「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

ゆくもならず ひくもならず Long Good-bye 2024・05・24

2024-05-24 05:49:00 | Weblog

 

  今日の「 お気に入り 」は 、今 読み進めている

 本の中から 、備忘のため 、抜き書きした 文章 。

  物語の主人公 原田甲斐宗輔 が 、騒動の原因が 、

 単に伊達兵部少輔宗勝 個人の 仙台藩 簒奪 ( さん

 だつ ) の権勢欲に発したものではなく 、真の敵

  、黒幕は 、府老中 酒井楽頭 なのだと気付

 いた頃から 、話しは 一段と 重苦しい雰囲気に

 なり 、読者は 、物語の悲劇的な結末を予想せ

 ざるをえなくなる 。

  独眼竜政宗の末子で 、第十子である 伊達兵部

 少輔宗勝が 、政権簒奪を企図して策動するので

 あれば 、よくある 本家 vs. 分家 の お家騒動の

 図式で 、わかりやすいのだが  、話しは そう 単

 純ではないらしい 。関が原からまだ百年も経っ

 ていない時代の物語 。

  引用はじめ 。

  「   ―― 松平信綱 。甲斐は筆を止めて 、
  眼をあげた 。『 伊豆守信綱 』と彼は
  呟いた 。
   非常な衝動を受けたもののように 、
  甲斐の顔はするどくひき緊り 、双眸は
  前方の一点をみつめて動かなかった 。
  『 ―― 信綱の遺志だな 、発頭人は信
  綱だ 、雅楽頭ではない 』甲斐はそう
  呟いた 。
   彼は筆を置き 、両手を机に突いて 、
  じっと眼をつむった 、そうだ 、と彼
  は思った 。問題は自分たちの考えてい
  たようなものではないかもしれない 。
  涌谷も松山も 、雅楽頭と一ノ関との姻
  戚関係をにらんでいた 。すなわち 、
  兵部の子の東市正(いちのかみ)の許婚
  者が 、雅楽頭の夫人の妹であること 。
  そして 、一ノ関の所領がまだ一万石で
  あったころ 、雅楽頭が『 僅か一万石の
  小大名と縁者になってもつまらない 』
  と云ったこと 、そこから六十二万石を
  分割して 、三十万石を一ノ関に与え 、
  片倉小十郎はじめ誰には何万石をやろ
  う 、という相談ができたものと認めて
  いた 。だがそうではない 、と甲斐は
  心のなかで自分に云った 。雅楽頭とも
  ある人物が 、そんな卑小な理由で 、
  伊達家ほどの大藩に手をつけるわけは
  ない 。理由はほかにある 。もっと根
  づよく 、大きい 、政治的な理由が 。
  そうだ 、と甲斐は頷いた 。
  『 ―― 信綱の遺志だ 、雅楽頭はそ
  の遺志を継いでいるにすぎないし 、
  おそらく老中の人びとも承知している
  ことだろう 』
   甲斐は眼をみひらいた 。机に突いて
  いた手を膝に戻し 、坐り直して 、自
  分の思案を吟味するかのように 、彼
  はかなりながいこと 、息をひそめて
  いた 。   」

 ( ´_ゝ`)

 「 ―― いかなる真実も 、人の口に伝われば必ず
  歪められてしまう 。
   甲斐はつねにそれを戒めて来た 。大藩取潰し
  の策は 、亡き松平信綱から酒井忠清が受け継い
  だものと甲斐はみている 。だが策謀が忠清ひと
  りの胸にあるのか 、または閣老ぜんたいが承認
  しているものか 、という点はまったく推察がつ
  かない 。したがってこの事情がもれた場合 内外
  にどんな騒ぎが起こるかもわからないし 、その
  騒ぎがどういうかたちであらわれるにせよ 、そ
  の結果が幕府を利することは明らかであった 。」

  引用おわり 。

 ( ´_ゝ`)

 ( ついでながらの

   筆者註:「 松平 信綱( まつだいら のぶつな )は 、
       江戸時代前期の大名で武蔵国忍藩主 、同
       川越藩藩主 。老中 。官職名入りの 松平
       伊豆守信綱 の呼称で知られる 。」

       以上ウィキ情報 。

       時代小説の読み過ぎか 、時代劇の見過ぎか 、

       筆者には 、松平伊豆守信綱 よりは「 知恵伊豆 」

      の俗称のほうが馴染みがある 。

       老中職を務める徳川幕府の譜代の大名が 、忍 と

      か 、川越 とか 、関宿 とか 、関東地方の 街道筋

      の要所要所を 所領に持つ、どちらかというと小

      大名だったというのが 面白い 。)

 

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