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流通経済大学 vs 日本大学(関東大学リーグ戦G1部-2016.09.10)の感想

2016-09-11 09:29:56 | 関東大学ラグビー・リーグ戦


日本のラグビーの可能性を拡げてくれたサンウルブズ、ベスト4に進出して世界を驚かせたリオ五輪のセブンズとずっとオフシーズンがなかったような状況の中でトップリーグも始まった。1年中世界レベルのラグビーが楽しめるのはありがたいことだ。そうなると、どうしてもラグビー視線がスーパーラグビー仕様になってしまう。だから、大学ラグビーを観るのは正直怖いような気持ちになっている。

そういった華やかな状況にある中で、今年も私的には秋のシーズンはひっそりと始まる関東リーグ戦Gの試合が開幕戦になる。振り返れば、このグループのラグビーの観戦を本格的に始めたのが1997シーズンだった。それから20シーズン目を迎える現在に至ってもフレッシュな感覚で試合を観ることができる。何故かと思うのだが、例えばサンウルブズで飛躍した稲垣、茂野、細田、パエア、五輪のセブンズで活躍した合谷、後藤、羽野、豊島らは関東リーグ戦グループ出身でバリバリのレギュラーだった選手達だったことが理由のひとつ。上で挙げた選手達の学生時代のプレーが走馬燈のように頭の中を駆け巡っているような状態になっている。

さて、今シーズンの開幕ゲームでは東海大とともに優勝候補の一角と見なされる流経大に1部に復帰したばかりの日大が挑む。もし1997シーズンからタイムスリップしてきたファンが居たら、20年経っているとは言え状況の変化に驚いたに違いない。当時は流経大が1部昇格を果たしたばかりだったのに対し、日大は関東学院に次ぐ2位となり、大学選手権ではベスト4に進出している。そんなことは別にしても、1stシーズンに特に心惹かれるものを感じながら試合を観たのは、まったくカラーの違う2つのチームだった。だから、20シーズン目を迎えるにあたって最初に観るのがこのカードになったのも偶然でないような気がする。

キックオフが迫る午後3時近くになっても真夏のような強い日差しが照りつけるニッパツ三ツ沢球技場。最初はバックスタンドで観ようかと思ったものの、熱中症の心配が頭をよぎる。ということで、メインスタンド右側の日大サイドに移動。スタンドの中段に部員達が大挙して陣取るような状況だが、何となくチームの雰囲気が明るくなっているような印象を受ける。両チームの力関係からみても(日大の)大量失点試合も予想されるような状況だが、果たして日大がどこまで頑張れるか。ここがこの試合の最大の注目ポイントだった。



◆前半の戦い/今一歩ピリッとしない流経大に対し、日大が纏まりの良さで健闘

メインスタンドからみて左から右にやや強い風が吹く中、風上に立った流経大のキックオフで試合が始まった。その流経大がいきなりノット10mのミスを犯し、日大ボールのセンタースクラムとなる。結果的にこれが流経大の躓きの始まりだったことは後でわかる。ファーストスクラムでは日大が(第一列が上方に頭を抜く)コラプシングを犯し、流経大は日大陣22m付近でのラインアウトと逆にチャンスを掴む。

しかし、流経大はラインアウトをミスしてしまい、ボールを確保した日大がウラにキック。そこに待ち構えていたのが期待の新人ブランドンタナカだった。流経大はタナカのカウンターアタックを起点にして左右にボールを動かし、日大DFにギャップができたところでNo.8の大西がタックラーを切り裂いて一気にゴールラインまで到達。身体の大きさに似合わず軽く見えるランが魅力の選手だ。SO東郷のGKも決まり流経大が開始3分で幸先よく7点を先制した。ここで日大ファンの多くが大量失点負けしてしまうことを覚悟したに違いない。だが、結果的にそうならなかった。この場面で明らかになったように、流経大のラインアウトが絶不調だったことに助けられたかたち。

流経大としては、ここで一気に畳みかけたいところ。しかし、個人頼みと言ったらいいのか、個々の強さが裏目に出る形でミスが多い。キックオフの場面でもキャッチングに安定性を欠くような状況。日大のルースボールに対する反応がいいこともあり、(圧倒的な攻撃力を持っているはずなのに)なかなか波に乗れない。こうなるとボールを持つチャンスが多い方が必然的にペースを握る。



流経大が個の強さで勝負なら、日大は選手間の意思統一(戦術の徹底と纏まりのよさ)で対抗。セットプレーから、まずは順目にFWが2ユニットでボールを動かし、機を見てBKに展開で徹底している。キープレーヤーはSHの李。春シーズンの専修戦でも球裁きのよさと統率力で魅せた選手だったが、FWの動かし方が巧み。小山(大東大)や湯本(東海大)のような派手さこそないが、リーグ戦G注目のSHと言っていいと思う。3年生からのデビューというのが信じられないくらい。

流経大がもたつく間に日大のシンプル(イズ・ベスト)なアタックが機能し始める。8分、流経大の反則で掴んだ流経大陣22m付近でのラインアウトのチャンスからFWでボールを前に運ぶ。そしてゴール前からオープンに展開し、流経大のディフェンスを破ることに成功しFB杉本がトライ。GKは失敗したものの5点を返して大量失点ムードの払拭に成功。後ろに陣取った日大部員たちからは「いけるぞ!」の声が出始める。序盤はオーバーラップを作られるなど、不安が大きかったディフェンスも徐々に修正されていく。前にも書いたように、流経大の選手が単騎で真っ直ぐに突っ込んでくれることで的が絞りやすくなり助けられた面も。

そして22分、日大は流経大の自陣22m内でのミス(ノックオン)で掴んだスクラムのチャンスを活かす。オープンに展開したボールをテンポよく繋いでWTB竹澤がトライ。ここでリンクプレーヤーとして活躍したのがLOの孫。193cmの長身選手でラインアウトでは制空権を握るなどFWのキープレーヤーとしてボールによく絡む。GKも決まり、日大が12-7と逆転に成功。FWでボールを動かしてバックスリーで取る理想的な展開でのトライは、日大の選手そして応援席をどんどん元気にする。リスタートのキックオフでも自陣から果敢にカウンターアタックを見せてボールをHWL付近(左タッチライン際)まで運ぶ。しかし、継続を試みたパスが流経大のシオネ・テアウパに渡り逆襲を許す。そのシオネが持ち味の強さを活かして巧みに真ん中まで運んだボールがフォローしたFL廣瀨に渡り日大は万事休した。

さらに32分、流経大はカウンターアタックからSO東郷が一気にゴールラインまで到達する。タナカの身体能力の高さを活かした繋ぎのパスも効いた。東郷の個人能力が活きた形だが、その東郷はGKでも魅せる。GK成功で21-12と流経大がリードを拡げる。しかし、日大も食い下がる。前半も終盤にさしかかった35分、リスタートのキックオフから流経大陣でのラックでターンオーバーに成功しFB杉本がこの日2トライ目を奪う。GK成功で19-21と日大のビハインドは僅か2点に縮まった。日大の部員達からの「いけるぞ!」の声により現実味が増していく。

しかし地力で上回る流経大も意地を見せる。前半も残り僅かとなった39分、リスタートの流経大キックオフのボールを日大選手がノックオン。日大陣10m/22mでのスクラムから流経大が日大ディフェンスを翻弄してNo.8大西がゴールラインに到達した。やはり組織でボールを動かす技術は流経大の方が上。28-19となったところで日大はキックオフのボール確保に成功。果敢にゴールを目指すが惜しくもノットリリースの反則を犯し前半が終了した。結果的にみれば最後の失トライがもったいなかったが日大にとっては自信を掴むことができた前半の戦いぶりだった。



◆後半の戦い/最後は突き放されるも、中盤までは拮抗

序盤戦は想定外(おそらく)の展開に日大の部員達も半信半疑のような状態だった前半。しかし、ハプニング的ではなく、相手のディフェンスを崩してトライを3つ取れたことですっかり自信を掴んだようだ。たびたび発せられた「いけるぞ(勝てるぞ)!」の声もよりリアルに耳に響くようになっていく。流経大サイドはどんな状態だったか気になるところだが、「こんなはずでは...」というムードが支配的だったのではないだろうか。とにかく個々の力に頼るようなラグビーでチームにはバラバラ感が漂う。強力なランナーが揃い、いつでもどこからでも取れるという自信が過信に繋がっていなかったか。

かたや日大はあくまでシンプル。FWが前線で身体を張り、BKもタックルで踏みとどまる。シーズン前から体力強化に重点を置いていたと聞くが、実はシンプルなラグビーは「簡単」ではなく、基礎体力が無いと難しい。相手にとってもボール奪取しやすいラグビーになってしまうから。SH李の好リードとSOに抜擢された林のロングキックが武器になり、BKの選手達もチャンスと見れば(蹴らずに)果敢にチャレンジ。体力強化の成果は着実に実を結びつつあるように見える。果たして、流経大がどのような形で建て直しを図ってくるか。不調のラインアウトの修正もさることながら、マイボールも相手ボールも確実に確保することができなかったキックオフのボール処理も課題だ。

と思ったのも束の間、後半開始早々の日大キックオフのボールも流経大は確保に失敗してピンチを招く。日大のノットリリースに救われた形だが、PKからのラインアウトでも再三スティールを許すなど不安定感は払拭されない。日大は風上に立ったこともあり、SO林のロングキックが有効に作用するが、安心してキックが蹴れたのも流経大のラインアウトが不安定だったから。チーム力の差は明確でも点差が開かないのが流経大ファンにとってはもどかしい。

流経大が前半からのもたつきを引きずる中で、ハプニング的だったが日大に得点が生まれる。11分、流経大が日大陣に攻め込みながらもパスミスでこぼしたボールを林が拾うと前が完全に開いた状態。林は約50mを走りきってゴールラインに到達した。GKは失敗するものの24-28となり1トライで日大は逆転可能。日大サイドが活気づいたことは言うまでもない。試合は一気に緊迫度をましてくる。流経大も後半は個々でいくのではなく人数をかけてボールを動かす方向に修正。こうなってくると日大の人数をかけるディフェンスは苦しくなってくる。小気味よい展開の後にボールがシオネに渡ればもう止められない。19分のトライはそんな形から生まれた。東郷のGK成功率は100%で35-24と流経大が日大を突き放しにかかる。



こんな状況になれば日大がガス欠状態になっても不思議はない。しかし、今年の日大はひと味違うようだ。25分、流経大が自陣22m内で犯したオフサイドの反則を活かして、日大は流経大を自陣ゴール前に釘付けにするような状態で攻め続ける。ゴール前で得たラインアウトのチャンスからモールで前進しラック。ここからオープンに展開してラックとなりFWでさらに前進。そして、SH李からタイミングよく走り込んで来たFLにラストパスが渡り一直線でゴールラインを突破。GKも難なく成功で31-35と再び日大のビハインドは逆転圏の4点差に縮まる。時間から見ても、もしやの空気も漂い始めた三ツ沢球技場。

しかし、それも束の間だった。後半も残り10分近くになってようやく流経大のチームとしてのエンジンが点火する。リスタートのキックオフでノックオンを犯したところで流経大が細かくボールを繋いで日大ディフェンスを翻弄し、最後はSH中嶋がゴールポスト直下に到達。GK成功で42-31と流経大にとって今度こその突き放しモードとなる。31分には日大が自陣で反則(ハンド)を犯したところでスクラムを選択。ラインアウトの不調もあったのだろうが、No.8大西が8単であっさりとゴールラインを越えた。49-31となったところでようやく勝負あったとなる。低いスクラムで健闘を見せていた日大だったが、安定度では流経大の方が1枚上。力尽くとも言えるが流経大が早く安心モードに入りたかったこともわかる。

元気を増した流経大の怒涛の攻めが続き、37分にはキャリーバックからの5mスクラムを押し込まれて日大はスクラムトライを献上。ここまでGKをすべて決めている東郷はここもしっかり決めて56-31。トライ数にして8-5のやや乱戦模様だった試合はこのスコアで決着が付いた。前半に1度逆転に成功し、後半も2度に渡って4点差まで流経大を追い詰めた日大。流経大がちぐはぐだったとは言え、自分達がやりたいことをやれて相手ディフェンスを崩す形で4トライ取れたことは大きな自信に繋がったはず。ミスが目立ったとは言え、両チームが犯した反則は6個ずつでボールがよく動き、楽しいラグビーだった。とくに日大にとっては、当面の目標と思われる入替戦回避に向けていい形でスタートが切れたのではないだろうか。



◆試合終了後の雑感

乱戦気味ではあってもスコアは56-31で流経大の圧勝で間違いないと思う。個々の力に頼り気味のアタック、ラインアウトの不調やルースボールの確保などがなければ流経大の得点は増え、失点は減っていたはず。しかし、観戦者の率直な感想は、日大アップセットの要素はなかったものの、終始ゲームをコントロールしていたのは日大という不思議な試合。戦術を固めて、選手間で意思統一して1試合戦い抜けたことがこの日の日大の収穫だったと思う。日大の目標のひとつには強力スクラムの復活もあるようだが、最初のコラプシングとスクラムトライの場面を除けば安定した低い姿勢でスクラムが組めていたことも収穫。FWでは193cm孫の存在が大きくラインアウトやキックオフのボール確保でも優位に立てるだろう。果敢に勝負を挑むBK陣など楽しみな部分も多い。ほぼチームの形は出来ていると思うが、勝負所のリーグ後半戦に向けて着実に力を蓄えて欲しい。ここ数年の惨状を思い起こすにつけ、「こんな日大が見たかった」という願いが達成されそうなのが嬉しい。

スコアの上では圧勝だった流経大だが、優勝を目指すチームとして「快勝」と言い難い内容の戦いぶりだったように思う。奪ったトライも選手の個人能力によるものが多かったことが不安要素。もちろん、後半にはそれも修正されてチーム全体でボールを動かそうと意識するようになったし、東海大や大東大が相手だったらたぶん違ったラグビーになっていただろう。しかし、実はこの部分に流経大の課題が潜んでいるように思う。相手によって戦い方を変えるのは別におかしな事ではない。が、流経大は相手によって選手達の意識が変わることに起因するのか、往々にして戦い方が変わってしまうことがこれまでもあった。それが奇しくもチーム力で上回っている日大を相手にしたときに浮かび上がった。そんな印象が強い。

流経大に必要なのは普段着のラグビー。帝京大は相手によって戦い方を変えることはない。変わっているのは選手の力の入れ方だと思う。強豪校なら100%の強度で行うことを、力が落ちるチームが相手なら50%の強度にする。省エネとか手を抜いているとかいうことではなく、チーム全体のバランスを考えた上で個々が自分自身でプレーの(精度を変えずに)強度もコントロールする。そんなメンタル的な部分も含むコーチング行われているのが帝京の強さの秘密ではないかと邪推する。だからという訳でもないのだが、シーズン序盤の下位校との対戦、シーズン終盤の優勝争い、大学選手権で別なチームを見るような状況から脱しないと安定した戦いができないような気がする。シンプルに戦い抜き、その中に個性も交えてプレーをしていた日大の戦いぶりからそんなことを思った。

ラグビーマガジン 2016年 10 月号 [雑誌]
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ベースボールマガジン社

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