いよいよ2013シーズンの開幕だというのにこの天候。台風が近づく中、ここ埼玉地方も朝から土砂降りの雨でこれでは水中戦になってしまう。家を出る段階でやや雨が小降りになってきたことに一縷の望みを繋ぎ、マイカーで熊谷に向かった。途中も時折雨が強くなり、また、道路沿いを流れる川も明らかに水位が増している。大丈夫だろうか。
しかしながら、熊谷ラグビー場に到着したキックオフ30分前の段階で奇跡的に雨が止み、青空ものぞく状況に。ピッチはたっぷりと水を含んだ状態ではあるが、快晴の条件なら選手達も気分的には楽になるのではないだろうか。最初は様子見で屋根のあるスタンドの上段に座ったが、天候が回復したのを幸いに、前方のベンチシートの方に席を移動した。
◆キックオフ前の雑感
まずは法政のメンバーを確認。気になるのはどうしてもSOが誰かということ。実は2日前の協会発表、前日の法政HPでの発表、そして当日の熊谷のメンバー表で微妙にメンバーの修正があった。といってもそれはリザーブ登録の猪村だが。2日前は21番だったが、前日はメンバー表から消え、そして当日は22番。些細なこととかも知れないが、なんでこうなる?という想いを禁じ得ない。そう思うのも、たとえリザーブ登録でも猪村は法政のキープレーヤーだと確信しているから。春シーズンからSOの先発は加藤に決まっており、猪村はつい先週のジュニア選手権(関東学院戦)でスタメン出場している。果たして、本日は出場のチャンスがあるのだろうか。
それはさておき、BK展開を持ち味とする法政だが、現状はFWのメンバーがより充実しているように感じる。HO小池、FL西内、No.8堀主将は走力に自信を持つ選手達。「らしくない」かも知れないが、オープンに展開するよりも、FWでモールなどを用い、確実に前にボールを運んで得点するのが法政の得点パターンになっている。ここでSOに求められる役割は前に出るための正確なキック力と堅実性だと思うのだが、首脳陣には別の考えがあるのかも知れない。いずれにせよ、BKラインに展開してアタックを持ち味とする法政ラグビーの復活は、首脳陣に課せられた課題であることは間違いない。
一方の立正はBKラインの両翼にリーグ戦G屈指のトライゲッター、早川と鶴谷が揃い踏みとなり、遂に戦闘態勢が整った。司令塔のツトネを軸として、彼らにいかにいい形でボールを渡せるかが勝利を掴むポイントとなる。そういった意味でも、鍵を握るのはFWの頑張り。けして大きなFWではないがピッチに立つ選手達を見比べると、法政よりも身体に厚みが感じられる。ただ、法政のFWは見た目以上にタフで戦術にも長けている面がある。立正に求められるのは、1にも2にも積極性。相手に合わせてしまいがちなところを修正し、自らペースを作り出すことができるだろうか。
◆前半の戦い/お互いに決め手を欠く中、拮抗した展開に
メインスタンドから見て左に陣取った法政のキックオフで試合開始。序盤戦は様子見の形で蹴り合いとなるが、エリアマネジメントの面ではツトネがSOを務める立正の方に分がある。法政の加藤はミスキックこそないものの、やはり飛距離の面で不安あり。キック合戦の中、2分に法政が自陣ラインアウトからモールで前進し、オープン展開からのロングキックがドロップアウトとなる。ここからしばらくの時間帯は法政が立正陣で攻勢に出る。ただ、法政はBKに展開してもパスが雑でなかなか効果的なアタックにならない。7分には右中間24mの位置でPGのチャンスを得るが失敗し先制ならず。
直後の立正ドロップアウトからのキックに対し、法政はキックで前進してボールを確保しオープンに展開するがノックオン。立正は拾ったボールを絶妙のタッチキックで法政陣10mまで陣地を挽回に成功。さらに法政ボールのラインアウトもスティールに成功してさらに前進を図るが痛恨のノックオン。今度は法政のロングキックが立正ゴールの僅か手前でタッチを割る絶妙のキックとなり、法政がチャンスを取り戻す。このあたり、法政の方にツキがある感じ。
法政はゴール前でのラインアウトでスティールに成功し、オープンに展開した後FWでサイドを攻め、最後はFL西内がゴールラインを越えた。これが、この日都合4トライを記録することになる「西内ショー」の幕開けだった。ハプニング的な要素もあるが、法政が先制したことでペースに乗るかと思われたが、ペースを掴んだのは立正の方だった。キック主体の法政に対し、立正はまずFW周辺でボールを動かした後、オープンに展開してディフェンダーにしっかり身体をあてる。ここで法政が後ずさりしたところをさらにFWで攻めて前進を図るという意図が明確に見えた。
15分、立正のアタックを担う2人のうちの1人、早川がまず魅せる。自陣からのカウンターアタックで法政ディフェンダーをかわしながら前進し一気に法政陣22mまで到達。あとは適切な位置にラストパスを受けるフォロワーが居ればトライというところまで来たが、うまくボールが繋がらず絶好のチャンスを逃す。しかしながら、ここで勢いを得た立正の攻勢が続く。18分、法政のペナルティで掴んだゴール前ラインアウトから一度オープンに展開した後、ショートサイドを攻めてFB吉澤がラインブレイクに成功しラストパスをWTB鶴谷に渡した。鶴谷は豪脚を活かして法政DFを振り切りゴールラインを越えた。GKは失敗したが5-7と、法政のリードは2点に縮まる。
点差が縮まったところで、両チームともミスが目立つという状況ではあるが、HWLを境にして拮抗した展開が続く。組立を決めている立正の方が攻勢ではあるのだが、SHからの球出しのテンポが遅く、パスもツトネがジャンプしないと取れないような状況ではリズムに乗ったアタックには繋がらない。ポイントのサイドを突くチャンネルゼロのアタックにしても今一歩テンポが合っていない感じで有効なゲインに繋がらないのが残念。FWも結果的にSHからの球出しを妨げる位置に立っていたりと集中を欠いているように見えるところがあった。ここがしっかり決まれば試合を優位に運べるだけに惜しい。意図は明確なだけに、今後完成度を上げていきたい部分だと思った。
試合が終盤にさしかかった30分、法政はワンチャンスをものにする。立正のペナルティで得たゴール前ラインアウトのチャンスからモールで前進してゴールライン付近でラック。サイドを攻めて、またも西内がゴールラインを越えた。西内の体幹の強さが活きた形。SH大政のGKも成功し法政が14-5とリードを9点に拡げる。ラインアウト→モール一辺倒とはいえ、しっかり得点が取れるパターンを持っているのが法政の強みだ。
しかし、立正もすぐさま反撃。35分、法政ゴール前での法政の反則からすかさずタップキックで攻めてFL小嶋がゴールラインを越えた。ツトネのGKも成功し12-14と立正のビハインドは再び2点に縮まる。再び立正が勢いを取り戻し、39分にはHWL付近でPK.を得る。22m内へのタッチキックを狙うにも絶好の位置だったがノータッチ。このミスは痛かった。さらに終了間際の41分、立正は左中間の10mライン付近で得たPKからショットを選択するが外れる。このまま5分の展開で前半が終了した。立正の頑張りも大きいのだが、むしろ気になったのは法政のもたつき。アタックの選択肢がBKはキックでFWはラインアウトからのモール。なかなか再建は厳しそうだという印象を抱かせた前半の闘いぶりだった。
◆後半の戦い/ドラマは28分から始まった
後半も立正はFW周辺でのアタック、法政はBKに展開してキックという状況の中、拮抗したというよりは決め手に欠ける(ミスが多い)展開が続く。立正サイドでの観戦だったが、法政サイドではさぞかしフラストレーションが溜まっていたことだろう。3分には法政が立正陣10m付近でのスクラムを起点として「らしさ」を感じさせるBKラインによる連続攻撃を見せるものの、ゴール目前で痛恨のノックオン。法政サイドから大きなため息が聞こえてきた。
逆に8分、立正は法政ゴール前でPKのチャンスを得るが、タップキックで攻めてノックオン。取れそうで取れない立正ファンのフラストレーションも貯まる状況になっている。そのような立正を尻目に法政は16分、「得意の形」から追加点を奪う。ラインアウトの位置は立正陣10mラインと22mラインの中間くらい。しかしながら、法政はモールを形成してぐいぐい前に前進する。ゴール直前でラックとなったところで、またも西内がボールを持ってゴールラインを越えた。GKも成功して21-12と法政が立正を突き放す。
直後のキックオフで立正は痛恨の反則。自陣での不用意な反則は禁物ということは分かっているはずなのに4度目の正直となってしまった。ゴール前ラインアウトから法政はモールを作らずに西内にボールを渡し(たように見えた)、ここでもトライをゲットする。SH大政のキックも絶好調で28-12となり、拮抗した展開はいつの間にか一方的な展開に変わってしまった。立正が犯した反則も最終的には7個で少ないのだが、ことごとくそれが失点に繋がってしまった形。
26分、法政はさらにG前でのラインアウト→モールからトライを奪う。今回トライを奪ったのはNo.8の堀主将。GK成功で35-12と試合の流れからもここでほぼ勝敗が決した。奪った5トライがすべてFWによるものという状況は法政ファンにとって納得がいかない部分があるかも知れないが、まずは緒戦を圧勝で終えることができて一安心と言ったところ。あとは、一矢報いるべく立正がどんなアタックを見せるかに注目せざるを得ない状況となる。
ところが、実はこの試合のハイライトは後半の28分以降の法政の闘いぶりだった。法政はPR鈴木に代えて水本、LO小山に代えて川地、SH大政に代えて中村、SO加藤に代えて猪村を投入。ほぼ勝敗が決した中での典型的な「ご苦労さん」交替といった雰囲気だった。しかし、ここで法政のアタックが一気にテンポアップし、スイッチが入ったような状態になるから試合は分からない。
火を付けたのはツトネがFWのいないサイドに蹴ったリスタートのキックオフ。ここでボールを確保した法政がカウンターアタックを仕掛けてCTB金が本日のBK初トライを記録する。猪村がしっかりGKを決めて42-12。そう、HB団の交替で法政のBKアタックに一気に火が付いたのだった。とにかく22番からのパスが「快感」と行っていいくらいにビシバシCTBに渡り、流れるようなラインアタックに繋がっている。猪村のパスはけして優しいパスではなく、ひとつ間違えばノックオンを誘うような球速だ。しかしながら、相手をしっかり見て確信を持って放っており、実際は受けやすいパスになっている。
なかでも圧巻だったのは、36分にゴール前で相手ディフェンダーをしっかり引きつけた上でWTB半井に送った絶妙のロングパス。半井はしっかりボールを持って前に走るだけで良かった。40分にも法政は猪村を主軸としたテンポの良いパス回しでCTB大塚がトライ。勝敗が決した後であり、しかも相手が疲れているとは言え、それだけでは説明がつかない。
ここでふと気付いた。猪村はチームメートから絶大な信頼を得ているプレーヤーであること。厳しいように見えるパスでも、受け手との信頼関係があればしっかり通るということだ。頻繁に味方選手に声をかけてコミュニケーションを取るなど、今シーズンになってから極端に出場機会が減った猪村だが、腐ることなくしっかり爪を研いでいたということか。ひとりの選手の登場でチームがこんなに変わるのか、いや変わっていいのかと思わせる複雑な気持ちを抱かざるを得ない形ではあるが、ややもすれば締まりのない結末になりかけた試合が俄然面白い試合になってしまったという高揚感を持って試合観戦を終えることができた。
◆残念だった立正
立正は本当に惜しかった。法政よりも意図がはっきりしたアタックを見せていたし、ミスがなければ前半をリードして終わることも出来たはず。WTBにいい形でボールを渡せなかったのも反省点だろう。ひとつ思ったことは、選手達がなかなか意図したように動けていないことで、それは試合を重ねながら経験と積んで身につけていくものになると思う。また、細かい話だがバックスリーのポジショニングも気になった。法政が蹴ってくれたのでカウンターアタックのチャンスはあったし、ランナーもいる。だから、しばしばキックが彼らの頭上を通過する形になっていたのが惜しまれる。そういった細かい点をひとつひとつ潰していくことで上に行くことは出来るはず。この試合の結果を糧にして頑張って欲しい。
◆誰が法政の10番を背負うべきか
法政の28分のHB団の交替には疑問が残る。交替の時期と意図がよくわからないという意味で。もし、ゲームの流れを変えるのなら、後半から代えるくらいのタイミングでもよかったはず。さらに推測すると、首脳陣はHB団を代えることでここまで劇的にBKのアタックが変わってしまったことが想定外だったのではないだろうか。もちろん、ファンに取っては嬉しい誤算だが、首脳陣にとってはほろ苦い結果だったかも知れない。僅かの時間で自身の存在感をしっかりアピールできた猪村に拍手を贈りたい。
それはさておいても、この試合で法政は誰が10番を担うべきかがはっきりしたような気がする。チーム掌握という意味で学生最高レベルの能力を持つ選手をBチームや控えにおいておくのは余りにももったいない。もちろん、首脳陣には別の考え方があるかも知れないし、次の試合のスタメンも変わらないかも知れない。しかし、私個人としてはたとえ12分間だったとしても、猪村のプレーを忘れることはないだろう。私的にはとても面白い試合だった。
本当にこの記事の通りです。
選手が監督起用に逆らうことはできません。
バックスの選手がプレーで「SOは猪村」だとアピールしたのではないでしょうか。
それだけで十分です。
素晴らしい記事ありがとうございました。
法政ラグビーのファンです。
おっしゃる通り、立正戦残り12分の法政バックスには、組織として機能していました。
改めて、CS放送のビデオを見直しましたが、半井君、大塚君のトライは猪村君の状況判断によるところが大きいです。
猪村君の強みはタックルとキックの飛距離と正確性だと、おもいます。
タックルで相手バックスに飛ばされることはないでしょう。
西内君、小池君は、法政フォワードに力を与えるパワーがみなぎっていますね。頼もしく、これからも楽しみです。
昨年の筑波戦のリベンジを果たすためにも、法政バックスがさらにイキイキとなるよう、応援していきます!
がんばろ法政!
土曜日は海老名にいらっしゃいますでしょうか。
今シーズンもよろしくお願いします。