政治の季節【稗史(はいし)倭人伝】

稗史とは通俗的な歴史書等をいいます。
現在進行形の歴史を低い視点から見つめます。

日本郵政社長を決めるのはだれか・2──麻生絶体絶命

2009-06-10 17:33:08 | 麻生太郎
落とし穴は意外なところにあった。
麻生本人にも意外であったろう。
漢字が読めなくとも、
中川財務相が酔っぱらっても、
鴻池が女狂いしようとも、
そ知らぬ顔で政権の寿命を引き延ばしきたのに。
まさか、たかが日本郵政西川社長の続投問題でにっちもさっちもいかない袋小路に追い込まれるとは!

(全回投稿でも触れたが、問題をややこしくしているのは、日本郵政株式会社が委員会設置会社であるという点にもある。日本郵政の社長は誰が決めるかもついでにお読みください。
委員会設置会社は従来の株式会社とは異なり、取締役と業務執行役員とが分離されているのが特徴である)

今更、麻生のブレなど取り上げても仕方ないが、それでも一応取り上げておこう。
はじめは「総務大臣が適切に判断する」
つぎは「財務大臣、官房長官、総務大臣で話し合って判断して貰う」
そして今度は「自分が判断する」

「最終的に私が判断」郵政社長人事で麻生首相 (YOMIURI ONLINE 6/8)
麻生首相は8日夜、鳩山総務相が日本郵政の西川善文社長の更迭を主張していることについて、鳩山氏と与謝野財務相、河村官房長官の3閣僚による調整を引き続き見守る考えを示したうえで、「最終的に(自らが)判断しなければならない」と述べた。
 自らの判断の時期については、「今がいいのか、29日の株主総会の日がいいのか、色々意見の分かれるところだ」と語った。


麻生の気持ちでは西川続投なのだろう。
西川を首にする気であれば、鳩山と揉めることはあるまいから。
しかし、首にする気でいて、騒ぎを盛り上げ最後にスパッと格好良く麻生が決断する、なんてことを考えているかも知れないが……そんなこと出来るわけがない。

麻生にとって一番いいのは、西川続投、鳩山が渋々でも承認という形なんだろう。
実は、麻生には西川解任の決断をすることは不可能なのではないか。

西川の任期は、というと実は二つある。
取締役としての任期と執行役としての任期である。
どちらも株主総会の日に任期が切れる。
いわゆる”社長”というのは、代表執行役としての職務であって、取締役とは別なのである。
西川の肩書きを見てみよう。

取締役兼代表執行役社長

これは日本郵政株式会社が委員会設置会社であるところから、こんな肩書きになる。
取締役と執行役を兼任しているのである。
つまり西川を日本郵政から追い出すには、両方で首にしなければならないということになる。
しかし、それぞれの首の切り方には別々な手続きがいる。
どちらが先でもいいのだろうと思うが、まず執行役の首の切り方である。
”社長”という肩書きをはずさせるためには、これだけでもいい。
(ただしこれだけでは西川は取締役として日本郵政に残ることになる)
これは取締役会で決定しなければならない。
株主総会では決められない。



取締役会が西川の代表執行役続投を決めると、西川を解任するためには政府は取締役会の構成を変える必要が生じてくる。
取締役の選任・解任は指名委員会の決定がいる。
それとは別に、株主総会にも当然その権利があるものと思われる。
しかし、株主総会、この場合は政府ということになるが、政府が指名委員会と異なる決定ができるのか?

前回も書いたが、指名委員会の顔ぶれは次の通りである。
(委員会設置会社における各委員会は取締役で構成され、その委員は過半数が社外取締役でなければならない)

指名委員会
委員長  牛尾 治朗(ウシオ電機株式会社代表取締役会長)
委員   西川 善文(日本郵政社長)
委員   高木 祥吉(日本郵政副社長)
委員   奥田 碩(トヨタ自動車株式会社取締役相談)
委員   丹羽 宇一郎(伊藤忠商事株式会社取締役会長)


西川・高木の他の3人は、いずれも財界の重鎮といわれる連中である。
この連中の決定を麻生や自民党は蹴飛ばせるのか。
もし、この連中が西川続投の意思を固めているとすると、麻生には手に負えまい。
もしこの連中がヘソを曲げて、取締役を辞任するなどと言いだしたら、郵政民営化そのものが頓挫してしまう。

もし、指名委員会の決定(西川の取締役続投)を政府あるいは鳩山が拒否すれば、指名委員会は面子を潰されることになる。

そのときこの連中がすんなり政府に協力し続けるか?
そう簡単に、政府の言うことに従うとは思えない。

まして指名委員会には、西川・高木の郵政のコンビが入っている。
そこで西川の首を切るという話がすんなりまとまるのか?

麻生が指名委員会の判断に反して西川の取締役を解任しようとすれば、指名委員会と正面からぶつかり、場合によっては構成取締役を解任しなければならなくなるかもしれない。
そして執行役を解任しようとすれば、取締役会の構成そのものを変えざるを得なくなるかもしれない。

しかし、麻生に経団連前会長・大トヨタの奥田を辞めさせられるか?
内閣府経済財政諮問会議議員を務め、地方分権改革委員会の委員長丹羽を辞めさせられるか?
安倍晋三の縁戚で元経済同友会代表幹事・経済財政諮問会議議員の牛尾を辞めさせられるのか?

麻生は西川を切る決意を固めたとしても、次にはこの大物財界人を相手にしなくてはならないのだ。

結局鳩山を説得し、駄目なときは鳩山の首を切るというところに落ち着かざるを得ないだろう。

しかし、麻生には問題の所在がはっきり分かっていないのではないか?

「今がいいのか、29日の株主総会の日がいいのか、色々意見の分かれるところだ」

株主総会の日に取締役会の決断を受け入れるにしても、鳩山の承認は依然必要である。
受け入れないとなると、混乱は収拾がつかなくなる。
株主総会で西川取締役を解任するつもりなのか?
しかし、取締役解任はできても、株主総会では代表執行役つまり社長解任はできない。
取締役会で解任する必要がある。
結局、取締役会に言うことを聞かせなければならない。
取締役会が言うことを聞かなければ、取締役を入れ替えなければならない。
そんな決断を株主総会当日にできるのか?
出来るとすれば鳩山総務大臣罷免という決断しかない。

結局、この問題の鍵を握るのは、西川・高木以外の3人の指名委員会のメンバーであり、そのほかの取締役会のメンバーであるるということになる。取締役会が西川続投に強い意志を示せば、麻生にはなすすべがない。鳩山を罷免して西川続投を認めるしかない。
もっとも取締役会特に指名委員会の3人が西川罷免に同意し、自分たちが取締役に留任することを承諾すればそれはそれで鳩山を罷免しなくとも問題はなんとか解決するだろう。
しかし多分、それはあり得ない。

麻生が鳩山をとって、取締役会の意思に反して西川を切る決断をすれば、問題は複雑になるし、民営化そのものが大混乱になるだろうが、それはそれで立派な政治決断と言えなくはない。

しかし麻生には財界重鎮を敵に回すほどの度胸はない!



そもそも、取締役会の構成がおかしい。
まるで財界に郵政会社をプレゼントしたようなものだ。

日本郵政株式会社 取締役一覧

取締役兼代表執行役社長(CEO)
西川 善文  三井住友フィナンシャルグループ元社長。元全国銀行協会会長、

取締役兼代表執行役副社長
高木 祥吉  金融庁長官・2004年4月 内閣官房郵政民営化準備室副室長

社外取締役

牛尾 治朗  ウシオ電機株式会社代表取締役会長
奥田 碩   トヨタ自動車株式会社取締役相談役
西岡 喬   三菱重工業株式会社相談役
丹羽 宇一郎 伊藤忠商事株式会社取締役会長
奥谷 禮子  株式会社ザ・アール代表取締役社長
高橋 瞳   青南監査法人代表社員
下河邉 和彦 弁護士

9人中7人が社外取締役。
西川・高木たちの業務執行を監督できるほど、郵政の業務に精通しているとは思えないのだが……。
権限だけは意外に大きい。




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3 コメント

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こんばんは (udonenogure)
2009-06-10 19:48:12
社外取締役や執行役、各委員会のメンバーと役割を見て私も気がつきました。
二重三重に仕掛けていますね。

住友系と大蔵省関係がこれまで押さえていたら、郵政官僚は恨み骨髄に徹すしているのでしょうね。
今、指定席を作っておかないと完全民営化後では..........。

小泉・竹中もやりすぎ人事ですが、裏に余程の利権がありそうですね。
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内務省復活! (jsds001)
2009-06-12 19:13:47
鳩山大臣の後任は国家公安委員会委員長だそうです。これで地方自治・警察・情報のトップが同一人になり、内務省の完全復活ですね。なった人物が小物だし、麻生も何も気づいていないでしょうが、破れかぶれの反動地獄スパイラルという感じで、先や思いやられます。
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jsds001様 (亭主)
2009-06-16 06:53:34
>地方自治・警察・情報のトップが同一人になり

ジャーナリズムの劣化が進んでいる状況下で、考えてみれば怖い人事ですね。
後任が小物なので、意識しませんでしたが、その地位に伴う権限は厳として存在するものですね。
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