佐々部監督自身が、「実は、もっとも大変なのはその相手役である吉岡君(吉岡秀隆)だったのかもしれない。なにしろ、まったく別の人間、しかもまったく年齢の違う女性を相手に、同じ人と会話しているようなリアクションをしなければならない」と吉岡秀隆の苦労を察している。
クリエイターズ・ステーション
http://www.creators-station.jp/interview1/index.html
敬輔を演じる吉岡秀隆は、真理子の劇的な変化に対して、その瞬間の驚きや戸惑い、感情の揺れを、極力少ない動きとセリフで、繊細に細やかに演じている。面白いことに、敬輔が、真理子の変化に戸惑いを覚えている当初は、尾高杏奈が演じる真理子の演技も、不安定な感じがするのだ。
理不尽な死を迎えなければならない真理子の悔しさが、激情としてほとばしり、手当たりしだいにモノを投げつけ敬輔にあたるところから、真理子のICUの装置を引き抜こうとするシーンへつながるところは、緊迫感とボルテージが一気に上がる。敬輔は、千織ではなく、「真理子」と叫んで、千織を止め、抱きしめる。
この一件を境に、敬輔は、真理子が移った千織を、真理子として受け入れ接することに、ためらいが抜けたようである。
この敬輔の吉岡秀隆の演技で、以降の尾高杏奈の真理子の演技も安定して見える。そして観客の私たちにも、この物語が、その信憑性を超えて、胸に迫ってくる。
なぜなら、千織をかばったせいで、自分のピアニスト生命を奪われた呪詛を、敬輔が、吐露するシーンが次にあるからである。敬輔は、憎しみながら、千織のために、できるだけのことをしたいと思う心情も、決してうそではないと語る。
ここは、吉岡秀隆が、全編を通じて、最も、アグレッシブに感情の高まりを見せるところなのだが、敬輔の心に隠していた屈折した心情を、ありのままに見せることに成功し、それを、真理子に言えたことは、敬輔の心の闇に、かすかな光の窓を開けるきっかけにもなったことをも伝えている。
涙をいっぱいためて、敬輔の言葉を聞く尾高杏奈は、本当に石田ゆり子の真理子のように見えた。
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