スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

「電化はイギリス鉄道の将来なのだ!」

2009-07-30 05:15:12 | コラム
ある分野において斬新的なアイデアを生かして先駆(パイオニア)的な役割を果たした国が、その後、それを見習って追いつこうと努力してきた国に先を越され、気づいてみると過去の栄光は跡形もなく消え去っていた・・・、という例は結構あるものだ。

鉄道もその一つだ。

18世紀後半に産業革命による工業化が始まったイギリスでは、1825年に蒸気機関車が実用化され、1850年前後にはほぼ全国的な鉄道網が完成した、と私の手元にある高校世界史の教科書にも書かれている。

しかし、その後の鉄道の発展は、遅れて産業化を行った国々に大きく遅れを取ったようだ。今でも、イギリスを鉄道で旅行した人からは、サービスの質の悪さがよく聞かれる。

しかも、先週の新聞で次のような見出しを目にした。
「イギリスが鉄道の電化に大規模な投資を行うことを決定」

日本やスウェーデンでも、ローカル線となれば電化が遅れており、いまだにディーゼル車が使われているところもあるから、てっきりそのようなローカル線の電化計画かと思ったがそうではない。ロンドンからウェールズ地方のSwanseaを結ぶ幹線リバープールマンチェスターを結ぶ幹線だというではないか!


この計画を発表したゴードン・ブラウン首相はこう述べている。

「電化鉄道は鉄道のこれからのあり方なのだ。環境にもよく、汚染も少なく、速く、遅れることも少ない。電化は21世紀のイギリス鉄道に必要なのだ。人々もなるべく鉄道を使うようになるだろう。」

おいおいおい・・・。

イギリスの鉄道の電化率は40%と、ヨーロッパ諸国の中で一番低いという。トップはスイスで、電化率は100%。スウェーデンは第4位で80%なのだそうだ。

しかし、今さら「電化がこれからの鉄道のあり方だ」などと言っているブラウン首相の気持ちも分かってあげたい。というのも、野党である保守党から「不況の今、さらなる歳出を増やして納税者に負担させるのか!」と批判の槍玉に挙げられているからだ。だから、国内の有権者の支持を得るために、傍から見ると大袈裟な、こんな説明を行っているのだろう。

一方、もう一つの野党である自由民主党は「これは、始まりにすぎない。イギリスは2040年までに完全電化を行うべきだ」と労働党政権のこの計画に賛意を示しているようだ。

スウェーデンでは、CO2削減の観点から、ストックホルム以南の国内航空路線を廃止すべきだという声も挙がってきた。ある調査によると鉄道で3時間程度で行ける範囲だと、乗客は飛行機よりも鉄道を選ぶ傾向にあることが分かっている。だから、例えばストックホルム―ヨーテボリ間は鉄道が善戦している。あとは、もう一つの幹線であるストックホルムとルンド・マルメ・コペンハーゲン(デンマーク)を結ぶ路線でいかに時間が短縮できるか、そして、時間短縮にはもちろん限界もあるから、運賃をいかに下げられるかが鍵となるだろう。

イギリスで、このような議論がどこまであるのかは分からないが、私も今さらとはいえ電化によって鉄道に力を入れようとするブラウン首相を応援したい。