映画とライフデザイン

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映画「キューポラのある街」吉永小百合&浦山桐郎

2020-10-02 08:21:27 | 映画(日本 昭和35年~49年)
映画「キューポラのある街」は昭和37年(1962年)の日活映画


吉永小百合の若き日の代表作といえば「キューポラのある街」と言われることが多い。川口の町の話から「キューポラのある街」の話題になり、これってひどい差別用語が飛び交う映画と話すと、ほとんどの人は知らない。吉永小百合と浜田光夫の輝かしい青春物語だと思っているようだ。先日も自分より年長で埼玉で育った人と話して同じような話になった。これまでも2回ほどブログで取り上げたが、踏み込んでもう一度見てみたい。

中学3年の主人公ジュン(吉永小百合)は鋳物工場で働く父辰五郎(東野英治郎)と母トミ(杉山徳子)、タカユキ,テツハルの弟2人と川口の荒川沿いに近いエリアで暮らしている。飲んだくれの父は働いている鋳物工場で人員整理が行われることになり辞めることになる。そんな時妊娠している母が破水して赤ちゃんが生まれるが、父親は飲みに行ったきりだ。無職になる父を若い元同僚の塚本(浜田光夫)が心配して、同僚からカンパを集め、組合からの給付金を渡そうとするが「オレは職人だ。アカの金はもらえない」と受け取らない。


父の失業を心配して、娘のジュンは朝鮮人の同級生がパチンコ屋の台裏で玉の補充をするバイトをしていると聞き、こっそりとバイトを始める。母は飲み屋で働くが、娘にはちょっとお店の手伝いをすると言ってある。長男は朝鮮人の同級生サンキチと一緒に悪さをして、年上の不良少年グループの言われるままに盗みを働いている。

ジュンは勉強ができる。同じクラスの社長令嬢ノブコにも自宅に呼ばれて教えてあげたりしている。浦和にある県立第一高校を志望している。先生にも合格すると太鼓判を押されているが、父親は「女は高校に行く必要はない。中学でて働け」という。それでも逆らって勉強をしている。ただ、職人気質の父親は紹介された別の鋳物工場をすぐさまやめている。


クラスでは修学旅行にいくら小遣いを持参するかが話題になっている。しょげているジュンを担任の教師(加藤武)が心配する。そして、修学旅行の公的な補助金がでる制度を教えてジュンは修学旅行に行けるようになる。しかも、同級生ノブコの父上が大きな鋳物工場の職をジュンの父親に紹介してくれた。これで安心して修学旅行に行けるのだ。

修学旅行の当日朝、意気揚々としていたが、寝ている父親を起こそうとすると、会社を辞めたという。家の中でケンカが始まりジュンは飛び出していく。向かった先は集合場所でなく、荒川の土手を目指すのであるが。。。

⒈川口の原風景
京浜東北線の車両がこげ茶である。自分が幼少時確かにそうだった。今から26年前和歌山から埼玉に転勤することになり、事務所は大宮だが、浦和川口を担当することになった。その時、アシスタントで会社に来ていた川口に住むおばさんに「キューポラのある街」のビデオを借りてみたのが最初だ。吉永小百合のイメージと違うストーリーに驚いた。

川口で働くようになった頃キューポラは今より見かけた。すでに駅前にはそごうデパートがあった。鋳物工場はマンションに変貌している途中だ。当時ロケ地である金山町付近は映画の名残を残していたが、現在この映画の面影はない。浦和川口と比較すると、浦和の方が格上に見えるが、川口は自営業者が多く前近代的資本主義が残る町だ。比較すると川口の事業主の方が金を持っている。家にもお金をかける。浦和はプライドだけ高く所詮サラリーマンの住処にすぎない。

マルクスの世界に近い川口の前近代的資本主義とは貧富の差が激しいということだ。この映画でのステレオがあって、ケーキがおやつに出てくる親友ノブコの家とジュンの家を比較して格差を浮き彫りにする。最近格差が激しいというが、この映画の頃と比較すると比べ物にならない。


ジュンが通った中学校は建替えて荒川の川沿いに今もある。川口市役所や川口陸橋は変わっていない。でもそごうは閉店が決まっている。埼玉は浦和伊勢丹、それと大宮高島屋、川越丸広などの一部除いてデパートがなくなってしまうかもしれない。東京から荒川を越えると、ショッピングモール文化になるのだ。当然、昭和36年には予想もしなかったことだと思うが。
すばらしいyoutubeがある↓


⒉吉永小百合の悲しい1日
修学旅行に行く朝、先生に用意してもらった旅行の補助金を鞄に入れて意気揚々と出かけようとする。ところが、ジュンの友人の父親に紹介してもらった転職先も父親がやめてしまったことがわかる。ガッカリして、修学旅行に行く気をなくしてしまう。ケンカして思わず飛び出す。

ジュンは荒川の土手に佇んでいるが、同級生が乗っているのかと思い横を通る京浜東北線から目をそらす。すると、腹痛がする。慌てて鉄橋の下に向かう。草むらの陰に行くと初潮を迎えたことに気づくのだ。血を見てたじろぐ吉永小百合。みんなが集合場所から出たのを見届けて駅に行く。「浦和一枚ちょうだい」切符を買って、目指している県立第一高校に向かう。校庭の裏から女子生徒が体操着を着て隊列を組んでダンスするのを見る。

本当は行きたかったのにという歯がゆい気持ちが強い。ここが一番悲しい。

川口に戻って、飲み屋街の前を通るとジュンの母親がいた。男の酔客の中でいちゃついている姿を見てショックを受ける。家には帰れない。そう思った時に女友達とばったり会いダンスホールへ行こうと誘われる。そこでは不良グループがたむろっていた。ジュンは女友達と楽しくダンスを踊っていたが、興味半分で飲んだお酒に睡眠薬を入れられていたのだ。薬が効いて女友達共々寝てしまう。別部屋に担ぎ込まれるのである。吉永小百合のピンチだ。

浦和へ向かって、志望校の校庭から体操を眺めるこのシーンがいちばんせつない。架空の県立第一高校としているが、映像を見れば明らかに名門「浦和第一女子高校」の校舎をロケに使っていることがわかる。吉永小百合が体操を眺める石積みの擁壁は今なおある。ダンスをしているのは本物の浦和一女の高校生なんだろうか?


勉強ができるのに家が貧しくて高校へ行けない。悲しい物語だ。昭和30年代にはこんな話がいくらでも転がっていたかもしれない。

⒊北朝鮮への帰還とその人たちは今
ジュンの同級生と弟の同級生サンキチは朝鮮人の姉弟である。屑鉄の回収を行う朝鮮人の父と名脇役菅井きん演じる日本人の母親から生まれる。当時北朝鮮への帰還事業が行われていた。父親は帰国に合意するが、母親は日本人でそのまま残る。「こっちにいても貧乏なんだから向こうへ行っても同じさ」とサンキチは言う。会話の中で北鮮という呼び名で、また戦争が起きるのではと、びくびくしている。この頃は停戦から時間がたってはいない。

サンキチは学芸会の演劇でその後「サインはⅤ」で一世を風靡する岡田可愛と一緒に演じるが、ミスってしまうとほかの生徒たちから「朝鮮人参」とからかわれる。のちの水戸黄門、東野英治郎演じるジュンの父親が「あんな朝鮮野郎と付き合うな」と厳しい言葉を姉弟に言う。 最近では考えられないような差別用語が飛び交う。 この映画はNG用語だらけで昔はTV放映できただろうが、 ちょっと今は難しいだろうなあ。

田舎の駅丸出しの川口駅の前に、北朝鮮への帰還を祝ってみんな集まる。ジュン姉弟もやってくる。最近は隣の西川口、ワラビを含めて中国人が多いが、この当時、川口駅は朝鮮人が多く住んでいたと聞く。自分の記憶では昭和42年ごろに王子駅のすぐそばを歩いたことがあり、今は音無親水公園になっている石神井川のほとりにも朝鮮人居住地の掘っ立て小屋が並んでいたのを違和感のある光景だったので鮮明に覚えている。

朝鮮本国帰還事業のお見送りが繰り返し実際に川口駅の前で行われていたのであろう。この時北朝鮮に帰った人たちはどんな運命をたどったのであろうか?サンキチはどうなったのであろう。想像するだけで気の毒になる。社会党のトップまで拉致はないと言っていたし、北朝鮮が地上の楽園というのは大嘘だとわかるのは平成に入ってからだ。情報が少なかったとはいえ、社会主義者たちの偽りの称賛には今更ながら呆れる。

ここで注目すべきなのは、駅のホームにある駅名標である。乗船する新潟に向かう朝鮮人の弟が 大宮駅で降りたとき、ちらっと駅名標が見える。大宮駅の次が宮原と蓮田となっている。宮原は同じだが、今は大宮と蓮田の間に土呂と東大宮の2駅ある。東京側が赤羽と書いてある。これは驚きだ。浦和駅には停車しない。昭和43年まで東北本線と京浜東北線は一緒の線路を走っていたようだ。時代を感じさせる。


担任の先生から定時制でも勉強できるよと勧められて、その昔バレーボールで有名だった日立武蔵工場に見学に行く。そこで吉行和子演じる先輩の勧めもあり、ジュンは働きながら学ぶ道を選ぶ。ラストはいい方向に持ってきてはいるが、約60年近くなって本当に良かったのかと考えされる。

2020年9月の日経新聞私の履歴書はアート引越センターの寺田千代乃氏だった。寺田氏は中学校卒で誰もが知っている運送会社を築き上げた。実はこの映画のジュンと同じ年である。

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