映画とライフデザイン

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映画「からっ風野郎」 三島由紀夫&若尾文子

2015-09-27 20:39:14 | 映画(日本 昭和35年~49年)
映画「からっ風野郎」は三島由紀夫主演で東大の同窓増村保造がメガホンを取った昭和35年(1960年)の大映映画だ。


三島由紀夫はこの当時すでに流行作家となっていた。その三島を主演にして、増村が監督する映画が企画された。三島はインテリ役だけは勘弁ということで、自らヤクザの役を買って出る。出所間もないヤクザの跡とりが抗争相手の組と争うという話に、若尾文子、水谷良重という女優陣をからませる。

正直映画自体は三島由紀夫の大根役者ぶりが目立ち、増村保造がメガホンを取ったとはいえ普通の作品だ。でも映像から昭和35年当時の世相がよく見え、三島の暴れん坊ぶりがハチャメチャで興味深く見れる。実際客の入りはよかったという。


朝比奈一家の二代目武夫(三島由紀夫)は傷害事件を起こし、2年7カ月刑務所に入っている。出所というその日に面会者が来たが、所内のバレーボール大会の途中だったので、朝比奈の番号をつけた服を着た代理の人間に出てもらった。面会者はいきなり「朝比奈だね」と拳銃の引き金を引く。まったくの人違いでかろうじて難を逃れる。
朝比奈一家の大親分(志村喬)と舎弟(船越英二)が出所祝いに車で刑務所へ向かう後を、殺し屋を向けたヤクザ相良商事の社長相良(根上淳)が追う。相良を刺したために朝比奈は刑務所に入っていたのだ。襲撃を恐れた朝比奈は護送の警察車で身内をもだましながら出所して逃げていく。


朝比奈はすぐさま情婦のクラブ歌手昌子(水谷良重)に会った。すぐさま朝比奈は昌子を抱くが、男にもらったと思われる高価なネックレスを見て、それをもぎ取り、彼女と手を切る。朝比奈は逢引きした映画館を根城にしようとするが、そこでもぎりの芳江(若尾文子)に出会う。

芳江は町工場でストライキをおこしている兄(川崎敬三)に弁当を届けにいったが、スト鎮圧に来ていた警察に誤ってブタ箱に入れられる。そうしているうちにも相良一派は殺し屋ゼンソクの政(神山繁)を使い朝比奈を狙っていた。政は銃弾を放ったが、かろうじて急所からはずれ朝比奈は逃げ切る。ブタ箱からでてきた芳江はもう一度雇ってくれと頼みこんで来たので、朝比奈は思わず抱いてしまい自分の女にする。そしてデート中に相良の娘を偶然見つけ誘拐し相良をおどす。大親分の南雲(山本礼三郎)が仲介に入って、痛み分けになるが、相良も黙ってはいない。朝比奈といい仲になった芳江の兄を人質にするのであるが。。。

1.三島由紀夫
昭和32年姦通小説「美徳のよろめき」が大ベストセラーになったあと、昭和33年に結婚している。昭和34年に長編小説「鏡子の家」が出版されたあとでの映画出演である。昭和30年から始めたボディビルで身体を鍛えているので、この映画ではすでにワイルドな風貌にはなっている。それだけにあえてインテリでなく、アウトローの役をやりたがったのであろう。DV丸出しで何回も若尾文子を殴っているんだけど、いかにもウソっぽい動きだ。キスまで疑似である。そういうのを見ていると非常に物足りなくなってくる。


でも最後に銀座三愛で暴漢に襲われるときに昇るエスカレーターに倒れるシーンがある。これだけは妙にリアルだなと見ていたら、なんとこのシーンで大けがをしたという。増村保造の過激な演技指導にそそのかされ、ちょっと無理をしたんだろうなあ。再度撮影するときは永田ラッパ社長も立ち会ったそうな。

2.若尾文子&水谷良重(現水谷八重子)
若尾文子が普通に見える。昭和35年といえば、前後に「浮草」「ぼんち」なんて作品を撮っている。いずれも好きな映画だ。そこで見るスタイリッシュな着物姿は色のセンスもよく引きたってみえる。普通に見えるのは単にアカぬけない洋装だからのせいだろう。


水谷良重は当時21歳でクラブ歌手の役である。「バナナの歌」をうたっている。体格がよくグラマラスな感じが素敵だけど、歌は音痴で、ルックスもまだ今一つだ。山本富士子主演「夜はいじわる」にも出ていたけど、大映に縁があったのかな。母親のあとをついで今も新派の女王だ。本拠地新橋演舞場をはじめとして、幅広く現役で舞台勤めをしているのは両親守田勘弥、水谷八重子からの強いDNAを感じる。

3.山本礼三郎
黒澤明の名作「酔いどれ天使」三船敏郎とともに強烈な印象を残すのが山本礼三郎である。あの凄味のある表情は明治生まれがもつ迫力だ。刑務所から戻ってきて、三船演じるヤクザの縄張りも木暮三千代演じる情婦も奪っていく。最後の2人の格闘は映画史に残る悲愴なシーンだ。この映画では枯れ切ったヤクザの親分だ。これはこれですごい。現代映画界にこの手の顔が少なくなっている気がする。


4.ヤクザと企業
若尾文子演じる芳江が組合でストライキ活動をしている川崎敬三演じる兄を訪ねていくと、運送業者のトラックに乗ったヤクザが一斉に押し掛け、ストライキの妨害をする。そこへ警察が来てストライキに関連する人を検挙する。こういうぶち壊し屋の存在は今では考えられないことだ。60年安保の時は安保反対派の鎮圧のために、右翼と暴力団がぶち壊しに雇われたという話は聞いたことがある。裏社会なしでは物事が解決しなかったわけだ。

暴対法が成立したために、逆に準暴力団的チンピラ組織がのさばるようになったなんて記述はよく見る。たしかに一般の会社では、反社会組織に対する意識が非常に強い。少しでもクロとなると、弁護士名で取引をしない旨の書面を送ったりすることもあるようだ。今は暴力団の脅迫も少なく良くなったと思うが、このころの映画を見ると、反社会的な人がうまく立ち回るものも多い。うーん、戦後のどさくさを引きずるすごい時代だ。

5.五反田の原風景
映画を見はじめてすぐに、五反田駅すぐそばの目黒川にかかるガード下の映像が出てきて驚く。カメラ位置がガード下で、目黒川を大崎橋に向かって映す。自分が持つこのころの写真は白黒なので、カラーの映像でなくなった飲み屋「赤のれん」を映しだすと背筋がゾクッとする。京浜ベーカリーは残念ながら見えない。実はこのカメラ位置のあたりにある産婦人科で私は生まれた。今はラブホに代わっているけど。

どうでもいい話だけど、佐藤俊樹「不平等社会日本」という社会学系の新書で、著者が「自分は生まれた病院を知らない」むしろ「本人は知らないのは当たり前だ」といっている。これって変じゃないかな?自分の生まれた場所って知るべきだし、知らないあんたの方がおかしいんじゃないのと思った。今や別の人に売られて姿を変えているけど、自分にとっては重要な場所だ。
(昭和36年の五反田東急方向からの写真、富士銀行の手前が大崎橋)


(参考作品)
からっ風野郎
三島由紀夫のヤクザ役


美徳のよろめき
後味が最高に悪い三島のベストセラー姦通小説

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3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
元は裕次郎のための脚本だそうです (さすらい日乗)
2016-06-20 10:36:00
この脚本は、三島由紀夫の小柄に合わせ競馬の騎手の話で、八百長のことだったそうです。ところが当時馬主協会の会長だった永田雅一の反対でだめになり、再度脚本を探した。
すると菊島隆三が裕次郎用に書いたのがオクラになっていることを思い出し、急きょ書き直したそうです。

三島由紀夫のコンプレックスのことを良く描いていると思う。
孤独で船越英二だけが唯一の友人というのは、非常によく三島由紀夫の孤独さを表現していると思います。
返信する
Unknown (talk_to_keijiro)
2021-01-07 03:09:12
映画は面白かったんですけど、
三島由紀夫には吹いて😂しまいました。
けど、
増村保造ですから、
そつなく演出こなしていましたね。
異色ながらも、
忘れられない一作でした。
返信する
三島由紀夫 (wangchai)
2021-01-07 09:27:24
コメントありがとうございます。

三島はお世辞にもうまいとは言えない演技ですが、大けがするくらい体当たりしていますよね。増村保造とのインテリコンビでなんとかまとめた感じです。

自分的には生まれた場所の近くでの光景が映っていてうれしいです。
返信する

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