ここ数年ですっかりマイブームになったのが弦楽四重奏を聴く愉しみ。昨年2月24日のブログに書いたとおり、ひょんなこと(朝ドラのついでに録画した『クラシック倶楽部』)がきっかけで室内楽の面白さを知ることとなり、なかでも「最大人数のソロ楽器にして、最少人数のオーケストラ」と自認しているこのフォーマットにより惹かれるようになっている。
そんなとき、タイミングよく出逢った弦楽四重奏団が「ジオカローレ」だった。普段はなかなか聴けない曲がプログラムに載っていたこともあり、楽しい午後のひとときを過ごすことができた。この思いがけない出逢いは、弦楽四重奏への興味関心をより高めてくれたという意味でも忘れられない思い出となった。
それからもうすぐ1年が経とうとしていたある日、リーダーの方(同窓の友人のお嬢様)から演奏会の案内が届いた。演奏会場は前回と同じくJR東神奈川駅近くにあるカナックホール。客席が500人程度と小振りだが音響もよく、室内楽には最適なホールだと思う。とくに演奏者の表情を垣間見つつ演奏を聴くことが出来るのが室内楽の醍醐味なだけに、座席とステージが近いのはとてもありがたい。
さて、今回は第10回記念演奏会とのことで、1曲目はベートーヴェン、2曲目はシューベルトというオーソドックスなプログラム。今年はどんな珍しい曲が聴けるだろかという期待には封印をし、巨匠の曲をじっくり味わうことに気持ちを切り替えて演奏会の日(2月20日)が来るのを待った。ベートーヴェンもシューベルトも交響曲を中心に幼少期からずっと親しんできた作曲家ではあるが、弦楽四重奏曲は殆ど聴いてこなかったから。
そして当日。都内で用事を済ませて急ぎ足で演奏会場へ向かう。何とか開演10分前に滑り込みセーフで客席に潜り込むと既に中央の席は殆ど埋まっている。左側の席に落ち着いたらちょうど学友とバッティングした。「最近はヴィオラを中心に聴くようにしていますよ。」と話したら、「今年はヴィオラ奏者が楽器を替えたので期待して下さい。」との返答。それは楽しみ!と思いながら開演を待つ。程なくして4人がステージに現れ、いよいよ開演。
♪ベートーヴェン 弦楽四重奏曲第11番ヘ短調『セリオーソ』作品95
『セリオーソ』は4楽章形式ながら演奏時間が20分余りのコンパクトに纏まった曲。しかしながら、情熱と沈思、激しさと穏やかさといった対立的な要素が集約された密度が濃い曲だった。上でも書いたように交響曲とは違って弦楽四重奏曲は殆ど聴いていなかったので、新鮮な気持ちで楽しむことができた。ジオカローレの集中力の高い演奏に魅了され、とくに第2楽章が素晴らしかった。ベートーヴェンの弦楽四重奏曲への興味が一気に高まったのが嬉しいし、近いうちに全集のボックスセットを手に入れることになるだろう。
♪シューベルト 弦楽四重奏曲第14番『死と乙女』D810
シューベルトはベートーヴェンとはうって変わって、激しい情熱や強い自己主張とは違った趣きのロマンティシズムが魅力の作曲家。とくに、この曲のように全楽章が短調で貫かれた、暗い曲想になってしまいがちの曲の場合はじっくり聴かせるのが難しいところがある。しかし、聴き込めば聴き込むほどに味わい深くなるのがシューベルトの魅力とも言える。ちょうど対角に位置する第1ヴァイオリンとチェロの対話などに耳を傾けているとよりそんな想いを強くしたのだった。
♪フィナーレは「思わずニンマリ」のサプライズ・プレゼント
シューベルトの大曲がメインとはいえ2曲だけで終わってしまうのかなと思っていたら、ちゃんともう1曲、正確に言うともう1組用意されていた。会場を訪れた2月生まれの人達への心のこもったプレゼントとして『ハッピー・バースディ・トゥ・ユー』が演奏された。しかし、お馴染みのスタイルで演奏されたのは始めだけ。あとはハイドン風、モーツァルト風、ドヴォルザーク風など様々に様相を変えた、時間と空間を超えた祝福の宴が続く。終盤にはタンゴ風まで登場して、最後はハンガリー風で締め。本当に楽しかった。
ということで、今年も寛ぎの午後は終了。はたして、次はどんな曲を聴かせてくれるのだろうかと、つい期待してしまう。今年は(お馴染みだったはずの)ベートーヴェンに対する新たな発見があったし、シューベルトの弦楽四重奏曲には交響曲とは違った面白さがあることにも気づかされた。自分自身の弦楽四重奏に対する興味関心もさることながら、ジオカローレが今後どのように成長していくのかを楽しみに来年のこの日が来るのを待っていようと思う。