映画とライフデザイン

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嵐を呼ぶ男 石原裕次郎

2012-05-30 07:41:05 | 映画(日本 昭和34年以前)
映画「嵐を呼ぶ男」は石原裕次郎主演の昭和32年の作品だ。

「おいらはドラマー、やくざなドラマー。。。」で始まる主題歌はあまりにも有名だ。
映画自体は稚拙な部分が目立ち、演技も今一つで荒削りであるが、初期の石原裕次郎から発せられるオーラは凄い。
彼の初期の代表作である「狂った果実」や「太陽の季節」はいずれも白黒であるが、この映画はカラー(総天然色)、いきなり映されるシーンは日劇横日比谷側から不二家や森永のキャラメルの広告塔をカラーで映す。白黒はあってもカラー映像は意外に少ないかもしれない。
昭和32年は映画「三丁目の夕日」の一作目の設定と同じだ。昭和30年代初期の東京をカラーで見るということでも価値が大きい気がする。

銀座でクラブを経営する女支配人(北原三枝)の店では日夜人気バンドによるジャズが演奏されていた。人気のドラマーチャーリー(笈田敏夫)はギャラのアップを要求していた。元々支配人とドラマーは付き合っていたが、ドラマーはダンサー(白木マリ)に手を出していた。ある夜ドラマーは出演を拒否する。すでに別のところで契約が決まっていたらしい。ドラマーがいなくなって困る支配人であるが、兄貴を弟が売り込みに来ていたドラマーのことを思い出す。
そのドラマー正一(石原裕次郎)は銀座を流していた男だ。ケンカに明け暮れる毎日を送っていて、その日も留置場にはいっていた。支配人は身元引受人になり、ドラマーは留置場を出て、店でドラマーの穴埋めをした。自由奔放で、腕の立つ彼はバンドとの息もあい、人気が上昇する。
人気が上昇したのには元のレギュラードラマーは面白くない。ドラム合戦を提案して、正一もそれを受ける。ところが、ドラム合戦の前夜銀座の夜の顔役にからまれて、ケンカしてしまった正一は腕をけがしてしまうのである。当日手が負傷のまま臨むのであるが。。。。


ストーリー自体はどうでもいい話だ。ただ、ここで映る映像は取り上げたいことが盛りだくさんにある。
女支配人の家を映す。居候している石原裕次郎が朝食を食べようとする時、トースターやジューサーが映像に映し出される。昭和32年であれば、ほとんどの家庭にはいずれもなかったはずだ。特にジューサーの中のオレンジジュースは総天然色映画であることを意識してか、鮮明な色で映し出している。石原が住むアパートとの対比を通じてあこがれの世界を映し出すのも大事な映画の役割だ。


石原裕次郎はまだまだ荒削りで、演技もうまくない。それでも強烈なオーラを出す。「嵐を呼ぶ男」を歌うシーンは圧倒的かっこよさだ。歌い始めるシーンは背筋がぞくっとする。
何より驚くのは彼の足の長さだ。この映画から50年たった最近では決して珍しくないが、チビで短足の日本人男性の中でひときわ足が長い。他の出演者とのコントラストに驚く。

北原三枝は割と普通、むしろ白木マリの色気あふれる振る舞いが印象に残る。
豹柄のビキニもどきの姿でストリップのような情熱的なフロアダンスを踊る。後ろでドラムスをたたく石原裕次郎に対して、強く挑発するような視線を送る。控室でダンスを踊る服装を脱ぐシーンがある。当然バストを見せないが、当時としてはぎりぎりのエロチックな表現だ。

音楽の基調は正統派エイトビートのジャズが中心だ。でもこの映画入ってすぐ平尾昌晃がいきなりロックンロールを歌う。出演者としてのクレジットではない。まだデビュー前でジャズクラブで歌っていたリアルな姿だ。有名な「ウェスタンカーニバル」はこの翌年からはじまる。これもずいぶんと荒削りだ。紅白歌合戦でラストの「蛍の光」を指揮する姿を誰が想像できたであろうか。

笈田敏夫は元々ジャズシンガーだ。このころの彼はやくざと思しき眼の鋭さで、晩年の枯れ切ったロマンスグレーのキザじいさんの面影が少ない。渡辺プロの社長の渡辺晋さんがドラム合戦のとき、ウッドベースを演奏しているのも印象的だ。当時の日活映画常連岡田真澄も裕次郎の後ろで演奏する役柄だ。
銀座の顔役を演じる安部徹、高品格の渋さはここでも光る。高品が演じるチンピラを麻雀放浪記の出目徳役や晩年のテレビに映る姿と対比するとおもしろい。金子信雄はここでもせこい役だ。仁義なき戦いの親分役と大して変わらない。この辺りからキャラが確立していたのかもしれない。

生まれ育った五反田では日活の映画館は今の東興ホテルの裏側あたりにあった。大映や東映に比べると父や母と行く回数は少なかった。演奏の映像と音楽があっていない。格闘シーンにリアルな感じがない。今の映画の進化を知っているので稚拙と感じるが、初めてこの映画を見た若者たちは強烈な衝撃を受けたんだろうなあ。

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