではない。スウェーデンの地方政治においては、市議会(もしくは県議会)の議員だけでなく、それ以外にもたくさんの人々が、政治サイドから市(または県)レベルの政治・行政に関わっている(政治サイド、と書いたので市の職員としてではないということ)。

市議会の中には各種委員会が存在し、例えば、交通行政や環境行政、教育行政をつかさどるのは、それぞれ交通委員会、環境委員会、教育委員会であるのだが、ここには市議会に任命された政治任用の委員(複数)が座り、事務方である市のそれぞれの部署の職員とともに行政を運営している。この政治任用の委員には、市議会議員がなることもあるし、議員ではないけれど各政党の党員として活動している人々が政党の推薦を受けてなることもある。ここでも、その政党の地方レベルでの政策の立案に普段から積極的に関与している党員の中から選ばれる。

(私の大学の同僚は環境党に属しており、議員ではないものの、党から推薦されてヨーテボリ市議会のある委員会の委員をしている。彼が言うには、ヨーテボリ市議会の議席が81あるのに対し、このような各種委員会や公的企業の委員のポストの合計は300近くあるらしい。だから、議員だけではとても間に合わず、それ以外の人々も委員に就くことになる。)

だから、参審員もそのような各政党が抱える「議員予備軍」とでも呼べそうな党員の中から選ばれることが多い。ちなみに、参審員にしても、上に挙げた各種委員会の委員にしても、市議会の議席配分に応じて、各党への割り当てが決まるようだ。

また、以前もこのブログで書いたように、市会議員や県会議員の大部分が、本職を別に持つ「自分の自由な時間を利用して政治に関与している議員(fritidspolitiker)」あり、議会が開かれるときだけ報酬を受ける日当制の議員である。これと同じように、各種委員会の委員も参審員も、本職を別に持っており、公務に就いた時間に応じて報酬を得ることになっている。

ちなみに、参審制はそもそもスウェーデン社会を構成する幅広い分野の人々を司法に参加させることを目的としているため、党員だけでなく、(2)党員以外の市民も、もっと積極的に任命していくことが望ましい、という方針をスウェーデン国会および政府は打ち出している。

また、スウェーデンの参審制で重要な点は、参審員の推薦は各政党が行うものの、参審員が任命後に実際に裁判に関わるときには、政治的な主張やバイアスを司法判断に持ち込んではならない、という点である。

(続く・・・)

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2 コメント

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ちょうど関心があったところでした (Denjapaner)
2008-12-10 07:00:28
ご無沙汰しています。ちょうど私も先日デンマークのこの件を調べていて、同じことを知ったのでした。システムとしては、スウェーデンとデンマークは同じようですね。政党をベースにしているけれど、志願するとか、議席数に応じて配分するとか、私が学んだことと同じでしたが、スウェーデンのことが丁寧に整理してあって参考になります。

私は日本に倣って、市民の参席者を「裁判員」と訳していたのですが、上記の任期の点から「参審員」と呼ぶのが適当なのですね。勉強になりました。

ちなみにデンマークの高裁の場合には、3人の裁判官と3人の参審員がいて、裁判官は2票、他は1票ずつでもっていて、量刑を投票するようでした。3分の1の影響力と思うと、なかなか怖いですね。
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Unknown (Yoshi)
2008-12-15 00:50:08
コメントありがとうございます。
何かしらの参考になっていれば嬉しいです。

まだ続きがありますので、後ほど追加します。
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