特捜最前線日記

特捜最前線について語ります。
ネタバレを含んでいますので、ご注意ください。

第256話 虫になった刑事!

2006年10月10日 22時45分41秒 | Weblog
脚本 長坂秀佳、監督 藤井邦夫

金貸しの老婦人が刺殺され、その孫娘の友人である浪人生が容疑者として逮捕された。浪人生は「酔っていて覚えていねぇよ!」と言いつつも、容疑を頑なに否認する。しかし、第一発見者である孫娘は、犯行の数時間前に浪人生が老婦人を「ぶっ殺してやる!」と罵っていたことを証言し、彼が犯人だと断言する。さらに、凶器のナイフを飲み屋で見せびらかせていたこと、犯行現場のマンションから慌てて出てきたことなど、多くの証言が彼を“クロ”だと示していた。反抗的な態度を取る浪人生に特捜の面々の心証も最悪で、両親すら彼の犯行と信じきっているなかで、一人、橘だけが彼のあやふやな証言のもとに、アリバイを確かめようと捜査を続ける。
周囲の反対を押し切って、橘は浪人生に当日の記憶を取り戻させようと、現場検証に連れ出す。そんな橘にも悪態をつき、隙あらば逃走を図ろうとまでする浪人生。橘は浪人生を押さえつける吉野らを制して、「信じて欲しかったら、もうこんな真似はするな」と穏やかに諭しつつ、タバコを差し出す。一口吸うと、火のついたまま吐き捨てる浪人生。橘はそこで初めて怒る。「火をつけたまま捨てる奴があるか!拾え!」だが、浪人生は反抗的な態度をくずさない。
「アベックをナイフで脅した記憶がある。そのとき、男のボタンが外れて落ちた。」という浪人生の記憶をもとに、橘はアベックの存在を確かめるべく、その場に落ちたボタンを探す。アベックが出没する近所の公園を、夜の闇の中、一人“虫のように”地面を這い回り、ボタンを探す橘。そんな姿を見かねた吉野たちが、橘を止める。「どうせ苦し紛れにウソを言っているだけです。なんだって、あんな奴の言うことを信じるんです?」「俺だって、あんな甘ったれたガキは大っ嫌いだよ。」「だったらなぜ?」「吉野、お前、自分の好きな人間の言うことなら、信用するのか?」たとえ嫌いな相手だろうと、その証言が真実かどうかを確かめるのが刑事の仕事・・・橘の刑事としての信念に、言葉を失う吉野たち。やがて橘とともに、夜の公園をボタンを探し求めて這い回る。
結局、朝まで探してもボタンは見つからない。しかし、橘はなおも諦めず、今度は浪人生が飲み歩いていたという飲み屋街を探し回る。「もしかしたら・・・」とドブに手を突っ込んで探し回る橘。吉野たちも後に続き、背広姿のまま飲み屋街じゅうのドブをさらって回る。異様な光景に通りすがりの人々が訝しげな視線を送るなか、ついにボタンが見つかった。
ボタンをもとに、アベックを探し出した橘だが、それだけでは浪人生のアリバイを証明したことにはならなかった。しかし、橘はある可能性に気づく。浪人生は、確かに犯行現場近くでナイフを持っていた。もし彼が犯人でないとすれば、凶器に使われたナイフと、彼が持っていたナイフは別物では?アベックの証言をもとに、浪人生の足取りを追った橘は、付近に舗装したばかりの道路を発見。「掘り返すんだ!」半信半疑ながらも、橘の指示通りアスファルトを掘り起こした吉野たちは、そこにナイフを発見した。
その間、別方面から捜査を進めていた桜井たちの手で、浪人生の目撃者の一人が真犯人であることが突き止められた。釈放される浪人生だが、感謝の言葉はなく、かえって橘に毒づく。車で立ち去る橘たちは、吐き捨てたタバコの火を消し、吸殻を拾う浪人生をバックミラーごしに見ながら、わずかに笑みを浮かべるのだった。

非常に込み入ったストーリーのため、思い切って切り詰めた粗筋だけでこの長さになってしまいましたが、これも本作のメインライターである天才脚本家・長坂秀佳ならではと言えるでしょう。ストーリーの複雑さだけでなく、夜の公園を這い回るシーン、さらに背広姿でのドブさらいシーンと、“何もそこまで・・・”というシーンが印象的な、いかにも特捜、いかにも長坂といった一本です。
特にラストシーン。浪人生に心を開かせて、安易なお涙頂戴なラストにはしない。しかし、それでもわずかにつながった気持ちを、吸殻を拾うというさりげない芝居で見せる。夜の公園での橘の台詞とともに、忘れられない余韻を残す一本でした。