「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

ヒマラヤ山系 Long Good-bye 2024・06・08

2024-06-08 04:14:00 | Weblog

 

  今日の「 お気に入り 」は 、今読んでいる本の中

 からの 抜き書き 。久しぶりに読む 内田百閒さん

 ( 1889 - 1971 )の随筆「 御馳走帖 」( 中公

 文庫 )の中から「 車窓の稲光り 」とした小文

 の一節 。鉄道旅をこよなく愛した 内田百閒さん の

 「 百鬼園随筆 」や「 阿房列車 」を 、五十年以上

 も前の若い頃 、読みふけったものです 。 

  百閒さんの旅のお供をする「 ヒマラヤ山系君 」

 ( 国鉄職員の平山三郎さん ) のお名前も懐かしい

 達意の文章 。

  引用はじめ 。

 「  お午頃に博多を出た東京行の特別急行列車が 、
  快い轟音を立ててごうごうと走つて行く内に 、
  狭いコムパートの中で時が過ぎ 、もう外は薄暗
  くなつて来た 。
   同室のヒマラヤ山系君をうながして二三輌先の
  食堂車へ来た 。丁度今その時刻である 。席が
  あるかどうかあやぶんだが 、幸ひ向かひ合ひの
  二人卓が空いてゐた 。そこに落ちつき 、もうか
  うなれば天下泰平国土安楽である 。ついお酒が
  廻つて 、旅行は楽しいものであると 、しみじみ
  思ふ 。
   しかし 、その中に在つて一つひどく気になる事
  がある 。通路を隔てた向う側の食卓の窓に 、時
  時鋭い稲光りが射す 。大体汽車に乗つてゐれば
  雷様はそれ程こはくないものだが 、あんまり窓
  近くでピカピカやられては矢張り不安である 。 」

 「 私共のテーブルと 、稲光りが頻りに走る暗い
  窓の間の四人掛けの食卓に 、一団のお客が著座
  してゐる 。いつその席へ来たのか 、こちらが気
  がつく前からゐたのか 、よくわからないが 、三
  人は今の新制中学の卒業生らしい年頃で 、もう
  一人は彼等の先生であると見受けた 。
   彼等はその頃の列車の等級別から云えば三等車
  から 、この食堂車へ出て来たらしい 。何か茶菓
  を前にして 、四人はむつまじく 、楽しげに団欒
  (だんらん)してゐる 。稲妻の光る食堂車の中で
  生徒達と先生 。何と云ふうれしい光景であらう 。
  こちらが少少廻つてゐて 、敏感になつてゐると
  ころへ 、痛いものにさはられた様な感激を覚え 、
  何度も思ひ返し 、躊躇した挙げ句に 、ボイを呼
  んでそのテーブルへちゃんとしたケーキとレモン
  紅茶を運ぶ様命じた 。
   又山系君にそっちへ行って 、お茶を召し上がつ
  て戴きたいと思つてボイに命じました 。よろし
  かつたら 、どうぞと云つて先方に失礼がない様
  に挨拶してくれと頼んだ 。
   矢つ張り酔つ払ひの大袈裟な仕業だつたに違ひ
  ない 。しかし幸ひ向うでも快く受けてくれた様
  であつた 。山系君が座に帰つてから伝へるとこ
  ろによれば 、連中はこの春鹿児島の中学を出た
  卒業生とその受持の先生で 、彼等は東京で就職
  する為上京する 。それに附き添つて一緒に東上
  する先生の一行であつた 。長旅の車中のつれづ
  れに 、宵のお茶受けを楽しまうと食堂車に出て
  来たところであつた 。
   よい先生 、いい生徒達 、彼等はこちらの差し
  出した茶菓を綺麗に平らげて 、その内に席を起
  ち 、私共の方に一礼して食堂車を出て行つた 。 」

 「 コムパートに帰り 、一晩寝て朝になつた 。
  もう東京に近い 。目がさめると 、先に起きて
  ゐた山系君が 、昨夜の連中からこれを差し上
  げてくれと頼まれたと云つて 、ボイが届けて
  来たと云ふ菓子折の様な包を出した 。
   何だらうと思つて山系君と開けて見たら 、鹿
  児島の軽羹(かるかん)饅頭であった 。思ひも掛
  けぬ事で 、先方の心遣ひを済まないと思ふ 。
  かるかんは鹿児島の名物で難有いけれど 、案ず
  るに彼等は今度の就職に就いて世話になつた人 、
  又知り合ひの先輩の所なぞへ贈る心づもりで 、
  遥遥南九州の果てから持つて来た物を 、私の方
  へ割愛してくれたに違ひない 。
   その後到来物や手土産品でかるかんを口にする
  度に 、稲光りの走った窓辺(まどべ)の中学生を
  思ひ出す 。 」  

  引用おわり 。

  かるかん 、だいすき 。

  ( ´_ゝ`)

 ( ついでながらの

   筆者註:「 內田 百閒( うちだ ひゃっけん 、1889年〈明治
       22年〉5月29日 - 1971年〈昭和46年〉4月20日 )
       は 、日本の小説家 、随筆家 。本名榮造󠄁 。別号
       は百鬼園( ひゃっきえん )。号の「 百閒 」は 、
       故郷 岡山にある旭川の緊急放水路の 百間川 から
       取ったもので 、当初は「 百間 」と表記していた
       が 、後に「 百閒 」に改めた 。

        夏目漱石の門下生の一人で 、夢の光景のように
       不可解な恐怖を幻想的に描いた小説や 、独自の
       論理で諧謔に富んだ随筆を多数執筆し 、名文家
       として知られる 。代表作は『 冥途 』『 旅順
       入城式 』『 百鬼園随筆 』、紀行『 阿房列車 』
       など 。

        以上ウィキ情報 。

        文庫本 ( 電子書籍 )の解説は 、ヒマラヤ山系君

       こと 平山三郎さんが書いていらっしゃる 。)

 

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