特捜最前線日記

特捜最前線について語ります。
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第260話 逮捕志願!

2006年10月26日 22時23分43秒 | Weblog
脚本 長坂秀佳、監督 藤井邦夫

捜査中に立ち寄った墓地で、叶は墓の前でハーモニカを吹く老人と出会った。数日後、雨の中で再会した叶が刑事だと知った老人は、「自分は殺人犯だ。逮捕してくれ」と訴えかける。所轄署に老人を連れて行く叶だが、所轄の刑事たちは、迷惑そうに老人を追い返す。
詳しく事情を聞くと、老人が犯人だと主張するのは15年前の事件で、殺されたのは老人の一人息子だった。だが、すでに連続通り魔の犯行として捜査は終了しており、犯行を自供した通り魔は刑務所で病死していた。所轄も老人の自供をもとに一応の捜査はしたものの、何の物証も無く、一人暮らしの老人が寂しさの余りに狂言したもの、と判断したのだった。
「私は、墓の前で、息子と妻に自首すると誓ったんです」そう訴える老人の言葉に真実を感じ取った叶は、神代の許可を得て捜査を始める。老人の息子は覚せい剤中毒者であり、薬が切れると嫁や孫娘にまで暴力を振るったため、見かねた老人が、当時起こっていた連続通り魔の犯行に見せかけて息子を殺害したのだと言う。罪の意識に苛まれ、何度も自首を思い立ったが、息子の死を嘆き悲しむ妻が不憫で自首できなかった。しかし、最近になって妻が亡くなり、やっと自首できたのだ。
時効があと数日に迫るなか、叶は物証を求め、老人に15年前の犯行の様子を繰り返し再現させる。しかし、凶器の包丁を埋めた土手は埋め立てられ、包丁を買った店は15年も前のことは覚えてない。ようやく「犯行現場から半月が見えた」という証言を引き出すが、調べたところ、犯行当夜は満月で、しかも老人が主張する方向には、当時二階建ての家が建っていて、月は見えないはずだった。現実とかけ離れた証言に、一時は叶すら老人の狂言ではないかと疑う。しかし、深夜に老人宅を訪れた叶は、息子に殺される悪夢にうなされる老人の姿を見る。15年もの間、罪の意識に苦しめられ続けた老人の心情を想い、叶は再び捜査を続ける。
問題の「半月」は、当時建っていた2二階建ての家の窓に満月の右半分だけが映ったもので、それは犯人でなければあり得ない偶然だと立証する叶。しかし、それだけでは物証にならない。時効前日になって、犯行現場からの逃走に使った自転車の存在に気づいた叶は、必死にその行方を追う。15年前の遺失物届けから、自転車が取得者の手に渡ったことを割り出すと、取得者が寄贈したという幼稚園へ。タイムリミットが迫るなか、ついに自転車を見つけ出した叶は、そのサドルの裏側に残された指紋を検出する。
半ば逮捕を諦め、妻と息子の眠る墓の前で、ハーモニカを吹く老人。その音色は、まだ幼かった息子を膝に乗せ、聞かせてやった曲だった。曲を吹き終え、墓に向かって深々と頭を下げる老人に近づく叶。救われたような表情で両手を差し出す老人に、叶は無言で手錠をかけた。

実に捜査の9割方は“徒労”。ドラマの大半が叶の無駄な行為を描いているという、信じがたいストーリー構成ですが、それもまた長坂脚本の真骨頂です。特に、「半月」を証明するために二階建ての家を再現するという「そこまでせんでも」感や、転々とする自転車の行方を追う際の畳み掛けるようなスピード感。そして老人が息子と過ごした日々を回想するセピア色の情景など、さすがは長坂と唸らされる一本です。なお、老人を演じたのは、多くの刑事ドラマで印象深いゲストを演じた織本順吉。今回も息子への愛情と良心の呵責に押しつぶされそうになる実直な老人を好演しています。



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