映画とライフデザイン

大好きな映画の感想、おいしい食べ物、本の話、素敵な街で感じたことなどつれづれなるままに歩きます。

アニメ映画「ウルフ・ウォーカー」

2020-11-08 19:42:16 | 映画(欧州映画含むアフリカ除くフランス )
映画「ウルフ・ウォーカー」を映画館で観てきました。


アイルランドの民話を元にしたアイルランドの制作会社カートゥーン・サルーンによるアニメ映画。眠ると魂が抜け出しオオカミになるという人間とオオカミの二面性をもつ「ウルフ・ウォーカー」がこの映画の主題である。

アニメ作品にはあまり関心がないが、週刊文春「シネマチャート」で自分がもっとも敬愛する芝山幹郎氏が最高点の5点をつけている。5月の「マリッジストーリー」以来半年ぶりの5点をつけたとなるとなると見に行くしかない。芝山幹郎氏が4点をつけると映画館に足を運ぶことが多いが、5点は特別だ。おかげで狭い映画館が満席だ。躍動感があるアニメ映像が続くと食い入るように見ている人が目立つ。

でも、アニメ作品の良さってなかなか難しいね。正直この映画の良さはわからなかった。滅多に観ないが、日本のアニメ映画では、線がもっと緻密になっている印象を受ける。風景もリアルだ。ここではフリーハンドのラインが基本である。野性味を出そうとしたのであろうがそこに違和感を感じる。

こうやって↓時にはオオカミに変身してみても、餌を探しに来た熊やイノシシが銃で撃たれるくらいだからこの世の中生きる場所は限られているだろうなあ。


中世という設定だが、銃や大砲がでてくる。日本に鉄砲が伝わったのが16世紀とすぐ連想できる。調べると14世紀くらいには性能はイマイチだけど銃も大砲もあるようだ。しかも、護国卿というのが人間社会の親玉だ。



世界史では近世のイメージがあるが、15世紀にイングランドで最初の護国卿が登場する。多くはいないので、この映画の時代設定も15世紀後半から16世紀くらいと考えるべきだろう。この時期こんな風景↓だったのかな?


イングランドからオオカミ退治の為にやってきたハンターを父に持つ少女ロビン


ある日、森で偶然友だちになったのは、人間とオオカミがひとつの体に共存し、魔法の力で傷を癒すヒーラーでもある “ウルフウォーカー”のメーヴだった。
メーヴは彼女の母がオオカミの姿で森を出ていったきり、戻らず心配でたまらないことをロビンにうちあける。母親のいない寂しさをよく知るロビンは、母親探しを手伝うことを約束する。翌日、森に行くことを禁じられ、父に連れていかれた調理場で、掃除の手伝いをしていたロビンは、メーヴの母らしきオオカミが檻に囚われていることを知る。
森は日々小さくなり、オオカミたちに残された時間はわずかだ。ロビンはなんとしてもメーヴの母を救い出し、オオカミ退治を止めなければならない。


それはハンターである父ビルとの対立を意味していた。それでもロビンは自分の信じることをやり遂げようと決心する。そしてオオカミと人間との闘いが始まろうとしていた。(作品情報より引用)

18世紀後半にはすでにオオカミはアイルランドから姿を消しているらしい。この映画であるようなオオカミ一斉退治でもあったかもしれない。それ自体で郷愁を感じるアイルランド人もいる気もした。

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映画「朝が来る」河瀬直美&永作博美&井浦新

2020-11-08 07:30:12 | 映画(日本 2019年以降主演女性)
映画「朝が来る」を映画館で観てきました。


「朝が来る」河瀬直美監督の新作である。子どものできない夫婦が望まれない出産をした子どもを養子縁組で引き取る。6年間育てたときに産みの母親から子どもをかえしてくれと連絡をもらうその顛末という話である。最近みたNetflixシリーズ「クイーンズ・ギャンビット(記事)で孤児を養女にする話が出てきたばかりで、身内にも幼いときの養子縁組みした人もいるので関心を持った。

想像したよりも情感こもったいい映画であった。辻村深月の原作はもちろん未読。井浦新、永作博美という芸達者が演じるので安心してみてられる。

建設会社で共働きの湾岸の高層マンションに住む栗原清和(井浦新)と佐都子(永作博美)の夫婦には子どもができなかった。病院で調べると夫が無精子症だということがわかる。一度は子どもを持つことを諦めたそのときに「特別養子縁組」という制度を知る。説明会で体験談を聞き、「ベビーバトン」の代表浅見(浅田美代子)に依頼する。そして、生まれたばかりの男の子を迎え入れることになる。


奈良に住む中学生の片倉ひかり(蒔田彩珠)はバスケットボール部の麻生巧の告白をうけて交際するようになる。やがて、中学生同士のお付き合いは急進展して二人は身体でも結ばれるようになる。その後、体調不良だったひかりが病院で診てもらうと妊娠していることがわかる。中絶するにも懐妊から時間がたっているのでできない。「特別養子縁組」で産んだ子どもを引き取ってもらうように親から言われる。学校には病気で長期療養ということで休み、広島の離島にある「ベビーバトン」の寮で同じような境遇の女性と一緒に暮らすようになる。そして、出産をして栗原家に子どもを授けることになる。


それから6年、夫婦は朝斗と名付けた息子と幸せな生活をしていた。ところが突然、産みの母親である片倉ひかりを名乗る女性から、「子どもをかえしてほしい。それが駄目ならお金をください」という電話がかかってくる。当時14歳だったひかりとは子どもの引渡をうけるときに一度だけ会ったが、訪ねて来た若い女には、あの日のひかりの面影がなかった。彼女は何者なのかという疑問が浮かんでくるのであったが。。。

1.養子縁組システム
データはないが、日本の養子縁組は一時代前の方が多かったのではないか?生まれるところでは10人近く産むお母さんがいる一方で、医療技術は今よりも稚拙で病弱な子どもしか生まれない親には養子が必要だったのであろう。最近は40歳くらいまで懸命に不妊治療で頑張ってダメな子なしの夫婦はよく見かけるし、養子縁組は少なくなったと思っていた。

ここでは子どもに恵まれない夫婦に、望まれない妊娠をした女性の子どもを授けるというシステムが語られる。浅田美代子演じる浅見代表は広島の瀬戸内海に浮かぶ離島の寮のようなところで、出産を待つ妊婦たちを預かる。そして、マッチング可能な栗原夫婦を子どもができるタイミングで広島に呼び寄せる。このシステムだと、生まれたときから籍は養父母の下に入るのだ。これははじめて知った。「共働きの夫婦の奥さんは会社を辞めて子育てに専念する。小学校に入るまでに本当の子どもでないことを告げる。」そういったルールがあるという。


素朴に感じたのは、報酬である。子どもをもらった方が支払うのはもちろんであるが、このマッチングサービスにどの程度の報酬を支払い、出産した母親に支払うのか?マッチングサービスで寮を持ってそこで生活するわけだからお金はかかる。その費用はどうなるのか?映画では何も言及されていないが、ビジネスモデルは気になるところである。

2.河瀬直美監督と出演者
カンヌ映画祭の常連である河瀬直美監督の作品はいくつか観ている。率直に言ってそんなにいいとは思わない。ブログに「2つ目の窓」しかアップしていないし、他はイマイチだったので没である。今回も期待していなかったが、さすがに題材に恵まれたのであろう。時間軸を前後に変化させる構成もよく、ロケハンにも成功して映像もきれいだった。

広島の離島での映像がとくによかった。毎回そうであるが、風の使い方がうまい映像を撮る監督である。今年度の代表作と評されるであろういい映画だと思う。

永作博美八日目の蝉(記事)で不倫相手の子を堕ろした後に衝動的に幼子を誘拐して4年育てたときの好演がよかった。今回も高く評価されると思う。若松監督作品の常連だった井浦新も無難にこなす。


意外だったのが浅田美代子だ。われわれは中学時代から彼女のことを知っている。かわいかった。「時間ですよ」の時から真の意味でアイドルだった。当時の週刊誌で浅田美代子がまたNHKのオーディションにまた落ちたとの記事があったのを思い出す。下手の代名詞のようだった。この映画一種のドキュメンタリー的な要素を持つが、彼女がまるでこの施設を経営しているかのようにセリフを語っている。へえ、こんなレベルが高いのかと驚いた。

ここから先はネタバレあり、映画を観ていない方は後にしてください。

3.ムカつく場面
子どもを産んだあとにひかりは故郷の奈良に戻る。やがてひかりは高校に入った後で地元で就職する。そんなときに親戚の寄り合いがある。みんなで酔っ払っているときに親戚のおじさんが「あの時はたいへんだったね」という。ひらりはムカつきおじさんを叩く。何でそんなことしゃべったのと、両親に向かっていう。その後で、母親が「親戚にいうのは仕方ないでしょう」とひかりをピンタするのだ。


これには観ているこっちの方がムカついた。こういうのは完全家庭内だけのシークレットでしょう。べらべらしゃべるようなことではない。しかも、母親はそのおじさんを責めるべきで彼女には罪はない。母親もおじさんも最低だ!その後彼女はもっと転落する。この物語の構図は原作の元ネタかもしれないがこちらをムカつかせる場面をつくるのは制作側のうまさだ。

4.迷彩の周到さ
原作をどうアレンジしたのかはなんともいえないが、「朝が来る」にはミステリー的な要素がある。子どもを帰してくれと訪ねてきた女は、息子朝斗の出産時にあった14歳の女の子とは似ても似つかない。夫は「あの時会ったけど、どう見ても違う。あなたは誰で何をしに来たのですか!」という。そして、警察が栗原家を訪ねてくる。神奈川県警のものですが、この女性に見覚えはあるかと。映画はそこから始まる。


予備知識のない自分は、だれかとグルになっているのかと思う。広島の離島で子どもを産むときに知り合った風俗嬢だった女、この女は神奈川で働いていた。横浜の新聞店では働いていたときに一緒に働く女、これは錯覚だったのか、最初は広島の離島で会った女と同一人物だと思っていた。しかも、この女がきている黄色いジャンバーは栗原家に来て面談するときと同じジャンバーだ。しかも、この女悪い奴で姿をくらまし、借金の保証人をひかりにさせるのだ。ひかりはいかがわしい借金取りに追われる。

最初の井浦新のセリフであの清楚だったこの子がこんな脅迫なんてするはずがないという。それが頭にあり、こちらも違う期待を持った。2人の別犯人を連想させるこれは巧みな迷彩である。

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