スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

選挙キャンペーン小屋に直撃!

2006-09-13 06:31:47 | 2006年9月総選挙
選挙活動の終盤戦!

公共テレビSVTでは過去二週間ほどの間に、7つの政党の党首を個別にスタジオによんで“公開尋問”をやってきた。視聴率の一番高い夜の8時から1時間の生中継。尋問をするのは、SVTの記者やキャスター。各党とも「あれもやります、これもやります」といろいろな改革を公約として掲げるものの、予算には限りがある。本当に可能なのか? そんな痛いところを、記者がズバズバ突いてくるのだ。それを生放送で撃って返し、説得力ある説明ができるかどうか。党首、そして党の命運がここで分かれるのだ。放送後は、視聴者がサイトで“得点付け”を行うことができる。

それから、SVTや民放TV4のそれぞれで、社民党党首と保守党党首が論戦する「デュエット」が行われた。これは、左派ブロックの代表である社民党党首と、野党である右派ブロックの保守党党首が、面と向かってやりあうのだ。それぞれの論点について、具体的な提案や批判をぶつけて、いかに視聴者を説得できるか。スウェーデンの選挙戦は、いかに政策議論本位かを見せ付けてくれる。
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● 各党の選挙キャンペーン小屋
こういった全国メディアにおいてだけでなく、街頭でも選挙活動は続く。といっても「お願いします、お願いします」と名前ばかりの連呼ではない。各党は、人通りの多いところにValstuga(選挙キャンペーン小屋)という小さな事務所を構えて、道行く人や関心のある人に党の政策を売り込んでいるのだ。

同じ経済学部の博士課程にいるSvenは環境党に深く関わってきた。今回の選挙では候補者ではないのだけれど、党ヨーテボリ支部の執行部で活動してきたため、時間が許すときにはこの「選挙キャンペーン小屋」に出向いて、キャンペーン運動を手伝っている。

私が彼とともにお供したのは、Järntorgetという人通りの多い広場。ここには、環境党だけが「選挙キャンペーン小屋」を出している。小さな小屋の前にテーブルとソファーを出し、党のパンフレットを並べている。Svenを含めて3人の選挙ボランティアが居合わせた。

ソファーに座って、選挙ボランティアと話をする。スウェーデンの総選挙は、国政選挙だけでなく、県議会と市議会の選挙も合わせて行われる。私は国政選挙の投票権はないけれど、県議会と市議会の投票権を持っているので、できれば納得のいく党に一票をささげたい。なので、疑問点をぶつけた。特に関心があったのは、環境政策と産業政策のバランス、それから医療制度の改善。居合わせた選挙ボランティアのEvaは市会議員とともに看護婦として病院にも勤務している。訊かない手はないと思った。

真ん中の女性がEva


同僚のSven(環境党のメンバー)

● 道行く人が気軽に立ち寄れる
ソファーに座ってのんびりと話をすること1時間半。話の内容は別の機会にするとして、驚いたことがある。道行く人が次々と来て、「環境党の政策について聞かせてほしい」「帰りのバスで目を通したいから党の政策マニフェストをちょうだい」「候補者個人についてもっと知りたい」などと、気軽に立ち寄っていくのにはビックリした。訊かれる質問は、環境政策はもちろんのこと、外交から育児政策、産業まで多岐に及ぶ。選挙ボランティアも党の政策のすべてを熟知しているわけではない。中年の女性に文化政策について尋ねられたEvaは「分からないのでこのパンフレットか党のHPを見てくれ」とお手上げだった。「このボランティアをやっていると、私自身、学ぶことが多くて、投票日の直前には様々な分野に熟知するようになる」とコメントしていた。

● 訪問者には中高生もたくさん
何と、中高生がやたらと訪ねてくるのだ。彼らも「環境党について詳しく知りたい」と言う。投票権のない彼らがなぜ深い関心を示すのか、Evaに尋ねてみた。

一つには、中高生が投票できる「Skolval(学童投票)」というイベントが投票日に先駆けてあるためだ、という。スウェーデン中の多くの学校が参加するこのイベントでは、各学校で、本物さながらの“模擬”選挙が行われ、全国レベルで集計される。もちろんこの結果は、本物の選挙とは別物だが、将来の社会を担う若者が今の政治をどのように見ているのか、社会に対する大きなシグナルになる。2002年の総選挙に先駆けては、25万人もの生徒が参加したという。(このイベントについては、改めて詳細報告します)

二つ目の理由は、この総選挙を、社会科(公民科)の生きた教材として使う教師が多く、授業の中のグループ・ワークとして、生徒に重要な論点について調査させ、発表させるからだという。国会の選挙にしろ、地方の選挙にしろ、社会科の生きた教材として、これほど絶好なものはない。日本でも、やっている学校はあるのだろうか?

さらに付け加えるとすれば、キャンペーン・グッズのおかげもある。尋ねてくる若者の少なからずが「“愛”のバッジはある?」と口々に尋ねるのだ。環境党が若者向けに作ったバッジ、「All kärlek är bra kärlek(すべての愛は、素晴らしい愛)」が若者の一部に流行っているらしく、それを求めてやってくるのだ。(バッジの文句は、性別にとらわれず、同性の結婚も積極的に認めていくことを主張)

真面目な政策議論とともに、デザインを駆使したポスターや若者の心をつかむキャンペーン・グッズなど、“とっつきやすさ”も忘れていない、スウェーデンの総選挙。若者の関心が日本よりも遥かに高いのには驚く。あと数日です!