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映画「赤坂の姉妹 夜の肌」新珠三千代&淡島千景&川島雄三

2021-06-23 18:54:31 | 映画(日本 昭和35年~49年)
映画「赤坂の姉妹 夜の肌」を名画座で観てきました。


新珠三千代特集が渋谷の名画座で上映されている。これまで存在すら知らない映画がいくつかある。そのうちの一つ「赤坂の姉妹、夜の肌」は1960年の川島雄三監督作品である。赤坂のバーマダム長女(淡島千景)と店を手伝う次女(新珠三千代)を中心に複雑な男女関係を映し出し、信州から上京まもない三女(川口知子)が左翼運動に色染められる話を絡ませる。

有力政治家(伊藤雄之助)、車ディーラーの副社長阿久井(田崎潤)、ブローカーの田辺(フランキー堺)そして三女の恩師でもある中平(三橋達也)が長女と次女、そして政治家の情婦でもある演劇俳優(久慈あさみ)に複雑に絡む。と言っても訳がわからなくなる訳でもない。いつもはもう少し理性がありそうに見える役を演じている淡島千景の方がいちばん男出入りが激しい役を演じる。


何といっても、1960年(昭和35年)の赤坂を総天然色(カラー)で見れるのがいい感じだ。今のように東京に高い建物はないので、赤坂を映す映像のバックに1958年に完成した東京タワーが見える。高い場所から赤坂の街を俯瞰する映像も多い。しかも、安保の年だけに実際のデモ隊も映し出す。盛り沢山だ。本屋にたくさん積まれている昭和30年代の写真集を見るよりも超リアルである。

ストーリー自体は正直どうってことない。男に頼って這い上がろうとする水商売の女の話はこの時代にはいくつも転がっている。でも、川島雄三作品らしくリズミカルな展開であるのに救われる。Wikipediaで「赤坂の姉妹」は記載がなく省かれていて、DVDにもない。川島雄三監督作品にもかかわらず存在すら知らなかったが、見る価値は十分ある作品だと思う。

⒈昭和35年(1960年)の赤坂
いきなり国会議事堂駅を映し出し、議員が乗るハイヤーが赤坂に向けて坂を下りながら暴走して、それを追う新聞社の車が映し出される。周囲はまだ低層の木造二階も多く今とは見違えるほどだ。赤坂の中心部にある料亭の隣に印刷屋があったりする。それでも、日枝神社の境内の姿は今も昔もたいして変わらない。人気クラブのラテンクォーターのネオンも映し出される。料亭も多かったんだろう。国会から近いから、議員たちのヒソヒソ話で随分と使われたであろう。


大通り沿いにホテルニュージャパンらしき建物が映った。赤坂見附駅あたりからの撮影だ。アレ?もうできていたっけ?と思いながら、調べてみると1960年完成だという。やっぱり間違いない。政界の紳士藤山愛一郎がつくったホテルでまだ横井英樹の持ち物ではない。

何度も映し出されるのが、TBSテレビである。一ツ木から丘を上ったところに建物が完成するテレビ局だということで「テレビ東京」という名前で何度も名前がでてくる。

⒉新珠三千代
宝塚出身の美人女優である。世代によって見方は違うと思うが、我々の世代ではTVドラマ「細うで繁盛記」の加代のイメージが強い。このTVが流行った時期はまだ自分も小学生から中学生にかけてだったので、女性としての魅力は全く感じなかった。自分の父母より少し年上だ。伊豆弁丸出しの冨士真奈美イジメに耐え抜く耐える女に過ぎなかった。


映画を見るようになってからは、森繁久彌社長シリーズでバーのマダムなどの役によくでていた。社長の森繁に一生懸命に口説かれて最後に久慈あさみの奥様が出てきていつも口説き損なうというワンパターンだ。でも、シリアスな役で力量を発揮する。以前感想をアップしたが女の中にいる他人での役柄に凄みを感じた。霧の旗」や「黒い画集 寒流もいい。それなので、今回も特集は楽しみにしていた。今回は和装の淡島千景に対比するように洋装が多い。実に美しい。子どもの頃には彼女の魅力はまったくわからなかった。

⒊川島雄三
昭和30年代前半の川島雄三というと、日活映画というイメージが強い。実は昭和32年に東宝(東京映画)に移っている。大阪船場舞台の暖簾もその一つだ。名作「幕末太陽傳」でコンビを組んだフランキー堺は映画会社を飛び越して今回も出演する。大映映画女は二度生まれるで男を渡り歩く九段富士見の不見転芸者を撮ったのが翌1961年、ストーリーはもちろん違うが、根底に流れるものは一緒である。アレ?所属映画会社どこだっけか?とふと思ってしまう。


「赤坂の姉妹」は川島雄三作品らしくテンポが早い。セリフのリズムもスピーディーである。しかも、新珠三千代と淡島千景の取っ組み合いの姉妹けんかも映す。これ自体も一瞬で終わるのではなく、マジでけんかする。なかなかきびしい演出である。

「洲崎パラダイス」「幕末太陽傳」では遊郭、「赤坂の姉妹」「女は二度生まれる」では芸者のいる花街を舞台にして、男を渡り歩く女を描く。女性総合職がさっそうとオフィスを闊歩する現代とは異なり、男頼りでしぶとく生き延びている色街の女を描く。時代の風潮にリアルタイムで反応する川島雄三の映画が楽しめる。

⒋蜷川幸雄と露口茂
1960年といえば安保の年、町ではデモ隊がウヨウヨいたのであろう。信州から出てきたばかりの田舎娘の三女が左翼活動に毒される。北海道の炭鉱閉鎖に伴うデモに遠征して大けがするというシーンがある。こういうストーリーを加えると、当時の世相に合ったものになる。仲間の左翼学生の中に、若き日の露口茂と蜷川幸雄がいる。

鬼の演出家として知られる当時25才の蜷川の表情もまだ温和である。伊藤雄之助演じる政治家が三女から「資本論」をもらって、おふざけに読むシーンが笑える。

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