地味ログ東洋硬化.うろつき雑記

寒い時も暑い時も、寒い場所も暑い場所も、処かまわず神出鬼没な東洋硬化の表面処理を、ポップに語ります。

硬い業界話

2006年03月05日 13時17分37秒 | 業界ネタ


一昨日、山口県で「日本硬質クロム工業会西日本支部」と「山口県鍍金工業組合」
主催の講演会が開催されましたので、聴講してまいりました。

ご講演くださったのは、日本硬質クロム工業会の顧問で、武蔵工業大学名誉教授の
H先生です。
開催地は、宇部市の山口県産業技術センター


(新山口駅から車で30分ほど走ります)



(何もない野っぱらを切り開いて作ったニュータウンのいっかくにありました)


さてさて、14時からの開演です。H先生のお話、今回が初めてではないのですが、
いつもとても興味深い内容です。業界動向に直結した話題を取り上げてくださいま
すので、大変ありがたいです。

参加企業は、
宇部メッキ工業所(宇部市)
光洋金属防蝕(下松市)
山陽精機(岩国市)
下関鍍金(下関市)
中国電化工業(防府市)
石川金属工業(北九州市)
チューメックス定金(岡山市)
中山工業(北九州市)
ミカローム工業(諫早市)
吉玉精鍍(延岡市)
藤田クローム工業(福山市)
東洋硬化(久留米市)
 以上主催団体加入企業、
オブザーバーとして、
旭プレシジョン(京都市)
小林工業所(京都市)
、総計14企業でした。


演目は「環境問題とクロムめっき及び土壌汚染対策」です。

内容は、以下に箇条書きにしてみます。


1.環境規制と表面処理

  最近の欧州におけるRoRSやELV指令による6価クロムフリーの動き、
  行政やマスコミの不勉強・不定見からの間違った報道と、それを是正するべく
  日本硬質クロム工業会が行なったカウンターコメントの発表と、マスコミ各社
  への訂正記事掲載事例などについて、お話されました。

これについては、「日本硬質クロム工業会誌」で掲載され、当社ホームページにも
転載した文面を、このブログの最後に付録しておきますので、是非お読みください。


2.クロムめっきの環境対策

  6価クロムを用いた従来からのクロムめっきに替り、毒性の少ない3価クロム
  を用いたクロムめっきは、被膜厚が極く薄い装飾クロムめっき分野のみで実用
  化されています。

  数十μm以上の厚膜施工がなされることの多い工業用硬質クロムめっき分野でも、
  ここ数年、3価クロムめっき施工を可能とすべく、先進各国で硬質3価クロム
  めっき浴が開発され始めています。スペインチーム・フランスチームと並び、
  日本でも武蔵工業大学・硬化クローム工業・中央製作所の連合チームが、厚膜
  3価クロムめっき浴の開発に成功しつつあることを、具体的浴組成や、施工事例
  を図解してくださいました。

これって、業界内部的には激しく画期的なことです。現在、6価クロムを使用した
普通浴(サージェント浴といいます)が主流である硬質クロムめっき業界ですが、
近い将来、6価クロムフリーについての規制が厳しい国々(欧州ばかりでしょう
けど)向けの硬質クロムめっき品については、3価クロム浴を使用せねばならないこ
とになるのかもしれません。

中長期的には、6価クロム使用でのサージェント浴でないと施工不可能な加工物を
除き、3価クロム浴が主流となっていく可能性も否定できない、とのことでした。


3.工業用クロムめっきの代替技術

 ①合金めっき法
 ②複合(分散)めっき法
 ③高速ガスフレーム溶射(HVOF)法
 ④気相めっき法 → 当社のイオンプレーティングもこの中の一種です。

等々、様々な硬質被膜形成法のご提示をいただきましたが、H先生がお話になった
文言中、我々硬質クロムめっき業者が勇気づけられ、また、課題として取り組まね
ばならない要点を以下にまとめました。

 1.硬質クロムめっきに取って代われる様な、万能代替技術は無い
 2.硬質3価クロムめっき法は数年中に一部で実用化される
 3.航空宇宙産業界ではHVOF被膜に転換される
 4.合金めっき・複合めっき・気相めっきが、硬質クロムめっき代替技術の一部と
  して、普及していく
 5.密閉・遮蔽・クローズド化しつつ、硬質クロムめっき工場は6価クロム浴を
  用いながら存続していくことができるので、いたずらに将来を恐れ案ずる必要は
  無い
 6.硬質クロムめっきの施工コスト上昇傾向は前掲要件で明らかなのだから、処理
  価格を上昇させることを旨として、市場に訴えるべきである。現に、日本の硬質
  クロムめっき施工価格水準は、フランス・ドイツ等先進国の平均的施工価格水準
  より遥かに安価であり、是正の必要性があることは、世界的趨勢から見ても自明
  の理である


4.土壌汚染対策

 4-1 土壌汚染浄化技術の概要
 4-2 企業各社の土壌・地下水汚染浄化技術の例

これらについても具体的事例を細かく例示・図示していただきました。
幸い、西日本支部傘下企業には、これら対策を行なわねばならない業者はありませ
んが、詳しく知っておくべき内容です。

環境庁が平成15年に策定した土壌汚染対策法は、表面処理業をも含んだ各種事業
所が、数十年も前から事業を営むことで、結果として汚染されてしまった土壌汚染
事例を、過去に遡及してその責任と対策を求める、いわば事後法です。
その時々の、行政府の指導に沿いつつ、昔も今も、我々中小製造業者は事業活動を
行なっています。今になって事後法にて対応しようとする行政府のやり方には、
釈然としない思いが募りこそすれ、弱くはなってまいりません。



(すごく勉強になります。H先生、ありがとうございました。
                      これからも宜しくお願いします)


ご講演終了の後、「山口県産業技術センター」内の見学をし、さらに防府市へ移動
しました。

防府駅前の、「ゆうき」でお待ちかねの河豚をいただき、しっかり2次会までこな
しました。

ミカローム工業さん(ANA系)と旭プレシジョンさん(JAL系)が、航空機部
品への表面処理についてお話なさっているのを横で見るのは、何だかすごい場面に
出くわしちゃったなー、と感慨深かったです。
僕は僕で、藤田クローム工業さんから大事な資料をお貸しいただきまして、大変
有意義でした。


次の硬質クロム工業会行事は、4月第3週に鹿児島県での支部総会です。


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以下文は、導入部以外、『 日本硬質クロム工業会誌 Vol.19,No.3
                     2005(平成17)年1月25日号 』から、
当社ホームページに転載したものの再転載です。



 クロムめっき業界が「クロムフリー」という言葉によって苦しめられている。
EU域内での6価クロメート品使用規制が、不勉強なマスコミにより再三に渡って曲
げて伝えられ、 間違った情報として一人歩きし始めており、産業界全般に定着して
しまいそうな勢いである。
これを憂う『日本硬質クロム工業会』ではカウンターコメントを発表し、マスコミ
や発注筋への、適切な認識の保持を呼びかけている。
弊社としても、関連分野の正確な情報を読者の皆様に保持していただきたく、日本
硬質クロム工業会誌からの記事を下に転用した。
是非ともご一読いただきたい。

  環境問題とクロムめっき「誤解に苦しむクロムめっき」

  1.はじめに

 環境が企業活動のキーワードになるにつれて、思わぬ誤解に基づく被害が出るこ
とがある。
クロムめっきはその誤解に悩まされている一例であろう。
 この原因は6価クロム問題にある。6価クロムは人体に有害な環境規制物質なの
で、このものを含むクロメート処理の使用中止を欧州連合(EU)で10年程前に決め、
今年から多くの自動車会社で順次実行に移される予定になっている。
 これは自動車の廃車・解体時に部品に付いている微量の6価クロムが環境を汚染
する恐れがあるために取られた処置である。
このクロメート処理は亜鉛めっきの後処理やアルミニウムの防錆処理として広く用
いられているため、波紋は他の業界にも広がり、 電気・電子業界でも近い将来の使
用中止を決めている。
 このようなニュースがマスコミに頻繁に登場してから、クロムめっきや金属クロ
ムも毒性有し、環境規制物質であると勘違いする人も出ており、 いずれはクロム
めっきも使用中止に至るものと誤解する人達が増加している。
このため、グリーン調達の名のもとにクロムめっきの代替技術への移行を真剣に検
討する企業も現れるようになった。


  2.クロムめっき皮膜と6価クロメート皮膜の違い

 クロムめっき作業には一部の装飾用3価クロム浴を除き、ほとんど6価クロムめ
っき浴を用いている。
クロムめっきは6価クロムめっき液中に加工品を陰極にして吊るし、直流の電気を
通し、 電気分解により6価クロムを0(ゼロ)価クロム即ち金属クロムとして加工
品に皮膜析出させる。
 一方、6価クロメート処理は主として亜鉛めっきされた加工品を6価クロム溶液
中に浸漬し、6価クロムを微量含有する化成皮膜を生成させることを云う。
この処理により亜鉛めっきの耐食性が飛躍的に向上するが、表面には6価クロムが
僅かながら残留するので、環境問題として提起されたのである。
クロムめっきは生産工場で6価クロムを使用しているが、前述の如く、電気分解を
施すことで製品の表面にクロム金属を付着させるものであり、 クロメート皮膜の
ように製品に微量の6価クロムが付着して工場から出ていくものではない。
 この辺の理解が得られていない所に誤解の原因がある。有害物質を工場で使用す
る例は、化学工場では当たり前のことであり、 製品を作る為の原料や製造工程な
どで有害物質を取り扱っていることは社会的に広く認知されている。
当然のことながら、これらの工場では種々の規制を受け、安全管理がなされている。
それでも環境の名のもとに、社会が必要とする物の製造を中止するのは、社会にと
って益することは少ないであろう。
要は、工場における有害物質の安全管理や事故防止の徹底であろう。


  3.誤解されるクロムフリーとクロムめっき

 6価クロムを含まないクロメート皮膜を6価クロムフリークロメートと称してい
たが、何時の間にか短縮され、クロムフリーと呼ばれるようになった。
ここから誤解が始まったのである。クロムフリーが、クロムを全く用いない意味と
誤解され、クロムめっきも環境対策のターゲットにされたのである。
確かにクロムめっきには6価クロムを含むめっき液を使うが、クロムめっき皮膜は
金属クロムであり、6価クロムではないことに注意していただきたい。


  4.金属クロム(クロムめっき)の安定性

 金属クロムは表面に極く薄い緻密な不動態皮膜を形成する性質があるため、大気
中で安定であり、錆びずに、何時までも金属光沢を維持する貴重な金属である。
この性質を利用して、金属クロムを鉄に13%以上添加すると、この、クロムの錆び
ない性質が相乗的に加わり、錆びない鉄、すなわちステンレス鋼が出来る。
このステンレス鋼は耐食性に優れ、錆に強いので、種々の台所用品や建築物、レス
トランの厨房設備、食品工場、化学工場、原子力発電所などで大量に使われている。
ステンレス鋼やクロムめっきが腐食して6価クロムが生成するのではないかと心配
する人がいるが、腐食すると3価クロムとなる。
3価クロムは環境規制物質には含まれておらず、毒性は無い。


  5.グリーン調達とクロムめっき

 環境負荷を低減させる物作りの観点から、クロムめっきの排除を試みる発注企業
も出ているようであるが、これは思い過ごしではなかろうか。
 クロムめっき皮膜は金属であり、6価クロムを一切含有していない。製造工場で
めっき浴として6価クロムを使っているに過ぎないのである。
原子力発電所で有害物質を使うから、そこで作られた電気の使用を中止するような
事ではなかろうか。
勿論、有害な6価クロムを使用しないクロムめっき浴の使用が望まれるが、この浴
は現在開発が進められているところなので、暫くの猶予が欲しいクロムめっき業界
である。


  6.3価クロム浴による硬質クロムめっきの開発計画( Eco Chrom )

 欧州連合(EU)では一昨年より、日本が提案したグローバルな研究開発組織(IM
S)の開発プロジェクトとして、3価クロムめっき浴による硬質クロムめっきの研
究を実施している。
この新しいクロムめっきの開発プロジェクトでは、10数億円の予算と3年半の期間
を予定している。
この計画は一昨年9月にキックオフして、今年で2年を経過しており、その成果を
期待したい。


 7.クロムめっき業界の対応

 クロムめっき業界も有害な6価クロム問題には積極的に対応しているが、現在の
ところ、3価クロムめっき浴による装飾クロムめっきが一部で実用化されているの
みで、 硬質クロムめっきの代替技術は開発されていない。
このため、クロムめっき業界では代替可能な技術の開発やクローズド・リサイクル
システムの構築、作業環境の改善に力を注いでいる。


 8.クロムめっきの特徴と用途

 クロムめっきには、0.001mm以下の厚さで用いられる装飾クロムめっきと、0.005
~0.1mmの厚さで使われる硬質クロムめっきがあり、それぞれ広く産業界で用いられ
ている。
 装飾クロムは美しい金属光沢を有し、コストが安く、大気中で錆びたり変色しな
いのが特徴で、工業製品の寿命や商品価値を高めるために広く使われている。
 一方、硬質クロムめっきは、硬くて摩擦係数が低く、耐摩耗性に優れているため
に各種機械部品の摺動部や自動車のシリンダー、ピストンリング、ショックアブソ
ーバー等に使われている。
また、型離れ性や耐久性に優れているので、種々の金型に広く用いられ、圧延や製
紙、印刷、フィルム製造等の各種ロール類にも多用されている。
 このように広い産業分野で利用されるのは、硬質クロムめっきされた部品や金型、
ロールなどの寿命が大幅に伸びることと、品質が安定し、加工費が他の処理法に比
べて安価なためである。
                                【 了 】


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    円筒形状機械部品のクロムめっき再生が得意です。
● 窒化クロム・窒化チタンアルミ・酸化クロム・窒化チタンクロム・
    窒化チタン他、各種高硬質被膜をアークイオンプレーティング
    生成します。
● ローター・ファン・クランクシャフト等のバランシング(回転体釣合せ)
● ラジアルクラウン研削を始めとした円筒研削加工や、内面研削・
    平面研削も行います。
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