今日の「 お気に入り 」は 、内田百閒さん
( 1889 - 1971 )の随筆「 御馳走帖 」( 中公
文庫 )の中から「 蒲鉾 」と題した小文 の一節 。
引用はじめ 。
「 私の郷里の岡山に昔から名代の蒲鉾屋があつて 、
今はなくなつたさうだが 、当時は近国にまでそ
の名が知れ渡つてゐた 。
子供の時に聞いた話に 、その蒲鉾屋の横山の
御主人がみんなと一緒に船に乗つて 、金比羅
詣りをした 。船は岡山の町を貫流してゐる旭
川を下つて 、川口の児島湾から外海(そとうみ)
に出る 。外海と云ふのは瀬戸内海の事であつて 、
対岸の四国の讃岐へ渡るのであるが 、小さな船
の事だから手間が掛かつた事であらう 。
船が沖に出た頃 、不意に鱶(ふか)が船をつけ
て来たので 、船中が大騒ぎになつた 。鱶は群
をなして来るし又一匹でも人の乗つた船をくつ
がへす事が出来る 。鱶につけられた以上は 、
船の中のだれかが一人犠牲になつて海に入り 、
鱶の餌食にならなければ 、結局は船をひつくり
返されて 、みんなが残らず食はれてしまふと云
ふ事になる 。それでさう云ふ災厄に遭つた時は 、
船に乗つてゐる者が 、船べりから銘銘自分の手
拭を水中に垂らし 、鱶がその手拭を引つ張つた
者は 、自分から海に投じて他の者の危難を救は
なければならぬと云ふ事に昔からきまつてゐる
のださうであつて 、その時もみんなが手拭を垂
らしたところが 、鱶は蒲鉾屋の横山の主人の手
拭を引つ張つた 。
それで当人は海に入つて鱶に食はれなければな
らぬ事になつたが 、その時 、横山の主人が 、
『 わしは岡山の横山だが 』と一言云ふと 、途
端に船のまはりを取り巻いてゐた鱶が一散に逃
げてしまつたと云ふのである 。
備前岡山の横山はその通り有名であつて 、外
海の鱶でも名前を知つてゐると云ふ事になるの
であらうと思ふけれど 、それには横山の蒲鉾に
は鱶をすりつぶして入れてあると云ふ事から 、
鱶が横山の名前を聞いただけで 、恐れて逃げ出
したと云ふのであらう 。子供の時に聞いたその
話をこの頃になつて思ひ出して見ると 、岡山の
人人の癖で 、その話も横山の悪口ではないのか
と云ふ気がし出した 。横山横山と云ひはやすけ
れど 、横山の蒲鉾にだつて鱶がつかつてある 、
それだから鱶が逃げたのだと云ふ蔭口ではない
かとも思はれる 。いい蒲鉾には鱶をつかはない
かどうかさう云ふ点を私は丸で知らないので 、
これから先は考へる事が出来ない 、また鱶と鮫
とはどう違ふのかよく知らないが 、どちらも人
を食ひ 、また蒲鉾の種につかはれるらしいので 、
鮫の切り身の事からそんな事を気にしてゐたので
ある 。」
引用おわり 。
こういう小話 だいすき 。
かまぼこは 、おととなの ?
( ´_ゝ`)
( ついでながらの
筆者註:「 サメ( 鮫 )は 、軟骨魚綱板鰓亜綱に属する
魚類のうち 、鰓裂が体の側面に開くものの総称 。
鰓裂が下面に開くエイとは区別される 。2020年
11月時点で 世界中に 9目36科106属553種が存在
し 、日本近海には 9目34科64属130種 が認めら
れている 。 」
「 一般的にはサメは『 鮫 』という漢字が使用され
ますが『 鱶 』という漢字が使われることもあり
ます 。
おもに関東以北では サメ と呼ばれていますが 、
関西では フカ 、山陰地方では ワニ ( 和邇 ) と呼
ばれることが多いのだそう 。 」
以上ウィキ情報ほか 。
「 因幡の白兎 」の話には 、ワニ が登場しますが 、
幼い頃 読み聞かされたとき 、日本の昔話に 、なぜ
西洋の「 フック船長 の ワニ 」が出てくるのか 、
理解に苦しみました 。確か 白兎が 、慈悲深い大国主命
に命を救われるお話で 、元々は、白兎が嘘をついて
ワニたちを渡海に利用したのが 、白兎受難の原因
で 、嘘ついたり 騙しちゃいけないよ 、という教訓
話だったような記憶があります 。)
( 紫陽花(アジサイ)の花言葉は、「移り気」「浮気」「無常」など。
鍾馗空木(ショウキウツギ)の花言葉は 、「謙虚」「古風」「風情」「秘密」など 。)