自 遊 想

ジャンルを特定しないで、その日その日に思ったことを徒然なるままに記しています。

大根が好き!

2014年11月19日 | Weblog


 野菜の中で一番好きなのが大根であるかも知れない。この季節、次第に美味しくなるのが大根である。夏の辛い大根おろしも、それはそれで美味いが、大根はやはり冬の野菜であろう。
 大根の古い言い方は「おおね」。これに大根という字を当てたが、漢語ではない。ものの本によると、中世の頃から「だいこん」と音読するようになったが、そこには「根」という言葉を避ける庶民の思いがあった。飢饉になると、木や草の根で飢えをしのぐことが一般的だったので、「根」が飢饉を連想させたからである。春の七草の一つ、スズシロは野生の大根で、正月には鏡餅の上に飾ったので鏡草とも言われた。大根を詠んだ和歌は殆どないそうで、大根の情趣を発見したのは俳諧だそうだ。

 菊の後大根の外更になし  (芭蕉)
 死にたれば人来て大根煮(た)きはじむ (下村魁太1910-1966)

 芭蕉の句に付け加えることなし。
「死にたれば」という上句が深刻な下句を予想させるが、作者はなにくわぬ顔で極めて日常的な情景を淡々と詠む。死を見とどけると、悲しみにくれる間もなく、葬儀の準備が始まる。会葬者のための食事の支度に近所の人々がとりかかる。生きている者にとって、死ぬのはいつも他人なのだ。死が、死を免れた人々にとっては日常のひとこまであることが、大根を炊く行為に、隠れようもなく明かされている。僕らの日常を代表するのが大根なのである。