特捜最前線日記

特捜最前線について語ります。
ネタバレを含んでいますので、ご注意ください。

第424話 渓谷に消えた女秘書!

2008年07月29日 03時05分07秒 | Weblog
脚本 塙五郎、監督 宮越澄
1985年7月17日放送

【あらすじ】
東京郊外の渓谷で、女の全裸死体が発見される。死体は車から渓谷に投げ捨てられたらしく、顔は潰れており、身許の手掛かりは左手薬指の指輪しかなかった。その日、珍しく休暇を取っていた神代の元に報告に向かう橘と吉野。若者たちが集う店で一人酒を飲む神代を見つけるが、橘は声をかけようとした吉野を制止する。「今日は、亡くなったお嬢さんの命日だ。課長は今日だけは絶対に仕事をしない。お嬢さんの墓参りをして、お嬢さんとよく来た思い出の店で一人飲む。それも徹底的に・・・」居合わせた若い娘に、夏子の面影を見ていた神代は、若者たちに絡まれる。若者たちを追い払って報告を始める吉野に対し、神代は意外な言葉をかけた。「今日は仕事はせん。俺は仕事中毒じゃない。仕事なんか大嫌いだ。仕事しか考えん奴はもっと嫌いだ」
鑑識の結果、死体の指紋から、女の身許が判明する。女には18歳の頃から売春で逮捕歴があり、今は靴メーカーの社長秘書として働いていた。事情を聞くべく、神代自らが社長のもとを訪れるものの、靴メーカーは乗っ取り屋による株買占め騒動の渦中にあり「協力している暇はない」と拒絶される。
現場に残された塗料や目撃証言から、女の死体を捨てた車を突き止める特命課。その車は靴メーカーの課長のものであり、事件当日は社長に貸していた。「あの車は秘書に頼まれ、課長から借りてやった。運転していたのは彼女自身だ」と主張する社長。吉野は社長が犯人と決め付けるが、神代の意見は違った。「彼女は何のために車を借りたのか、そこに事件のカギがある」
収監中の女の兄を訪ねたところ、女が親の遺した土地を金に変えていたことが判明。女は兄に「この指輪を買ってくれた人のために必要なの」と語ったという。玩具のような安物の指輪だったが、女はその相手に惚れていたのだろう。「あいつは昔から、男に夢中になっては、捨てられた。なのに何度も同じことを繰り返す。バカなんです」
その後の捜査によって、女に指輪を売った露店が判明。女に指輪を買い与えたのは、やはり社長だった。だが、女が社長のために家を売った作った金はたかが知れており、それだけで乗っ取りを防ぐことはできない。女はもっと大きな目的のために、誰かに会いに行ったに違いない。女が乗っ取り屋と面識があったことを知った神代は、乗っ取り屋を見張らせるが、そこに社長が現れ、乗っ取り屋と和解する。乗っ取り屋が女を殺したという証拠をつかんだ社長が、それをネタに和解したと推測する特命課。だが、何の証拠もなかった。
会社を守るため、自分を愛した女の死すら利用しようとする社長に、神代は自身の過去を語る。家庭よりも仕事を重視した挙句、妻も娘も失った過去を。やがて、社長は神代に、女から届いた手紙を届ける。そこには、かつて女が乗っ取り屋に売春を強要されたことや、銀行と手を組んで乗っ取りを繰り返したことなど、過去の悪事が綴られていた。女の死を利用しようとしたことを認め「汚い男です、私は・・・」と語る社長を、神代は責めることはできなかった。
乗っ取り屋は逮捕されるが、その株式は銀行に引き取られ、社長の会社はやはり乗っ取られる運命にあった。だが、社長はそれでも仕事を続けると神代に語る。「私から仕事を取ったら何も残らない。笑わんでください」「私にはお説教をする資格はない。私だって、貴方と同じだ」負けると分かっている株主総会に臨む社長の後姿を、神代は黙って見送るのだった。

【感想など】
仕事に熱中し、家族を顧みなかったがゆえに、妻と娘を最悪の形で失った神代課長。その過去への悔恨を描いた一本。塙脚本もいよいよラスト2本、ということで期待していたのですが、正直言って期待はずれと言わざるを得ませんでした。塙五郎と言えばおやっさんですが、桜井や吉野、高杉の主演作でも名作を残しています。しかし、神代課長とはどうにも相性が悪いらしく見受けられます。本編でも触れている、妻の駆け落ちというショッキングな過去が語られた第239話「神代警視正の犯罪!」でも感じたように、ドラマの整合性が今ひとつであり、一人ひとりの行動がどこかチグハグな印象を受けます。

特に違和感を覚えるのが、本編の主役である神代課長の言動です。冒頭で酔って部下に醜態をさらすという貴重なシーンがありながら、次のシーンではいつもと変わらぬ姿で捜査の陣頭に立っており、「さっきのシーンは何だったの?」と思わせます。「俺は仕事中毒じゃない。仕事なんか大嫌いだ」という自己否定の台詞は、今回のドラマの核であり、非常に重要な台詞です。にもかかわらず、そうした台詞を吐いたことを何の説明もなくスルーされてしまうのは、非常にもったいなく思われました。
この台詞は、ラスト近くで社長を説得する際にも繰り返されますが、そこでの社長の返答がトンチンカンなせいもあって、さほどの感慨もなく、最後まで消化不良のままで終わってしまいます。「自分以外の誰かのために生きたいと思っても、私には、もう妻も娘もない・・・」では、今の神代課長は、何のために生き、何のために刑事という仕事に取り組んでいるというのか?社長のように、そして課長自身が語ったように「仕事を取ってしまったら、何も残らない」という後ろ向きの気持ちで取り組んでいるとは、私には思えない。刑事という仕事はそんな気持ちで取り組めるほど安っぽいものではないし、そんな課長に他の刑事たちが付いて来るとは、どうしても思えない。そもそも、そんな偽悪的な自嘲を口にすることすら課長らしくはないし、それが「娘の命日」(ちなみに、本当の命日は3月)。という感傷的にならざるを得ない日ゆえの泣き言だったとしても、他の刑事たちが(たとえばおやっさんが)「しかし、それだけではないはず」と語るといったフォローしないのも腑に落ちません。
もちろん、課長といえども超人ではなく、時には泣き言も言うし、上記の台詞だって一部は本音でしょう。ただ、そうした普段は出てこない「本音」と、いつもの颯爽とした「建前」の間に何があるのか?吉野らに醜態をさらした直後(翌日?)、いつもの神代に戻れたのは(戻ったのは)なぜなのか?どろどろした矛盾を抱えながらも、そうした内面を周囲に見せることなく、つねに颯爽と振舞う課長を支えているのは一体何なのか。そこまで描いて、初めて内面を描いた意味が出てくるのではないでしょうか?

また、ハナ肇が演じる社長については、女の過去を知っていたのかどうか、女の自分への気持ちに気づいていたのかどうか、そもそも女を愛していたのかどうかもよく分からず、言動に整合性が欠けているような印象です。ハナ肇の演技自体、典型的な叩き上げのワンマン社長を演じているのはわかるのですが、余りに典型的というか、分かり易すぎる演技がかえって空々しく、ラストで神代課長に証拠を持ってくる当たりの演技は特に白々しく思われました。結局、女が家を売って作った金を自分のものにする当たりも、どうにも納得できません。「仕事が大事」という意外には何の共通点がないこの人に、何で課長が自分を投影させたのかも、よく分かりませんでした。

さらに言えば、最も同情されるべき女秘書も、何を考えているのかよく分からない(というかしっかりと描かれていない)。なぜ、安物の指輪だけで妻になったつもりにまでなるのか?それ以前に社長との間にどのような心の繋がりがあったかが全く描かれていないので、感情移入する余地がありませんでした。課長がこの女に娘さんを投影させる理由も不明ですが、同じ年頃の娘なら、容姿や境遇を問わずに投影させてしまうのが、子供を亡くした親の常ということで(実際、酒場で似ても似つかぬ若い娘さんに夏子さんを投影させていましたし・・・)、そこは問題なしとしましょう。

批判的なことばかり長々と書いてしまいましたが、これも塙脚本への期待が高いがゆえですので、ご不快に感じた方は何卒ご容赦ください。また、私とは違った解釈をされた方もいらっしゃると思いますので、私の感想へのご批判でもかまいませんので、よろしければご意見をお聞かせください。
それはともかく、次回脚本担当話は、いよいよおやっさん退職編。これを持って塙氏も特捜を去ることになります。見逃せない一本を刮目して待ちましょう。

4 コメント

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そうか~(^^ゞ (すずめ)
2008-07-31 23:32:57
同姓として、安物の指輪でもとてもしあわせを感じてしまうのは良くわかるんですよ~♪
自分が想っている人が、自分の事を少しでも考えてくれると言う証。値段じゃなく、自分にとって最高に価値のある「宝もの」なんだと思います。
それさえあれば、もう他には何もいらない・・・その事実さえあれば、彼の為に何でも出来てしまう。
私も多分・・・そんな奴です。(^^ゞ
神代課長に関しては・・・醜態を晒した次の日に、凛としたいつもの姿に戻れたのは・・やっぱり!神代課長だからだと思います。それが出来るのが課長。
そして、それを何も言わなくても理解しているのが特命課の刑事たちなのではないか?だからこそ何の説明も無く、ストーリーが進んだのかな?と。
課長の「仕事なんか大嫌いだ」という台詞は、自己否定と言うよりは、悔恨の情をいっぱい含んだ一言なのだと感じました。
刑事と言う仕事に、誇りと、プライド、責任を持っていて、何よりも仕事を愛している。けれどそれによってなくしたものの大きさ、亡くすまでわからなかった自分への悔い。そんな風に思うのですが・・・。
ごめんなさい~~!上手く文章になりません!!
袋小路さんの様に深く見てないのかも知れません~!
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すずめさんにお返事 (袋小路)
2008-08-01 03:00:36
すずめさん、いつもコメントありがとうございます。
仰られることはよく分かりますので、どうかそんな、取り乱さないでください。

今回のエピソードは、特捜ファンであればあるほど、ついつい脳内補完してしまい、脚本の不備(と敢えて言ってしまいますが)を許してしまいがちになるような気がします。なので、いつも以上に他の方のご意見を聞かせていただきたかったので、コメントいただけて本当にありがたく思います。

「やっぱり、神代課長だから」というのは、ほんと仰るとおりだと思います。けれど、だからこそ、凛とした態度を貫ける強さの核心に触れて欲しかったと思うのです。辛い過去ではなく、希望ある未来を見つめて、若い刑事たちを導いているのだと思いたいですから。
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今回、いちばん面白かったこと (鬼親爺)
2008-08-01 10:26:58
高級クラブでホステス(複数)と飲んでいた乗っ取り屋が
靴会社を乗っ取ったらみんなに靴をやるぞ
と豪語したあとで、和服のホステスに向かって
「君はダメだよ、草履だから。」
とボソッと言っていましたが、あれはアドリブだったんでしょうか。
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鬼親爺さんにお返事 (袋小路)
2008-08-02 00:09:24
特に根拠はないですが、そんな細かい、かつ本筋に関係のない台詞までいちいち脚本に書いているとも思えないので、おそらくアドリブではないでしょうか。脚本には「酔ってホステスに自慢話をする乗っ取り屋」とかト書きで書いているだけとか・・・真相をご存知の方がいらっしゃれば、情報をお寄せください。

ちなみに、私は酔って偉そうになる人間は嫌いなので、いくら面白くても笑えませんでした。

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