映画とライフデザイン

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映画「スワンソング」ウド・キアー

2022-09-01 19:47:37 | 映画(自分好みベスト100)
映画「スワンソング」を映画館で観てきました。


映画「スワンソング」はゲイのヘアメイクドレッサーの話で、ポスターもなんか好きじゃないなあと思っていた作品。ただ、老人のロードムービーという宣伝文句が気になり映画館に向かう。好きなジャンルだからだ。これが予想以上に良かった

オハイオ州、死期を待っているような老人が多い老人介護施設にいるヘアメイクドレッサーだったパット(ウドキアー)の元に、以前上得意だったリタ(リンダエヴァンス)の弁護士が訪れる。つい先ごろ亡くなり、遺言にはパットに「死化粧」をやってほしいと書いてある。報酬は高いが、今さらもう無理ということで断る。ところが、過去の出来事が走馬灯のようによみがえり、施設を抜け出し葬儀場に向かう話だ。


好きだなあこの映画
施設にいるパットは普通によくいる男性の老人である。ゲイの香りはしない。でもいたずらっ子が大きくなったみたいな男だ。その老人が彷徨うロードムービーは味がある。昔の知人の配役もピッタリでストーリーに不自然さがない。バックに映るオハイオ州の広大に広がる畑の風景やアメリカンテイストの家も素敵で、音楽もセンスもよくヴィジュアル的にも快適な時間を過ごせる。元気よく勧められる作品だ。

実際にいたヘアメイクドレッサーのモデルがいたという。きっと偏屈でお茶目なやつだったのだろう。トッドスティーブンス監督もゲイ、彼が若き日にパットに出会っている。


⒈葬儀場に向かうパット
老人施設にいるパットの周囲には生きているのがやっとの老人も多い。心臓疾患があるにも関わらず、タバコはやめられない。施設の担当者にタバコを取り上げられても、こっそり隠している場所をまさぐる。そんな老人のもとに死化粧を依頼した故人の弁護士が突然来て、25000$の多額の報酬を提示する。一瞬驚くが、ヘアメイクとも遠ざかっているからむずかしい。

でも向かう。気になってしまうのだ。
金は施設預かりだから、ほぼ無一文だ。思い立ったパットはすぐさま施設を脱走する。単なる老人の格好でゲイの姿をしているわけでない。死化粧には化粧道具も必要だ。ヒッチハイクで老女のトラックに乗った後、昔ゆかりある場所を次々とまわる。


依頼してきた弁護士に出くわすと、用意のための支度金をもらおうとするが、故人の資産は凍結ですぐもらえない。それでも、元の自分の住処や御用達の化粧品店、知っているビューティーサロンなどや仲の良かった相棒の墓にも向かい何とか調達しようとする。

ここから先の話は見てのお楽しみだが、ロードムービー特有の人との出会いがある。老人のロードムービーにはデイヴィッドリンチ監督の名作「ストレイトストーリー」がある。最近では英国を縦断する傑作「君想いバスに乗る」もある。いずれも長距離移動だが、ここでは以前住み慣れた街の徘徊だ。それでもドラマがある。いずれもディープだ。

⒉愛情をもった周囲
その昔はゲイっぽく着飾ってステージも立った。町では有名人だった。でも、新しく町に来た人は知らない。ただ、いくつかの親切に助けられる

昔の自分のイメージを崩したくないパットは、ファッションも決めたいとブティックに入る。そこで、服を物色すると店の女性店員に声をかけられる。
「あなたはもしかしてビューティーサロンのパットでは?覚えていないかもしれないけど私は一度だけ入ってヘアメイクしてもらったことがあるのよ。そのヘアスタイル本当に気に入っていたの!」
パットは店員の名前を言い、そのときのヘアスタイルや産んだ時の子どもの名前まで思い出して言う。その昔町の有名人だったパットにそこまで思い出してもらって店員は超感激である。

このシーン観て思わずうなった。好きだな。このやりとり
むかしのことなんてきっと忘れているだろうと、お客様の方が思っていても意外に忘れていないもんだ。自分も40年近く前のお客様との付き合いでも会話の内容とかディテールまで思い出せる。それで得することもある。


出会いのエピソードにも十分こだわって最後まで盛り上げる。ゲイバーでのパットのパフォーマンスもすっかり笑える。トッドスティーブンス監督が実際にゲイなので、このバーの中のパフォーマンスはリアルなのかもしれない。

平凡なようでも十分内容がある素敵なストーリーだ。もっと老いた時、自分も同じような心境でむかしご縁あったところを方々まわるかも。自分にとっては決して遠い先の未来ではないので胸にしみるいい作品だ。

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