春季大会もいよいよ最終節。ようやく東海大の試合観戦に辿り着いたわけだが、相手の筑波は約2ヶ月前に観た法政戦の対戦相手。東海大の今シーズンを占うとともに、筑波が2ヶ月でどのくらい仕上げてきたかにも興味があるので、楽しみな対戦と言える。
春季大会ができたことで、それまでは大学選手権以外では殆ど生観戦することがなかった対抗戦Gのラグビーをしかもホームグランドで観る機会が増えた。その効果としては、リーグ戦G校では疎かにされがちな部分が見えてきたことなどが挙げられる。百草グランドに何度か足を運べば帝京の強さを産み出した選手をとりまく環境を知ることができるし、上井草や八幡山や日吉のグランドに行けば、普段から熱心に「贔屓チーム」をサポートし続けるファンに支えられた歴史の重みを実感できる。そんな中で、じっくりと観ていきたいと思うようになったチームが筑波だった。その理由は、対抗戦G、リーグ戦Gを通じて他のチームが持っていない「何か」を持っているのがこのチームだということに気付いたから。
筑波の試合で忘れられないのは、去年の東日本大学セブンズ(見事優勝)で見せた精神的なタフネスだった。ファイナルに近づき疲労困憊の中でも沸き上がってくるようなパワーの源泉はどこにあるのだろうかという点に強く惹かれた。対照的にといっては失礼だが、昨年度に行われたいくつかのセブンズ大会で露わになった東海大の精神的な脆さも気になった。本来ならリーグ戦Gの帝京になれるはずのチームに意外とも言える脆さが同居していることがなかなか理解できなかった。そんなこともあり、私的には、この2チームの戦いは勝敗だけに留まらない見どころがいろいろあると思っている。
さて、試合前に三ツ沢グランドのコンビニでレジ待ちをしていたら、思わぬ人から声をかけられた。つい先日、立正グランドでご挨拶したばかりの拓大ファンの方だった。お住まいが近くとのことだったが、それだけではなくて少しでもラグビーファンを増やしたいと思い、友人の方々を誘って観戦に来られたとのこと。そういった意味ではこの試合をセレクトされたことは良かったのではないかと思った。試合場のニッパツ三ツ沢球技場はゲームの観やすさにかけては日本でも指折りの競技場のひとつだし、ピッチの状態も最高。そして、このカードなら心ない野次の応酬がないので、初観戦の人にもラグビーに対する悪い印象を持たれることもないだろう。ぜひリピーターになって頂きたいと願った。
◆今年も試合日程との戦いが待っている筑波/本日のメンバー構成は如何に?
先日、関東大学ラグビーの対抗戦G(A)とリーグ戦G1部の試合日程が発表になった。一番気になることは、やはり今年も筑波にとっては厳しい日程になったということ。緒戦が明治戦(9/14)で、早稲田戦(9/28)、慶應戦(10/11)と続き、中締めが帝京戦(10/18)と、開幕からの4試合を並べてみると、帝京戦まで何人主力選手が(ケガをせずに)残っているのだろうかと考えてしまう。仮に筑波が4連勝したら、対抗戦Gの残り1ヶ月半は気の抜けたものになってしまわないだろうか。実質的には難しいとはいえ、前年度の戦績は関係なく筑波がリーグ戦Gに例えれば5位扱いとなる状況はずっと続くのだろうか。
さて、そのこと(開幕からの1ヶ月半に照準を合わせる必要がある)の影響のためかも知れないが、この日の筑波のメンバー表には主力とみられる選手達の多くの名前が見当たらない。東海大を相手にベストメンバーで臨みたいのはやまやまだが、ケガで万全ではない選手には、あまり負荷をかけたくないということかも知れない。もちろん、バックアップメンバーの強化も大切なのだが、緒戦の法政戦からさらに主力選手が抜けている状態でどこまで戦えるのだろうか?という想いを禁じ得ない。とくにスクラムは筑波にとって重点強化項目と思われるだけに、崩壊も心配されるような状況。もちろん、試合はやってみなければわからないが。
◆ほぼベストに近いメンバーの東海/盤石の形で春を締めくくれるか?
対する東海大は、WTBの石井魁が負傷欠場の他はほぼベストの陣容と思われる。そんな中での驚きは、BKは9番から15番まで(すなわち全員)が東海大仰星高校出身者で占められたこと。FWの2人(ただし1名は東海大相模出身)も加えれば15人中9人が東海大系列校出身となっているが、このようなメンバー構成は(あったかも知れないが)記憶にない。そのような中で目を惹くのは、唯1人1年生でFBに野口竜司が抜擢されたこと。石井の欠場という事情があるにしても、ルーキーながら東海大の最激戦区といっていいバックスリーの一角を担うからには期待も大きい選手のはず。また、SHは4年生の松島が先発で2年生の湯本はリザーブスタート。今シーズンも持ち味の違う2人が併用される形になるのだろうか。
その他にも、FWは100kg超が8人中6人(総重量815kg)の東海大に対し、100kgを越えるのはPR3の1名のみ(総重量730kg)の筑波といった具合に、FWに限っても1人平均で10kg近くの体重差がある。主力選手の数など両チームのメンバー表を見比べただけでも勝敗はほぼ見えてしまうような状況。ただ、この試合には勝ち負けだけではない見どころがたくさんある。端的に言えば、「異文化のぶつかり合い」で、カラーも成り立ちも違うチーム同士の対決から見えてくるものがいろいろあるはず。試合を観ながらじっくりと考えてみた。
◆前半の戦い/重量FWのパワー全開の東海大に対し、筑波は組織ディフェンスで抵抗
メインスタンドから見て手前側にやや強い風(ピッチ上は横風)が吹く中、右側に陣取った筑波のキックオフで試合開始。春季大会の場合は自陣からでもキックを封印してアタックを試みるチームが多いが、序盤戦は相手の様子見も兼ねた蹴り合いが多い展開となる。ただ、両チームともカウンターアタックを得意とする走り自慢のランナーが揃っているため、いずれ継続攻撃のスイッチが入るのは時間の問題。最初に攻勢に出て主導権を握ったのはFWのパワーに勝る東海大だった。
開始から1分にも満たない段階でカウンターアタックから始まった東海大の攻撃が延々と続く。ここで東海大の見せたアタックがちょっと驚きだった。FWで2ユニットを組んでのシェイプ。リーグ戦Gで明確にこの形のアタックを観たのは一昨年の拓大(対立教大戦)だったが、東海大がこの形を使うのは意外。というのも、この戦術はどちらかと言えばFW戦で劣勢を強いられるチームがBKに展開する前にワンクッション入れる、あるいは自陣でボールキープを意図する場合に使われることが多いと感じるから。大東大にしても、SHからのパスの供給先のひとつとして近場にFWの塊があると言った感じになっている。
この試合での東海大の場合は、BKにボールを渡す前に手数を踏むことが、逆にアタックのテンポが遅くしているような印象を受けた。FW1人1人の力を比べたら明らかに東海大の方が上で、決まりごとのような形でFWのユニットでボールキープをする必要性もあまり感じられない。帝京の洗練されたスタイルは別格としても、その他の大学が使っている形に比べると、選手個々が自分の位置を確認しながらユニットを組んでいる感じで、戦術としてはこなれていないような印象も受けた。
ディフェンスする側の筑波にしても、怖いのはむしろ個人個人でガチガチ身体をあててこられる方だと思う。対抗戦Gで帝京他の強いFWとの闘いに慣れている筑波にとって、FWが塊で来てくれる方がディフェンスの的が絞りやすいし、アタックのテンポも上がらないから対応しやすいように思われる。実際に、東海大のFWを中心としたアタックは筑波のディフェンスの組織を乱すまでには至らず、ミスでボールを後ろに下げられたりしながらもボールは保持し続ける状態が続く。
しかし、ホイッスルが吹かれないまま時計が進んだ4分、東海大はモールを起点とした展開からFBの野口竜司が筑波のディフェンスをこじ開けることに成功してゴールラインまで駆け抜ける。CTB井波、両WTBの小原、近藤に混じっても落ち着きはらったプレーぶりでとてもルーキーとは思えない。東海大の強力なFWによるパワフルなアタックが続く。7分のファーストスクラムで筑波の泣き所が露わとなる。ほぼ電車道でスクラムを押し込んだ東海大は、FWを中心として強力なタテ攻撃でボール支配を続ける。そして10分、東海大はゴール前でモールを形成してそのまま押し込みNo.8金堂がトライ。GKも成功して東海大のリードは14点に拡がった。
パワフルな東海大FWのアタックに防戦一方だった筑波だが、14分にカウンターアタックから反撃の糸口を掴む。東海大のPKがノータッチとなったところで、筑波のFB久内が自陣奥深くから蹴らずに前進を図り、ディフェンダーをかわしながら東海大陣10mライン付近まで到達してウラにキック。ここで東海大にレイトチャージの反則があり、以後10分間は筑波大が東海大陣奥深くでゴールを目指す時間帯となる。しかしながら、東海大FWもここはしっかり守り、筑波に得点を許さない。ここまで、お互いにミス(ノックオン)はあってもそれが鋭いカウンターアタックの起点となる形で攻防が続き、あっと言う間に時間が経ってしまう。筑波のディフェンスで予想を上回る頑張りを見せてこともあり、見応えのあるゲームとなった。
ウォーターブレイクの後の25分、筑波は東海大陣10m付近のラインアウトを起点として右オープンに展開。No.8横山が横走りのような形になりながらもキープし続けたボールはさらに右へと展開される。そして、最後は大外で満を持していた竹中にラストパスが渡り、竹中は持ち前のランで東海大のタックラーをかわしながらゴールラインまで到達。GKも成功し筑波が7点を返した。相手が強力なランナーとは言え、東海大のディフェンス面での不安が露呈された形。なお、筑波のFB久内は負傷のため25分にベンチに退き、筑波は貴重な主力級選手のひとりを失うこととなった。
エースのトライで筑波に元気が出たと思わせたのも束の間、東海大FWの勢いは止まらない。東海大は筑波の反則により得た筑波ゴール前でのラインアウトのチャンスからモールを形成し一気に押し込む。両チームのFWで構成された大きな塊は筑波ゴール前に向かってグングン加速していき、崩れれば反則(モールコラプシング)というよりも危険という水準にまで達する。筑波はそのまま後退し続けるしかなく、東海大のPR3平野がトライ。GKも成功で東海大のリードは再び14点に拡がった。東海大の勢いは止まらない。ここで主役になったのはWTBの小原。いい形でボールを持たせたら学生レベルでは止められない。小原はリスタートのキックオフに対するカウンターアタックからタックラーをはね飛ばしながら前進を続けて筑波陣22m手前までボールを運ぶ。ここはノットリリースの反則があり得点に至らないが、筑波に対しては名刺代わりの一撃となった。
33分には東海大にこの日もっとも美しい形でのトライが生まれる。起点はHWL付近左サイドのスクラムで、安定した球出しからCTB井波が絶妙のタメを作りライン参加したFB野口竜司にパス。パスを受けた野口は一気にウラに抜けて完全なオーバーラップを作り、大外に控えたWTB近藤にラストパスを送る。東海大が誇るバックスリーの一角を占めるランナーを遮るものは何もなかった。GKは失敗するが26-7と東海大のリードは19点に拡がった。鮮やかなトライに感嘆するとともに、複雑な気持ちにもなってしまった。東海大が序盤に見せたようなFWで手数をかけたアタックでなくてもセットからのワンプレーで簡単にトライが取れてしまったことに対して。
結論から言うと、東海はFWに固執せず、BKに展開してボールを動かし続けた方がいいのではないかということ。もちろん、いくらFWのセットプレーが安定しているからと言って、一発で取れる保証はない。FWから少し離れたCTBでポイントを作るとか、FWの強さを活かしながら安定したボールをBKに供給し続けることで必ずオーバーラップを作ることができ、強力なWTBでトライが奪える。超強力なFWを持ちながらも、どちらかと言えば彼らを黒子のような形にして判で押したようにWTBで取る形を確立したのが帝京だが、東海にも同じことができる。いや、そうしないと本当に黄金のバックスリーが宝の持ち腐れのようになってしまう。
このまま東海大が優勢のうちに前半が終わるかと思われたが、終了間際に筑波がテンポのいいアタックで反撃を見せる。東海大陣22m付近でのスクラムから8→9を起点として左右に揺さぶりをかけ、最後はタイミング良くパスを受け取ったSO野口がディフェンダーを振り切ってゴール中央に駆け込んだ。GK成功で14-26と、圧勝ムードの中にも課題のディフェンスの不安が露呈した形で前半が終わった。
◆後半の戦い ~東海大が筑波を圧倒するもディフェンスの課題も明らかに~
東海大は後半からSH松島に代えて突破力のある湯本を起用。どちらを正SHにするかで東海大の戦術はかなり変わるが、アタックのバリエーションを増やす意味もあると思う。ただ、ひとつ思うことは、去年と同じで今年の東海大も素早くボールをBKに預けた方が攻撃の破壊力が増すはず。FWでワンクッションあるいはツークッション入れることなど、戦術の幅を拡げることが迷いに繋がっていないだろうか。SHの交代にそんなことを思った。
さて、東海大がFW戦で筑波を圧倒したこともあって点差以上に力の差が感じられた前半。しかし、10点のビハインドなら筑波の健闘と言える試合展開。気持ちを新たにして後半の闘いに臨んだ筑波だったが、開始早々に東海大に追加点を許す。その発端となったのは自陣22m付近でのマイボールラインアウト。モールを形成してボールキープを図ったものの、東海大のLOダラス・タタナに上からボールをもぎ取られてしまう。東海大はダラスが奪取したボールをオープンに展開し、あとは大外に位置した小原がボールを持って走るだけの状況に持ち込む。しかし、ここで小原がまさかのスリップダウンでパスされたボールがそのままタッチラインを割り筑波は命拾いする。ダラスは先輩のリーチのような華はないかも知れないが、FWの核としてしっかり働く仕事人。もっと評価されていいように思う。
ピンチを脱したかに見えた筑波だったが、マイボールラインアウトでノックオンを犯す。東海大は安定したスクラムからボールを左オープンに展開し、ライン参加したFB野口竜司を経てラストパスが左WTB近藤に渡る。前が完全に開いた状況となり近藤は難なくトライラインを越える。前半にFWに拘る形でフェイズを重ね、時間をかけてボールをゴールラインまで持ち込んでいたのがウソのようにセットプレーから一発でトライ。その後、東海大のFWはシェイプを使うこともなくなり、前半とは別のチームになったような感じ。何とも複雑な心境になってしまう。もっとも、前半の序盤で筑波のFWを消耗させたことがノーマークに近い形のトライを生んだとも言える。GKも成功で東海大のリードは19点に拡がった。
後半も早い段階で先に点を取ったことで、東海大の攻撃が爆発するかと思われた。しかしながら、筑波も鋭いタックルを武器としてしぶとく反撃を試みる。東海大のアタックが剛球一本勝負といった感じなのに対し、筑波はコンタクトの前にフェイクを入れるなどしてタックルの芯をずらす変化技で対抗する。ここで、東海大のディフェンスの弱点が露呈する。筑波の選手は前方に立ちふさがる東海大の2人のディフェンダーの間を突こうとするのだが、東海大は2人が譲り合うような形になり、止めることはできても前にボールを運ばれる形になってしまう。筑波としては、とくに東海大を意識したわけではなく、対抗戦Gの試合でやっていることをそのまま実行しているだけと思われるが、東海大にも通用してしまった形。ディフェンスを破られる訳ではないが、ボールを前に運ばれて後退を余儀なくされていたことは確か。ノミネートがしっかりできているのか?とか、相手を捕まえた後の体勢など組織的な連携に不安を感じさせる一コマではあった。
筑波は久内がピッチを去った後は竹中が1人エースの形で奮闘するのだが、東海はなかなか竹中を止められない。もっとも象徴的なシーンは4人のディフェンダーが居ながら、その4人がことごとく「竹中ウォッチャー」になってしまい突破を許したこと。東海大はディフェンスの強化が課題であることはわかっていて、そのための練習も積んでいるはずだが何故だろう。ふと思ったことは、ディフェンスをうまくやることを意識するあまり、複数人での連携が必要となる場面でかえって練習通りの自然な動きができなくなっているのではないかということ。おそらく、この日も試合後にはディフェスミスについて、コーチ陣から選手達が指導を受けたことと思われる。大事な局面で選手達の頭の中にコーチ陣の険しい表情が浮かんでくるようなことはないのだろうかと思ってしまった。
後半もなかなか得点が生まれない状況の中で20分が経過。東海大は筑波陣ゴール前のラインアウトからモールを形成してそのまま押し込みトライを奪いリードを26点に拡げる。勝利が確定したところであとは東海大がいろいろな攻撃パターンを試してもよい時間帯となるが、暑さの中で両チームの選手に疲れが出たためか試合は膠着状態となる。そして、終了間際の39分、筑波が自陣ゴール前でのスクラムを起点として最後の反撃を試みる。しかし、ここでハンドリングエラーがあり、こぼれ球を拾った東海大が難なくゴールラインまでボールを運ぶ。右隅からのGKを後半22分から野口に代わってSOとしてピッチに立った金が成功させ、47-14がファイナルスコアとなった。東海大は春季大会を圧勝という形で終了したが、秋のリーグ戦に向けての課題も見つかった試合だったように思う。一方の筑波はメンバー構成から考えて手応えが掴めた試合と言えそう。秋のシーズンには目崎、山本、松下主将、山下一そして福岡といった主力選手達プラスアルファがメンバーに加わることを考えれば、期待が膨らんだと言ってもよさそうだ。
◆完敗の中にもディフェンスに持ち味を発揮した筑波
やはり平均体重で10kg近く軽いFWのパワーの差は如何ともしがたく、ボールを支配されて強力なバックスリーに翻弄され完敗を喫した筑波。と書きたいところだが、セットプレーは別にして意外なほど筑波はFW戦で健闘を見せたという印象が強い。前半開始直後から続いた東海大FWの波状攻撃にもなかなかゲインライン突破を許さないディフェンスは見応えがあった。1人目のタックラーが芯に低く入って前進を許さず、2人目、3人目がラックにしっかり絡んで攻撃のテンポを遅らせるから組織の破綻が起きない。選手間で意思統一を図り、コミュニケーションをしっかりとることが体格面で劣勢を強いられる筑波の生命線と言える。アタックではボールをテンポ良く動かすことで東海大の組織ディフェンスを乱し、決定力のあるランナーが揃う大外で勝負というコンセプトが明確になっている。今年も秋のシーズン前半が勝負という形になる筑波だが、「4連勝」を目指して頑張って欲しいところ。上で名前を挙げた主力選手が戦列復帰を果たせばそれも夢ではないと思う。
◆圧勝劇の中にも戦術面でのちぐはぐさが垣間見えた東海大
春季大会の最終戦で筑波に圧勝し、順調な仕上がりを示した東海大で間違いないとは思う。しかし、戦術面でちぐはぐな部分が見え、そこが秋のシーズンから冬に向けての不安材料となりそうな予感がする。東海大のセールスポイントは、自他共に認める高い決定力を誇る大学随一とも言えるバックスリー。石井が戦列復帰を果たせば完璧だし、攻守に活躍した新人の野口竜司はレギュラーの座を奪い取ってしまう可能性も感じさせる逸材。しかし、この日の試合ぶりを見る限り、東海大の目指す形は「シンプルにできるだけいい形でバックスリーにボールを渡してフィニッシャーにすること」だけではなさそうだ。看板のバックスリーに負けまいとFWが存在感を見せようとしたことが前半の戦いぶりから伺える。それはそれでいいと思うのだが、少し無理があるように感じたのは気のせいだろうか。
端的に言ってしまうと、東海大の戦術は最終的に誰が決めているのだろうか?というここ数年来抱いている疑問点に行き着く。公式ホームページに掲載されたスタッフの陣容は、木村監督の下にコーチ陣がずらりと並ぶ豪華なもの。さらに東海大仰星高校で実績を挙げた土井氏がテクニカルアドバイザーとしてチームを見ている。しかし、このように多くの目が光っている中で、チームは「船頭多くして」という状況になっていないだろうかと危惧する。例えば、大東大。青柳監督の下でチームを見ているのは山内コーチのみのシンプルな体制となっている。ラグビーマガジンのインタビューで「1人で大変ではないですか?」と問われたときに、山内氏は「自分ひとりで見ることでチームに統一感が生まれる」と答えていたと記憶する。谷崎体制が2年目となった法政にしても、今年は統一感があるチーム作りがなされているように感じるし、流経大も永年の経験を活かしてバランスのとれたチームが出来上がろうとしている。東海大は首脳陣のベクトルが合えば最強のチームになるが、意思疎通の乱れが出ればその影響が選手に及んで十分な力が発揮されなくなることも考えられる。取り越し苦労とは思うものの、この日の筑波との戦いぶりを見てそんなことを思った。