私のマイフレに英国に住んでいる65歳位の男性がいます。Zonサノバビッチさんという名前で文章を趣味人倶楽部で発表しています。
その方が12年前に亡くなった英国人の友人を思い返して、書いた文章を見つけました。メールのやり取りをして、その文章をここに転載する許可を頂きました。しみじみとした文章です。そして美しく旅立った人のためにお墓を作るのです。最後の数行をお読み下さい。この数行の故に、私はZonサノバビッチさんと知り合ったことを誇りに思っています。
ガンの治療を断って静かに人生を終えた人は無宗教でした。私はいい加減なカトリック信者で、このブログでもキリスト教の宣伝まがいの文章を沢山書いています。しかし何時も無宗教の人々へ対する敬意を滲ませた文章を書いてきました。それが本当に良かったとも感じました。是非ご一読下さい。
=====Zon・サノバビッチさん著、「バイバイ」==========
私は、自分の人生において、あれほど感動した経験を持たない。
深い深い寝息を立てられること数時間。それがあるとき止ったと思うと、何か「上品な退席」をされるかのごとく、すっと逝かれた。
ホスピスでのことであったが、前日「気分が悪い」と言われたとき、その翌朝に亡くなるということが、私には分った。 時間まで、、。朝4時。
ジャックさんは、その2週間ほど前、医者から直接自分が癌の末期症状にあることを宣告され、何ら取り乱すことなく、私にこう言われた。
「わしは、もう永く生きてはいない。今度はあの世で会おう。」
(因みに、そのほぼ2年前、膀胱に癌細胞が発見されたとき、「もう年寄りだから」という理由で、手術を受けることを拒否されている。)
このことを思い出すたび、私はいつも目頭が熱くなる。
ジャックさんは、宗教的な人ではさらさらなかったが、その逝き方は実に綺麗であった。事実あれほど美しい死を見たことがない。人間、あんなに綺麗に死ねるものであろうか。 自分の死に対して、何ら「見返り」を期待せず、潔く「バイバイ」と手を振って逝かれた。私はそこにいたく感動したのである。
身寄りと言って大しておられなかったジャックさんの没後の処理は、結局私がすることになったが、彼の遺灰は全身、私の今のグリニッヂの家の庭に埋めた。そして、その上に、灯篭を置いた。
ただ遺憾なことに、私、この極めて上質な人間でおられたジャックさんに必ずしもいつも親切であったとは言いがたい。
今にしてすまないことをしたと思っているが、そんなことを言っても始まらない。私に出来る最高の恩返しは、これからの人生、いかに全うに生きるかということだけであろう。
ジャックさんが逝かれたのは、12年前の5月1日、未明のことである。 享年88歳。
=========終り=============
皆様のご健康を心からお祈り申し上げます。 藤山杜人