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映画「セックスチェック 第二の性」 緒方拳&安田道代

2015-09-09 21:30:04 | 映画(日本 昭和35年~49年)
映画「セックスチェック 第二の性」は昭和43年(1968年)公開の大映映画だ。

男女両性の性器をもつ女子陸上選手とコーチがメキシコオリンピックをめざして苦闘する姿を描く。緒方拳と安田道代主演2人のきわだつ強烈な個性を増村保造監督が巧みに引きだした大映末期の傑作である。


宮路司郎(緒方拳)は、戦前100mの日本を代表するスプリンターであった。出場予定だった昭和15年の東京オリンピックは戦争で中止になってしまう。その後自堕落な生活をおくるようになり、昭和42年の今はバーホステスのヒモ暮らしだ。同じ時代に陸上選手として活躍した峰重正雄(滝田裕介)から、峰重が会社医をつとめる木下電気陸上部のコーチ就任を依頼される。勧誘されたその夜、久々に峰重宅で飲んでいたが、その昔思いを寄せていた峰重の妻・彰子(小川真由美)を夫が外出している隙に無理やり犯してしまう。宮路はその顛末を峰重に告白して陸上部の監督就任を断る。

ところが、帰り際何気なく見ていたバスケットボールの練習で、コーチに逆らうほど気の強い南雲ひろ子(安田道代)に才能を見いだしもう一度コーチをかって出る。宮路がコーチになるなら自分は退社すると言って峰重は木下電気を辞めた。

ひろ子を陸上部にスカウトした宮路は、同棲していたホステスと別れる。しかも、女を断つと宣言する。他の陸上部の選手を置き去りにしてひろ子だけを個別指導する。会社の寮に2人で住みつき、勝つために男性的にしようと「ひげ剃り」までさせて鍛え上げる。


猛練習の甲斐あって、練習で好タイムをだすようになる。宮路は旧知の日本陸上協会幹部にメキシコオリンピック候補として売り込む。最初は相手にされなかったが、記録会で日本記録まで0秒1にせまる11秒7の好記録を出して協会幹部が驚く。幹部はひろ子が男まさりなので念のため「性別チェック」をうけるように勧められる。担当医は峰重だった。
ひろ子は診断をためらっていたが、結果は女子競技出場には適さないという診断だった。宮路は峰重がうらんでそう診断したのかと憤慨するが、半陰陽で両方の性器も未熟だということがわかる。失意のひろ子は陸上部から去り伊豆の実家に帰る。しかし、宮路はひろ子の元へ向かい、ある行動に出るのであるが。。。

性同一障害の話はヒラリースワンク「ボーイズ・ドント・クライ」のアカデミー賞受賞以来取り上げられることが多くなった。でもその話とかなりちがう。
両方の性器が未熟でどっちつかずだというのだ。そうなると女性とは判断されない。
それだったら性的に「女にしてしまえ!」というのがこの映画の主旨である。

1.安田道代
現在も大楠道代の芸名でときおり映画に出演する。彼女の出演している作品にハズレはない。酒とタバコでかすれてしまったドスのきいた声で「赤目四十八瀧心中未遂」「人間失格」のようなやり手ババアの役を演じさせると天下一品だ。自分としては大映の映画館にあった壺ふり姐さんのポスター姿が印象的で小学生なのに安田道代が気になって仕方なかった。でもその時は残念ながらみていない。
こんな感じ(江波杏子と一緒)↓


向こう気が強くバスケットボール部のコーチから文句を言われたら、逆にやりかえして取っ組み合いだ。その男まさりの気質を見込んで緒方拳扮する宮路がスカウトする。当時23歳の安田道代は初々しさを残しながら男まさりな視線や言葉遣いを駆使する。しかも、スプリンターの役なので全速力で100M走を何度も走りぬく。田舎娘らしい荒々しさから転じて女を意識させる場面での対照的な美貌も魅力的だ。
それにしても大楠道代に100Mもう一度走らせてみたいなあ。

2.緒方拳
昭和40年「太閤記」の秀吉役で一気にスターになり、翌41年も「源義経」の弁慶役と2年連続でNHK大河ドラマに出演して国民的人気者だった。幼い自分もこの二作ではテレビにクギ付けになっていた。そのあとまもなく新国劇を退団したころの作品で、それまではほとんど映画には出ていない。
そののちの今村昌平監督「復讐するはわれにあり」の凶悪犯人役を思わせるワイルドな演技は称賛に値する。

かなり自分勝手な男である。安田道代演じる攻撃的なひろ子の姿を見て、緒方演じる宮路が自分と似たものを見出し、指導してあげたいと思う。でも他の選手にはまったく目もくれない。会社の上司から他の選手も指導しろと言われたら、オリンピックにでる選手をつくるのとどっちが大事かなんて言い張る。
宮路は「お前の奥さん犯しちゃったよ」なんて、もしやっても黙っていればいいことまであっけらかんと友人に話す。普通じゃありえないけど、この宮路はそういうがあってもおかしくない異常性を感じさせる男だ。まあ映画が終わるまでずっと我を通すことしかない。この性癖の見せ方は増村保造の演技指導もあったと思うが、緒方拳らしさが活かされ実にうまい。


3.寺内大吉
この映画の原作は寺内大吉「すぷりんたあ」である。自分が少年のころはキックボクシングの解説に出てくるベレー帽のおじさんという感じで、坊主兼作家なんてまったく思っていなかった。この間も小沢昭一「競輪行人行状記」を見たが、作家とはいえナンパ系坊主の匂いがプンプンするおもしろいオヤジだ。

映画では、主人公は昭和15年の東京オリンピックに出損なったという設定だ。逆算するとおおよそ大正の二桁生まれということだろう。寺内は大正11年生まれ、増村保造監督は大正13年生まれで主人公の年齢に近い。この映画は昭和43年公開だけど、1932年のロスオリンピックの時の日本応援歌を映画の中で歌わしたり、まだ戦時中を引きづっている設定が残る時代なんだろう。

4.池田一朗
脚本を担当するが、名前に見覚えがある。惜しまれて亡くなった作家の隆慶一郎なのだ。この人の時代小説は実におもしろい。「吉原御免状」を読んだ時はビックリした。吉原遊郭内部の話かと思ったら、奇想天外な発想でかつスケールが大きく一気に引き込まれる。この人すごいなあとしばらく追ったがあっという間に死んでしまった。旧制三高、東大出の秀才で立教の先生もやったあと脚本家になったおもしろい経歴だ。

現代の映画に比べれば、細かい点でアラも目立つが、この映画のもつエネルギーはすごい。

大島渚はこう言う。「日本の映画界でこのように鮮明に自分の方法を論理化して語った監督はいなかった。しかも、このように自覚された方法が具体的な作品で見事に映像化されていた。」増村保造を評する。
近代主義者の増村保造「生きる人間の意思と情熱だけを誇張的に描くことを目的としている」という。
まさにこの映画の2人の主役はその言葉にあてはまるよう描かれた人物だ。
後世に残る傑作といえる。

(参考作品)

セックス・チェック 第二の性
追いつめられた選手とコーチの異常な関係


痴人の愛
増村保造と安田道代のコンビ

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