映画とライフデザイン

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映画「人間蒸発」 今村昌平

2022-11-15 18:41:32 | 映画(日本 昭和35年~49年)
映画「人間蒸発」を名画座で観てきました。


映画「人間蒸発」今村昌平監督の昭和42年の作品である。実際に失踪した男の婚約者とリポーターの露口茂が男性が失踪した手がかりを追うドキュメンタリータッチの作品である。大好きな今村昌平監督の作品なのにこの作品だけポッカリ抜けて縁がなかった。DVDにはなっていても、どうしても映画館で観たかった作品だ。

以前、日本経済新聞今村昌平「私の履歴書」を読んだ時、いくつもアッと言わせる場面があった。印象的だった1つが「人間蒸発」の製作過程だからだ。こうやって観れてうれしい。

プラスチック問屋に勤めるセールスマンの大島という男が福島に出張した後失踪する。婚約者だった早川佳恵(通称ネズミ)はリポーターの露口茂とともに聞き込みを始める。2人と撮影スタッフは勤務先、親類、近所の人、以前付き合っていたらしい女性などにあたってインタビューする。それでも、消息がつかめない。TVの木島則夫ワイドショーの探し人コーナーにも出演する。しかし、探しているうちに大島の予想もしなかった実像が浮かび上がってくる。

スピード感あふれる映画だ。
婚約者とリポーターは次から次へとインタビューをしていく。内容は短い時間で簡潔に編集されている。ひたすらテンポは早い。でも、訳がわからなくなることはない。ジワリと男の実像があぶりでる。勤務先の問屋は、少年の頃からたたき上げで勤めていた会社だ。社長もかわいがっていた。それでも、使い込みをしたことがあるらしい。付き合っていた女もいたようだ。数多くのインタビューを通じてわかってくる。

まずは、現代とは時代背景がちがう。プライバシーが何から何まで暴きだされる。おいおい大丈夫?一部、どうしても顔出しできない人もでてくる。でも稀だ。こんな映像を今出したら、たいへんなことになる。


映し出される60年代後半は、自分も小学生だ。実際に生きていた頃だ。インタビューに訪れる商店の雰囲気が昭和そのものである。福島まで電車で向かった時の町が完全なる田舎の風景だ。たまに親類のいる地方に行くと、ここはどこなのか?と思うくらいロードサイドの店舗に全国統一的な風景を感じる。ここで映し出される顔立ちは誰も彼も鈍臭い

婚約者のネズミ(早川佳恵)は勤め先を退社して、婚約者探しに専念している。
ここで2つの問題が起きる。
リポーターの露口茂と常に一緒にいるネズミが露口にだんだんと惚れ込んでいくのだ。のちに「太陽にほえろ」の渋い中年刑事役だった露口茂もここではまだ若く長身で2枚目だ。婚約者を探そうと必死になっていたネズミが男を忘れてうっとりしてしまう。それに気づいた今村昌平監督はこれを逃してはならないと、隠しカメラとマイクを用意する。見どころの一つだ。


もう一点はネズミの姉と婚約者の2人が一緒に歩いているのを見たという目撃者の証言がでてくる。何か起きたのでは?と妹は姉を追求する。そんなことはないと姉は否定する。姉は若くして芸者の置屋に養女として送られた女だ。もともと姉妹の信頼関係がない。この場面になって急に停滞がはじまる。最初の連続的なインタビュー映像のテンポの良さが急にこわれたレコードの針のように同じようなセリフが続く。

今村昌平監督はじめスタッフも映し出されるが、途中でのネタギレを感じる。しかも、資金不足のようだ。別の進展かあれば、もう少しいい展開で進んだかもしれない。ここで久しぶりに今村昌平「私の履歴書」を読み返してみる。

今村昌平は「もしも大島を探し出せなかった場合にはこの女の内面の探索を中心に映画を作ろうと考え。。」(今村昌平 映画は狂気の旅である2004 p135)としている。そして懸命に追っても足取りがやはりつかめなかった。

「大島捜索を断念した私は,ネズミと言う人間を丸裸にしようと躍起になった。映画をなんとか情念の世界に持ち込みたい。。。撮影のない日も隠しカメラで尾行し,現場から宿まで送り迎えするスタッフの車に隠しマイクを仕込んだ。新宿の喫茶店でネズミが露口と密会し「あなたが好きなの」と泣いて告白するシーンは隠し撮りをしている。」(今村2004 p136)
プライバシーの侵害で問題になったこともあったという。この後も面倒なことはまだ続き、今村昌平監督の苦悩が読みとれる。でも、意外にも婚約者を探していたネズミは久々会うとサバサバしていたという。「人間蒸発」からも今村昌平映画の凄みが感じられる。

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