「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

2013・09・12

2013-09-12 08:10:00 | Weblog
今日の「お気に入り」は、久世光彦さん(1935-2006)のエッセー「生れてはじめて住んだ家」より。

「何にでも、《はじめて》がある。《はじめて》があって、そこから続きがはじまり、やがていつか終わる。記憶がなくたって、《はじめて》はあったはずである。たとえば、私は生れて数分後に、母親との初対面をしたに違いない。私の場合、自分の家で産婆さんに取り上げられたから、それは数秒後だったかもしれない。温かいお湯を張った盥(たらい)から抱き上げられ、タオルか産着(うぶぎ)にくるまれて、四月の朝の光の中で、私は母と《はじめて》会ったわけである。それから六十年、母と子の歴史があって、どっちが先にいくかは知らないが、やがて二人は別れていくことになる。」

(久世光彦著「むかし卓袱台があったころ」ちくま文庫 所収)


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