特捜最前線日記

特捜最前線について語ります。
ネタバレを含んでいますので、ご注意ください。

第259話 二人の街の天使!

2006年10月25日 22時22分54秒 | Weblog
脚本 佐藤五月、監督 宮越澄

捜査中に立ち寄った本屋で、紅林は母親を待つ十歳くらいの少女を見かけた。お腹をすかせた少女のために食事を買いにいく紅林。しかし、戻ったときには、少女は母親らしき女性に手を引かれ、人込みの中に消えていった。
ちょうど同じ頃、近くのホテルで身元不明の男が殺害されていた。警察では連れの女性が犯人と見て捜査を開始する。翌日、中年の女が特命課に自首してきた。昨日の殺人を報じる新聞を見せ、「これは自分がやった」と主張する女。あっけらかんとした態度に、半信半疑で取調べを始める特命課だが、「後頭部を花瓶で殴った」と、犯人でなければ知りえないことを証言したため、本格的な捜査に取り掛かる。女は売春婦で、「客の男が金を払おうとしないので、カッとなって殺した」と言う。しかし、花瓶に残った指紋は彼女のものではなく、自宅近辺の聞き込みからアリバイも証明された。女が誰かをかばっていると睨んだ神代は、彼女を釈放し、紅林らに尾行させる。
喫茶店で誰かと待ち合わせる女を張見張る紅林たちだが、相手は現れず、女に電話がかかってくる。電話を切った女のただならぬ様子を見て、何があったか問い詰める紅林たち。真犯人は女の売春婦仲間で、幼い娘と二人暮しだという。死んだ娘の姿をその子に重ね合わせていた女は、母親が逮捕されて一人取り残されるのを見るに忍びず、身代わりを申し出たのだ。「あの子、子供を連れて死ぬつもりなんだ」と助けを乞う女。駅に急行した紅林が目にしたのは、書店で出合った少女が母親とともに電車を待つ姿だった。
「お願い、見逃してあげて!」と言う女に、船村は言う。「見逃すわけにはいかない。ただ、あの子にできるだけ辛い思いをさせないことならできる。あんたしだいだ。」船村に促され、女は一人、親子に歩み寄ると、少女にホームで待っているように言い聞かせ、船村のもとに母親を連れて行く。紅林は一人残された少女に歩み寄り、優しく抱き上げるのだった。
事件は解決したかに思えたが、なお不明なのは犯行の動機だった。少女の父親が行方不意だと知った神代は、「死体の写真を少女に見せてみろ」と指示するが、紅林はその命令を拒否する。「事実を知ってどうなるんです。仮に被害者が父親だとしたら、あの子の気持ちはどうなります。あの子に事実を知らせまいとした母親の気持ちはどうなります!」そんな紅林に「くだらん感傷はよせ!」と叱咤する桜井。「くだらんとは何だ!」と珍しく激昂して言い返す紅林。そこに割って入った船村は、被害者の似顔絵を紅林に差し出す。「俺たちの仕事は、どうしたって哀しい結果しか生まない。その哀しみを和らげてあげることしかできん。」
苦渋の表情で、女とともに食事を取っていた少女に似顔絵を見せる紅林。「お父さんだ!お父さんを見つけてくれたんですか?」と顔を輝かせる少女。女は血相を変えて、紅林を物陰に引きずりこむと「鬼!あんたは鬼だ!」と罵る。紅林は返す言葉がなかった。
こうして、事件の全貌は解明された。母親は、蒸発した亭主の借金を返すために、身を売るほかなったのだが、戻ってきた亭主に売春現場を見られ、あろうことか、「売春していることを娘に知られたくなかったら金を出せ」と脅されていたのだ。事件が解決したとはいえ、誰の心にも喜びは無かった。
数日後、母親は仕事の都合で海外に行ったと言い含め、女は少女を連れて東京を去っていく。神代も含め、全員総出で引越しを手伝う特命課。紅林は、出会ったときに彼女が欲しがっていた本を買い与える。手を振りながら去っていく少女の笑顔に、誰もが幸せな将来を祈らずにはいられなかった。

地獄のような境遇の中で育まれた中年女同士の友情を描いた切ない一本です。希望を失った二人の女にとって、望むものは少女の幸せだけであり、身代わりを拒む母親を抱きしめ「あの子は私たち二人の子供だよ。あの子の未来を二人で守っていこうよ」と言い聞かせる女の言葉が、胸に響きます。
その一方で、“哀しみしか生み出さない”刑事という仕事に向き合う、紅林、桜井、船村ら、それぞれの信念がぶつかり合うシーンは、他の刑事ドラマには出せない哀愁に満ちています。ラストシーン、去っていく少女を見つめる紅林の肩を、桜井が軽く叩く。そんなさり気ないシーンに、考え方は異なっても互いを認め合っている関係が垣間見え、せめてもの救いを感じるのでした。