映画「ニーキャップ」を映画館で観てきました。
映画「KNEECAP/ニーキャップ」は実在するアイルランドのラップトリオが自らを演じた半自伝的映画である。でもドキュメンタリーではない。もちろんこのバンドの名前を聞くのは初めてだ。監督は元ジャーナリストのリッチ・ペピアットである。北アイルランド・ベルファストでは紛争が題材で映画化もされた。アイルランドは何かと英国とはもめ事が多い。宇宙人のような髪型をした若者2人とおじさん教師が歌う反英国的な歌詞のラップが基調である。思いのほか満席、今いい映画やっていないもんなあ。みんな消去法だろう。
北アイルランドのベルファストで生まれ育った若者ニーシャ(モウグリ・バップ/本人)とリーアム(モ・カラ/本人)は幼馴染み。ある日、ドラッグパーティーの会場から逃げ遅れ警察に捕まったリーアムは取り調べで英語を話すことを拒否する。怖い女刑事は通訳者として派遣されたアイルランド語教師のJJ(DJプロヴィ/本人)とともに話を聞く。
リーアムの手帳にある歌詞を見たJJはアイルランド語でラップをやることを2人に提案。ヒップホップ・トリオ「ニーキャップ」が誕生する。バンドは注目を集めるが、 過激な歌詞や政治色の強さが問題視されてしまう。しかも、教師のJJも活動が学校にバレるのだ。
リズミカルなラップのノリで映画を疾走させる。
北アイルランドは政治的にトラブルが多いエリアである。近年までアイルランド語が公用語でないと知り驚く。アイルランド語でラップを歌う3人組が政治や社会の圧力の狭間でバンド活動をする。映画を観ていてコミカルなタッチは好みであってもストーリーの流れはよくわからない。直線的ではなく、日常の断片が連なっていく構成の中にドラッグとSEXが混じっていく。18禁となるのはファックシーンの多さだろう。
筋を追う映画ではない。ストーリーの明確さよりも、キャラクターの個性と音楽のパワーで魅せる構成だ。登場人物(3人のメンバー、女性刑事、家族、恋人、マフィア集団)がいずれも個性的でストーリーが多少散漫でも飽きずに最後まで映像を追える。
⒈ユニークな登場人物
ともかく好き勝手に生きている若者2人の破天荒さに笑う。破茶滅茶としか言いようにない。家族とのふれあいに加えて失踪した父親の存在をうまくストーリーに織り込む。どうも創作のようだ。スポーツのようにファックしまくる彼女との漫才のようなかけ合いも楽しい。ステージ上での尻出しパフォーマンスや薬物使用描写により教師JJは学校をクビになる。妻との関係もユニークだ。この教師あがりのラッパーはてっきりプロの役者かと思ったらバンドの一員なのね。演技ナチュラルでうまい!
怖い女性刑事とドラッグ絡みのマフィアが3人の動きを執拗に追う。映画「ブルースブラザーズ」で警察やネオナチなど色んな連中が追いかけるのを連想する。女性刑事はドラッグ捜査だけでなく、政治的活動も締め付ける。物語の緊張感を高めるため権力側の象徴として彼女の使い方が絶妙である。
⒉ラップのノリ
字幕ではカッコ書きになるアイルランド語とヒップホップのリズムが融合して耳触りがいい。挑発的で時に過激な歌詞は政治的なメッセージも強いけど軽やかだ。政治の話であっても説教くさくない。ライブでは観客を完全に巻き込む。ノリの良さで純粋なエンタメとしても楽しませてくれる。
この作品は筋書きの明快さではなく、登場人物と音楽の魅力で観客を引っ張る映画だ。正直言って映画のストーリーがようやくつかめるのは後半戦になってからだった。それでも楽しい。