映画とライフデザイン

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浮草  小津安二郎

2010-12-26 19:31:59 | 映画(自分好みベスト100)
小津安二郎で一番の作品と言われれば、迷わず「浮草」としている。
松竹専属の小津が初めて大映で撮った作品である。先日「ノルウェイの森」を観た時、雨の使い方がうまく、ブログに「浮草」を思い出したというコメントを書いた。改めてみて、やはりうまいと思う。



中村鴈治郎、京マチ子に加えて若手の若尾文子、川口浩をからませる。そこに小津作品常連の笠智衆、杉村春子が加わって当時としては豪華キャストである。旅芝居の一座が志摩半島のある街に行く。そこには親方中村鴈治郎の昔の女杉村春子がいて、今の女である京マチ子が嫉妬するという話である。
話は実に単純で、小津作品らしいわざとらしい脚本であるが、芸達者がそろって演技は完ぺき、宮川一夫カメラマンによるカラー撮影がすばらしく、どう考えても小津作品ではずば抜けている気がする。

志摩半島にある小さな港町。そこに12年ぶりに旅回りの嵐駒十郎一座が来た。座長こと中村鴈治郎を筆頭に、京マチ子、若尾文子など総勢十五人、知多半島一帯を廻って来た。鴈治郎と京マチ子の仲は一座の誰もが知っていた。だがこの土地には、鴈治郎が若い頃に子供まで生ませた飲み屋の女将杉村春子が住んでいた。その息子こと川口浩は郵便局に勤めていた。杉村は川口に、鴈治郎は伯父だと言い聞かせていた。鴈治郎は、川口とつりに出たり、将棋をさしたりした。不在がちな鴈治郎に京マチ子が感づいた。鴈治郎を罵倒するが、息子と遊んで何が悪いと開き直る。そこで京マチ子は妹分の若尾文子をそそのかして川口を誘惑させようとしたが。。。。

いつもの松竹のセットでつくっている小津作品とは違った色彩である。旅芸人の親方を演じた中村鴈治郎のあくの強さが全面に出ているからだろう。小津作品特有の平穏な家庭ではなく、昔堅気の旅芸人の世界である。猥雑さがツンとくる。そして昔カタ気のしきたりを示すような「上方風手締め」の場面がでてきて、一時代前の匂いをプンとさせる。
今の役者が同じように演じようとしても絶対にできない鴈治郎の絶妙のうまさが感じられる。
京マチ子もいい。女の業の深さをあらわにする情念あふれる演技は、彼女ならではのものである。当時35歳、女ざかりの彼女の色気は相変わらず我々をドッキリさせる。ついたり離れたりするこの男女の絆は成瀬の「浮雲」と通じるものがある。鴈治郎の方が男っぽいが。。。
いずれにせよ小津安二郎の役者使いのうまさがにじみ出ている。



当時の大映の看板カメラマン宮川一夫の巧みなカメラワークが抜群にいい。基本は小津作品特有の切り返しショットと低いカメラアングルで、それは変わらない。しかし、美的センスが一段上の気がする。カラーを意識した巧みな美術、京マチ子、若尾文子が着る夏のきもの色遣いがすばらしい。志摩の田舎町のたたづまいもなつかしい雰囲気だ。映像を楽しむ要素が盛りだくさんである。

降りしきる雨の中、ののしりあう鴈治郎と京マチ子を巧みに映す場面は他の小津作品にあるであろうか?日本映画史上に残る名場面である。
改めて小津のベストと再認識した。

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